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2017/1/29 14:00

年輩の鉄道ファンにはたまらない“吊り掛け駆動車”が躍動! 普通鉄道の路線を路面電車が走るのは「ちくてつ」だけ

全国を走る路面電車の旅 番外編「筑豊電気鉄道」(福岡県)

 

福岡県北九州市の黒崎駅前と直方市の筑豊直方駅(ちくほうのおがたえき)の間、約16キロメートルを結ぶ筑豊電気鉄道。路線は全区間が専用軌道で道路上は走らない、鉄道事業法が適用された普通鉄道の仲間である。それにも関わらず、走るのは路面電車形の車両のみだ。

 

専用軌道のみを走る路面電車の路線は、ほかに東京都内を走る東急世田谷線がある。なお、東急世田谷線は軌道法が適用された路線で、法律上も路面電車として運行されている。一方で、普通鉄道なのに路面電車が走る「筑豊電気鉄道」。このようなスタイルの鉄道は日本で唯一だ。そこで今回は、地元では「ちくてつ」として愛される不思議な路線「筑豊電気鉄道」に注目してみた。

↑JR黒崎駅に隣接して設けられる黒崎駅前。バス乗り場がすぐ横にあり、乗り換えにも便利だ
↑JR黒崎駅に隣接して設けられる黒崎駅前。バス乗り場がすぐ横にあり、乗り換えにも便利だ

 

【歴史】北九州〜直方〜福岡を結ぶ西鉄路線として計画

いまでこそ普通鉄道として走る筑豊電気鉄道だが、成り立ちは接続していた西日本鉄道(西鉄)の北九州線の影響が大きい。西鉄北九州線は北九州市内を走っていた軌道路線で、1906(明治39)年に馬車鉄道として路線の一部、北方線が開業した(当時は小倉軌道合名会社)。路線は小倉電気軌道(後に九州電気軌道となる)に譲渡され、1914(大正3)年に門司〜折尾間を走る北九州本線が開業した。その後、西日本鉄道の北九州線となり、2000(平成12)年に廃止された。

↑直方市側の終点駅・筑豊直方駅。当初は北九州〜福岡間を走る路線の中間駅として計画された
↑直方市側の終点駅・筑豊直方駅。当初は北九州〜福岡間を走る路線の中間駅として計画された

 

筑豊電気鉄道の路線は、古くは小倉電気軌道が計画した路線で、西鉄がその計画を引き継いだ。当初、役所に出願された路線計画は黒崎〜福岡間の営業。直方を通り北九州と福岡を結ぶという“壮大な”路線計画だった。1951(昭和26)年には、その運営会社として現在の筑豊電気鉄道(西鉄の子会社)が設立された。

 

路線は1956(昭和31)年に、貞本駅(現・熊西駅)〜筑豊中間駅間が開業。1959(昭和34)年には、筑豊直方駅まで路線が延ばされた。そして西鉄北九州線から、直接、路面電車が乗り入れる形で運行が開始された。

 

貞本〜筑豊直方間は第一工区にあたる区間だったが、その後、筑豊直方〜福岡間は着工されず計画が頓挫している。さらに2000年には、筑豊電気軌道へ乗り入れていた西鉄北九州線が廃止された。北九州線の路線の一部だった黒崎駅前〜熊西(旧・貞本)駅間が、その後、筑豊電気鉄道の路線に組み込まれて今日に至っている。

↑筑豊地方を南北に流れる一級河川の遠賀川。電車は筑豊直方駅の手前で遠賀川橋梁を渡る
↑筑豊地方を南北に流れる一級河川の遠賀川。電車は筑豊直方駅の手前で遠賀川橋梁を渡る

 

【車両】新旧の技術が混在する3000形や超低床の5000形に注目!

筑豊電気鉄道が開業した当時は、西鉄北九州線の電車がそのまま乗り入れていた。しばらくの間、筑豊電気鉄道は自社車両を持たなかったが、1976年に初めて西鉄北九州線の路面電車を譲り受けて自社車両を保有することに。北九州線が廃止され、乗り入れがなくなった後も、譲り受けた路面電車を使い続けた。そうした経緯もあって、車両はいまも路面電車の形のままとなっている。

 

車両は3両連接車の2000形、2両連接車の3000形、2015年に登場した5000形の3タイプが走る。一番、車歴が古いのは2000形で、西鉄から1976年と1980年に譲渡された車両だ。丸みを帯びた外観、クラシックな前照灯、前面の3枚窓、大きなパンタグラフと、路面電車界の 「強者(つわもの)」といった装いだ。車掌が乗務して走ることが必要で、現在は主に朝夕のラッシュ時に、黒崎駅前〜楠橋間を走っている。新車の導入で、稼働の機会が減りつつあり、早めに乗っておきたい車両でもある。

↑西鉄北九州線の1000形を3車体連接車に改造した2000形。新車の導入で出番が減りつつある
↑西鉄北九州線の1000形を3車体連接車に改造した2000形。新車の導入で出番が減りつつある

 

