ベテラン自動車ライターの永福ランプこと清水草一とフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をするクルマ連載。今回は、カーマニア垂涎の傑作スポーツモデル! シビック タイプRをチェックしました。
【PROFILE】
永福ランプこと清水草一:日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖です。自動車評論家としてはもはやベテランの域で、様々な自動車専門誌や一般誌、Webなどに寄稿し、独自の視点でクルマを一刀両断しまくっています。本連載をまとめた「清水草一の超偏愛クルマ語り」も先日発売に。
安ド :元ゲットナビ編集部員のフリーエディター。MJブロンディを慕い「殿」と呼んでいる。
【今回のクルマ】ホンダ シビック タイプR
SPEC ●全長×全幅×全高:4560×1875×1435㎜ ●車両重量:1390㎏ ●パワーユニット:1995㏄直列4気筒DOHCターボエンジン ●最高出力:320PS(235kW)/6500rpm ●最大トルク:40.8㎏-m(400Nm)/2500〜4500rpm ●カタログ燃費:12.8㎞/ℓ ●価格:450万360円
安ド「殿! このクルマ、まるでロボットアニメのマシンですね!」
清水「うむ。かつてランサーエボリューションが〝ガンダム系”の代表だったが、そのランエボもいまはない。ところがこのシビックタイプRは、かつてのランエボ以上のガンダム系デザインと言ってよかろう!」
安ド「顔もガンダムっぽいですけど、ルーフ後端についてるフィンがものスゴいです!」
清水「ものスゴいな!」
安ド「殿はこんな子どもっぽいデザインのクルマ、お嫌いですよね?」
清水「……いや、このクルマに関しては、決して嫌いではない。正確には、好きになってしまいそうだ」
安ド「マジですか!」
清水「なんだかんだいって、我々カーマニアは中身を重視する。どんなに『クルマはカッコ』と思っていてもな……」
安ド「つまり、中身がいいってことですか?」
清水「うむ。コイツの走りは本当にものスゴい。まさに非日常のカタマリ。つまりフェラーリ的なのだ」
安ド「えっ!美の化身であるフェラーリに似てるんですか!?」
清水「見た目は似ても似つかないが、中身の方向性は同じ。どこまでも速く、そして過剰に過激なのだ」
安ド「なるほど!」
清水「ボディのしっかり感、シャシー性能もとてつもないが、私が特に感じ入ったのは、2リットルターボエンジンのフィーリングだ」
安ド「乾いたいい音がしますね!」
清水「音も悪くないが、回せば回すほどターボパワーが高まる過激な特性にホレた。いまどきのダウンサイジングターボにはない、古典的なレーシングターボ。たとえれば、フェラーリF40のような」
安ド「殿!そんな神車の名前を口にしていいんですか!」
清水「低速トルクはたっぷりあり、実用性満点でありながら、本領を発揮するのは4000回転から上。そのまま7000回転まで、天井知らずにパワーが盛り上がる。思わず『このまま死んでもいい』と思ってしまうほどだ」
安ド「ええっ!フェラーリに命を賭けた殿が、ホンダ車で死んでもいいんですか!」
清水「ホンダはやはりエンジンメーカーだ。つまり、魂はフェラーリと同じ。ミニバンや軽では影を潜めたその本質が、このタイプRに込められている」
安ド「なるほど!ところで殿。限定モデルだった先代のタイプRのエンジンとは、かなり違いますか?」
清水「スペック的にはわずか10馬力アップなのだが、フィーリングは、はるかに澄んでいてピュア。フェラーリ的に感じたぞ」
安ド「スペックではなくフィーリングなんですね!そういえば6速MTも、ストロークが短くてコクコク入るし、メカニカルな感覚が心地良かったです!」
清水「まるでレーシングカーだな」
安ド「そうなんです。速すぎてアクセル全開にできません!」
【注目パーツ01】6速トランスミッション
回転数自動同期システム付き
歴代のタイプR同様、アルミ製シフトノブを備えた6速マニュアルです。変速時に回転数を自動で合わせてくれるので、ダウンシフトをカッコよく決められます。下部には、シリアルナンバー入りアルミ製エンブレム付きです。
【注目パーツ02】カーゴエリアカバー
珍しく横から引っ張るタイプ
“トノカバー”と呼ばれる荷室上部のフタが、このクルマでは珍しく横からビヨヨーンと伸びてきます。おかげでハッチバックに連動して開閉はできませんが、ラッピングフィルムみたいで、出し入れすると楽しい気分になります。
【注目パーツ03】3本出しマフラー&ディフューザー
見た目と実力を兼ね備えたリアまわり
高出力モデルというと左右2本出しマフラーが定番ですが、これは中央3本出し。フェラーリF40や458イタリアを髣髴とさせ、攻撃的で素敵です。両脇の黒いフィンは整流板で、車体の下を流れてきた空気を整えます。
【注目パーツ04】スリット
空気の流れを整えるエアロパーツ
ボンネットの上に空気を取り入れるためのスリット(穴)があります。この空気でエンジンを冷やすのかと思いきや、どうもフロントタイヤ後方のスリットから抜ける構造のようです。空気の流れを大切にしているのですね。
【注目パーツ05】20インチ30扁平タイヤ
大径サイズ化により高性能を発揮
ひと目見たときの違和感はなんだろうと思ってよく見ると、ものすごくタイヤが薄いです。「30扁平」というと、ひと昔前はスーパーカー用だった超扁平サイズ。見た目に違わずスーパーカー並みのパフォーマンスを実現してくれます。
【注目パーツ06】フロントフェイス
メカニカルな雰囲気のロボ顔
どちらかといえばさっぱり顔だった先代モデルと違い、今作は戦闘的で“ロボット感”溢れる雰囲気となりました。このロボ顔が嫌な人は先代型をおすすめしますが、先代型の中古車も人気が高く、価格はなかなか下がりません。
【注目パーツ07】ドライブモードスイッチ
その日の気分でモードを変える
「タイプRでもたまには気を抜いて走りたい!」人向けにコンフォートモードを備えました。逆に、「もっと速く! 誰よりも速く!」と望む人には+Rモードもあります。ハンドリングや乗り心地などの味付けが変わります。
【注目パーツ08】タイプRシート
高いホールド性を実現する形状
やはりタイプR伝統の赤いバケット型(体を包み込む形状の)シートを備えています。体の大きい人にとっては窮屈そうですが、体重80キロ超えのぽっちゃりな安ドでもすっぽり入りましたので、大丈夫だと思います。
【注目パーツ09】大型リアスポイラー&ボルテックスジェネレータ
抵抗を抑えて空気の流れを整える
先代モデルもリアスポイラーは大型でしたが、このようなデコボコは付いていませんでした。このリアウインドウ上部についているデコボコが、走行時にルーフ上に流れる空気を整えて効果的にリアスポイラーに導くのです。
[これぞ感動の細部だ! VTECターボエンジン]
レーシングカーのようなレスポンス
回せば回すほどパワーが溢れてくる超高回転型の高出力エンジンで、非常に官能的です。まるでピュアレーシングカーのような走りを実現しながら低速トルクもしっかりあって乗りやすい、近年まれに見る傑作エンジンであります。ちなみに北米では、モータースポーツに参戦する顧客向けに、このエンジンを単体で販売するのだとか。スゴい!
【参考にした本】
タイトル:清水草一の超偏愛クルマ語り
価格:926円+税