“空のF1”とも呼ばれる「レッドブル・エアレース千葉2017」の決勝が6月4日、千葉市美浜区の幕張海浜公園で開催され、唯一の日本人パイロットとして期待を一身に背負っていた室屋義秀選手が2016年に続いて見事2連覇を達成。2017年シーズンとしても第2戦のサンディエゴ戦に続く2連勝を飾った。
そもそもエアレースって何?
次の動画は予選を流れを収録したもの。こちらをご覧いただけば、エアレースがどんなものかイメージしやすいだろう。
本大会では14名の全パイロットが対戦式で戦い、最後に残った4名が決勝でタイムを競い合う形を採る。今年は4日午後1時からスタートし、全員が参加する「Round of 14」から始まってその勝者7名と敗者のなかから最速タイムを記録した1名が「Round of 8」へと進む。そして、「Round of 8」で絞り込まれた4名が優勝者を決定する「Final 4」で戦うという流れだ。
0.007秒差で勝ち進む緊迫した展開に
予想タイムは55秒前後での争いになると見られていた通り、「Round of 14」の勝者は55秒台にひしめき合う結果となった。しかも、この日は風が強めに吹いており、どの選手も機体のコントロールにかなり苦労した様子だった。
そのなかで室屋選手は「Round of 14」で55秒90を記録し、対戦相手となったペトル・コプシュタイン選手(チェコ)とは0.007秒差での勝利。ペトル・コプシュタイン選手もその結果を反映して「Round of 8」へ進むことができており、まさに薄氷の勝利だったといえるだろう。
続く、「Round of 8」では最初のヒートで室屋選手が登場。54秒964と54秒台の好タイムをマークしたが、途中のパイロンゲートの通過で水平姿勢が取れていなかったことで2秒のペナルティを課せられ、最終的には56秒964という結果。このとき、誰もが「ああ、これで終わったか……」と思ったはずだ。
しかし、ここで室屋選手に神風が吹いた。対戦相手のマット・ホール選手(オーストラリア)はタイムこそ55秒295を記録したものの、ホール選手も規程より高くゲートを通過したとしてペナルティ。室屋選手と同じく2秒が加えられて最終タイムは57秒295。この時点で室屋選手の「Final 4」への進出が決まった。
難しいコンディションで安定感を発揮! ライバルは続々ペナルティに
「Final 4」の時間帯になると、それまでも強めだった風が一段と強まってきた。そんな状況下で、室屋選手は「Final 4」でも最初にアタックすることに。どうにかペナルティなしで55秒288の好タイムをマークしたが、このタイムだと「Final 4」に進んだ選手たちの実力からして、楽に超えられてしまう可能性が高い。会場内はこの時点でちょっと不安なムードに包まれた。
しかし、強風が吹いていたことが幸いしたのか、あるいは、そこそこのタイムを記録した室屋選手を追いかけるのに力が入ってしまったのか、続く選手たちが続々とペナルティを課せられる結果となった。
2番目にアタックしたペトル・コプシュタイン選手もペナルティなしの55秒846で通過したが、室屋選手よりもタイムで劣るため、この時点で室屋選手の3位以上が確定。ここで会場内の雰囲気はかなり良くなってきたが、まさに神風が吹いたと実感したのはそのあとだ。
3番目のマティアス・ドルダラー選手(ドイツ)は通過タイムこそ54秒943と54秒台を出したものの、途中でパイロンにヒットしたために3秒のペナルティ。公式タイムは57秒943となって、この時点で室屋選手の2位以上が確定。
最後は、この日、立て続けに54秒台をたたき出していたマルティン・ソンカ選手(チェコ)。この好調さを維持されるようだと室屋選手の優勝はない。案の定、通過タイム54秒533を記録する速さを見せたが、なんと途中のゲートを通過する際の水平姿勢が足りなかったとの理由で2秒のペナルティ。結果、マルティン・ソンカ選手の公式タイムは56秒533に終わり、この瞬間、室屋選手の優勝が決まった。
この事実が伝えられると、驚きとともに笑顔いっぱいで喜ぶ室屋選手の姿がスクリーンに映し出され、そこには一緒に観戦していた家族の姿も。会場内はもちろん大きな歓声と喜びの拍手に包まれた。
ワールドチャンピオンシップでも首位に浮上
レース後は、ハンガー(格納庫)と滑走路がある浦安市で表彰式が行なわれたあと、レース会場にあるメディアセンターで1位の室屋義秀選手、2位のペトル・コプシュタイン選手、3位のマルティン・ソンカ選手による記者会見が行われた。
室屋選手は、「Round of 8あたりから風が強まり、非常にコース取り難しくなった。このコンディションでの対応に苦労してペナルティを受けたがFinal 4ではより速いタイムを狙うのではなく、確実に飛ぶことを重視した。今回は苦しい戦いではあったが、最終的にはそれが勝利につながったのだと思う」とレースを振り返って分析していた。
今回のレースを終えて室屋選手はワールドチャンピオンシップのポイントランキングで1位に浮上。同じ30ポイントを獲得しているマルティン・ソンカ選手よりも勝利数で上回り、1位となっている。残りはまだ5戦あるが、昨年から続く室屋選手の好調さを振り返れば、今後にも大いに期待してよいだろう。
◆レッドブル・エアレース千葉 2017の最終結果
1位:室屋義秀(日本/チーム・ファルケン)
2位:ペトル・コプシュタイン(チェコ/チーム・シュピールベルク)
3位:マルティン・ソンカ(チェコ/レッドブルチーム・ソンカ)
4位:マティアス・ドルダラー(ドイツ/マティアス・ドルダラー・レーシング)
5位:マイケル・グーリアン(アメリカ/チーム・グーリアン)
6位:マット・ホール(オーストラリア/マット・ホールレーシング)
7位:ピート・マクロード(カナダ/チーム・マクロード)
8位:カービー・チャンブリス(アメリカ/チーム・チャンブリス)
9位:ミカエル・ブラジョー(フランス/ブライトリング・レーシング・チーム)
10位:フアン・ベラルデ(スペイン/チーム・ベラルデ)
11位:フランソワ・ルボット(フランス/FLV・レーシング・チーム・12)
12位:ピーター・ポドランセック(スロベニア/ピーター・ポドランセック・レーシング)
13位:ニコラス・イワノフ(フランス/チーム・ハミルトン)
14位:クリスチャン・ボルトン(チリ/クリスチャン・ボルトン・レーシング)
◆ワールドチャンピオンシップ(第3戦終了時ランキング)
1位:室屋義秀:30pt
2位:マルティン・ソンカ:30pt※
3位:マティアス・ドルダラー:23pt
4位:ペトル・コプシュタイン:17pt
5位:ピート・マクロード:14pt
6位:マイケル・グーリアン:14pt
7位:フアン・ベラルデ:13pt
8位:ピーター・ポドランセック:12pt
9位:カービー・チャンブリス:10pt
10位:ニコラス・イワノフ:10pt
11位:マット・ホール:8pt
12位:クリスチャン・ボルトン:4pt
13位:ミカエル・ブラジョー:4pt
14位:フランソワ・ルボット:3pt
※室屋選手と同ポイントだが、今シーズンの勝利数で室屋選手より劣るために2位