主力として走るのが3000形で、1989年から1996年にかけて製造された。2000形にくらべて四角い車体が特徴。ボディは新しいが、2000形の2連接車の台車や機器を利用して作られた。古い機器を流用したこともあり、吊り掛け駆動というクラシカルな構造となっている。

 

走り出すと“グーン”という低音が床下から聞こえ出し、微震動が足先に伝わる。まさに年輩の鉄道ファンが、懐かく思い聞き惚れる音である。吊り掛け駆動である一方、補助の電源装置にはVVVFインバータを使っている。そのため、夏期など冷房を使用している時には、そうしたVVVFならではの高音が耳に届く。新旧の機械音が入り交じる、何とも楽しい電車なのだ。

↑3000形の3005号編成は2016年秋、開業当時のカラー(マルーン&ベージュ)に変更された
↑3000形の3005号編成は2016年秋、開業当時のカラー(マルーン&ベージュ)に変更された

 

といったように筑豊電気鉄道は、ごく最近まで走る電車がすべてクラシカルな吊り掛け駆動車のみという、珍しい鉄道会社だった。だが、そんな筑豊電気鉄道に転機が訪れた。2015年に四半世紀ぶりに新型電車が導入されたのである。

 

それが超低床の5000形。アルナ車両製の愛称“リトルダンサー”シリーズの車両で、正面は曲面1枚ガラス。なかなかスタイリッシュな顔立ちが特徴だ。床面はこれまでの車両よりも約40センチさがり、ホームとの段差をほぼ解消。乗り降りがしやすくなった。すでに2編成が登場、2018年3月までには4編成が導入される予定だ。

↑2015年3月に導入された5000形。沿線の3市の花に共通するイメージ、ピンク色に塗られた
↑2015年3月に導入された5000形。沿線の3市の花に共通するイメージ「ピンク」に塗られた

 

↑5000形第2編成は沿線3市の明るい未来をイメージして「ライトグリーン」に塗装された
↑5000形第2編成は沿線3市の明るい未来をイメージして「ライトグリーン」に塗装された

 

【沿線】便利な北九州の通勤・通学路線ーーLRT路線として新たな姿も

路線は福岡県の北九州市、中間市(なかまし)、直方市の3つの市内を走る。黒崎駅前から電車に乗ると、熊西駅まではJR鹿児島本線に沿ってしばらく走行。その後はJRの路線から離れ、三ケ森駅付近までは北九州市八幡西区の住宅地内へ。

 

朝夕は、通勤・通学に利用する人が目立つ。八幡西区内の駅同士の間隔は0.5〜0.9キロと短く、住む人にとって使い勝手が良い路線だ。さらに、平日の黒崎駅前〜筑豊中間駅間を走る電車が多く、朝夕は5〜10分間隔、日中でも12〜13分間隔とかなり便利だ。西山駅を過ぎると北九州の郊外住宅地の趣が強くなり、沿線には大型商業施設が立つ。

↑福岡市への延伸を考え、高架橋上に作られた筑豊直方駅。駅前はやや閑散とした印象だった
↑福岡市への延伸を考え、高架橋上に作られた筑豊直方駅。駅前はやや閑散とした印象だった

 

路線を南下すれば、風景が変わり、筑豊香月駅(ちくほうかつき)付近は田園風景が広がる。楠橋駅(くすばしえき)には筑豊電気鉄道の車両基地があり、2000形などの姿も庫内に見つけることができる。つづく、楠橋駅〜筑豊直方駅間は電車の本数が減り、15〜25分間隔での運行となる。遠賀川を渡る橋梁を越えれば間もなく終点の筑豊直方駅だ。

 

筑豊電気鉄道は国内では普通鉄道に分類されているが、ヨーロッパで普及しているLRT(ライトレールトランジット)という都市鉄道のスタイルに近い。LRTはヨーロッパなどで、路面電車形の車両で運行される都市部と郊外を結ぶ電車である。普通鉄道にくらべて、車両が軽量であることを生かした鉄道だ。LRT感覚の新型車両も導入した筑豊電気鉄道。利便性はさらに高まっているといえるだろう。

 

ひとつ残念なのは、筑豊直方駅とJR直方駅(直方市の中心部にある)が離れていること(徒歩で約10分かかる)。そのせいなのか、筑豊中間駅〜筑豊直方駅間の電車の本数も減り、乗車率は落ちる傾向がうかがえる。直方市では、両駅を結ぶべく、調査を開始するなど動きを始めている。さらに利便性の高いLRT路線として活用していくためにも、ぜひとも将来、JR直方駅と筑豊直方駅が結ばれることを祈りたい。

 

【TRAIN DATA】

路線名:筑豊電気鉄道線

運行事業体:筑豊電気鉄道

営業距離:16.0km

軌間:1435mm

料金:180円〜430円(全国相互利用交通系ICカードも利用可能)

開業年:1956(昭和31)年

*黒崎駅前〜熊西駅間は西鉄の前身・九州電気軌道の北九州線として1914(大正3)年に開業