「踏切警報灯」は視認性を考えて場所ごとに使い分けされていた
ここからは、踏み切りに施された安全対策を見ていこう。これらを把握しておくことで、いざというときに落ち着いて行動できるようになるだろう。まずは赤く点滅する踏切警報灯の話題から。
京王電鉄の場合、踏切警報灯には次の写真のようなタイプが使われている。大きく分けて、片面形と全方向形、両面形の3種類だ。古くからある片面形だが、「老朽化に伴う更新では片面形から全方向形へ、もしくは両面形への変更を基本としています」と京王電鉄では話す。
片面形は片側のみ、全方向形はその名前のとおり360度、どこからでも点滅していることが確認できる。両面形は表裏の両側から見える形だ。古くから使われてきた片面形に比べて、視認性というポイントでは全方向形と両面形の2タイプのほうが優れていることは言うまでもない。
さらに京王電鉄の踏切では、視認性を向上させるために、形の違う踏切警報灯を併存させている箇所がある(上の写真の右下がそれにあたる)。この場所では、線路と交差する道に加えて、線路沿いに側道がある。ちょうど街路灯の柱があり、側道から踏切警報灯が見難いことから、全方向形と片面形を併存させている。
筆者が京王電鉄京王線の高幡不動駅 → 笹塚駅の間にある70か所の踏切警報灯を調べたところ(踏切北側のみ)、全方向形が50%近くと圧倒的に多く、従来からある片面形が38%と減りつつあることがわかった。なお、両面形は10%と数は少なめだった。
遮断機のトラブルで多い「遮断かん」の破損を防ぐ工夫
次の写真は、東海地方のある路線で見られた踏切のトラブル例だ。遮断機がしまりつつあるのに、クルマが無理に渡ってしまったらしく、踏切を遮断する棒「遮断かん」が完全に折れ曲がっていた。このような状態になると、保安要員が現地へ出向き、修理をしない限り、電車は踏切の手前で停車、さらに踏切前後で徐行運転をせざるをえない。実際にこの路線では列車が大幅に遅れ、また付近の踏切がなかなか開かない状態になっていた。
鉄道会社ではこのような遮断機のトラブルに、どのように対応しているのだろうか。
まずは遮断かんを動かしている電気踏切遮断機と、遮断かんをつなぐ部分に「遮断かん折損防止器」という機器を取り付けていることが多い。この防止器を付けることで、多少の角度の折れ曲がりには耐えられる仕組みとなっている。
とはいえ限界を越えると上の例のように鉄道の運行に支障をきたし、ほかのクルマや歩行者に迷惑をかけることになってしまう。踏切事故の原因のなかでもっとも多いのが直前横断で、全体の56.5%を占めている(国土交通省調査)。クルマの運転をしているときは、当たり前だが閉まりかけた踏切の無理な横断は慎みたい。
一方、高齢者が(踏切の内側で)遮断かんを前にして立ち往生しているような場合は、手で遮断かんを上にあげて、高齢者を踏切の外へサポートしたい。筆者も自転車を押す高齢者が遮断かんの手前で動けなくなっていた際に、遮断かんを持ち上げて外に出られるよう手助けしたことがあった。人が通るために遮断かんを持ち上げるぐらいならば、大概の踏切には遮断かん折損防止器がついていて、折れることはまずないといっていい。
京王電鉄の場合は、まず遮断かん折損防止器の装着に加えて、FRP(繊維強化プラスチック)という、かたい素材の遮断かんを使っている。それでも、クルマが遮断かんに引っかかったりして、折れることがある。折れた場合は、すぐに保守要員が現場に急行して予備品と交換するそうだ。
さらに最近ではスリット形遮断かん、屈折ユニットといった、折れ曲がりの衝撃を緩和する遮断かんの導入を進めているということだった。
踏切の動作状況を運転士に知らせる「踏切動作反応灯」
踏切がしっかり閉まっているかどうか、これを運転士に知らせるのが踏切動作反応灯だ(京王電鉄社内では「踏切遮断表示灯」と呼んでいる)。踏切動作反応灯の点灯によって、踏切が正常に作動していることがわかる。万が一、停電や故障で踏切が可動していない場合には、この表示が消えたままとなる。
ちなみに、この踏切動作反応灯は、鉄道会社により形が違っている。
ところで、上の京王電鉄の踏切動作反応灯の写真に写り込むランプ(踏切動作反応灯の上)は何だろうか?
これは踏切の安全を守るために欠かせない特殊信号発光機というもの。踏切に設置された非常ボタン(正式には踏切支障報知装置と呼ばれる)が押されたとき、または踏切障害物検知装置(詳細は後述)が障害物を検知したときに、この発光機が赤く光る。鉄道会社によっては、棒状のもので知らせる例もあるが、いずれのタイプも、赤い光がぱっと輝き、遠くからでもよく見える。
非常ボタンを押されたら、この特殊信号発光機が発光して運転士に通知、さらにATC装置(自動列車制御装置)が作動、走る電車の減速が自動的に行われる。2重の安全対策が施されているわけだ。
踏切内でクルマが立ち往生、または高齢者が踏切内で立ち往生していて動けない、といったトラブルが生じたときには、いち早く非常ボタンを押して、運転士や鉄道会社へ知らせることが大切だ。
非常ボタン以外にも障害物を検知して知らせる仕組みが
利用者のあまり目に触れないところで、踏切の安全を守っている装置が踏切障害物検知装置(以下、障検・しょうけんと略)だ。障検のなかでもっとも普及しているのが、光センサー式の検知装置だ。踏切の左右両側に、銀色の柱が数本、立っている姿を目にしたことのある人もいるのではないだろうか。これがその検知装置だ。
赤外線やレーザー光線を発光器から出し、もう一方の側に立つ受光器でこの信号を受ける。赤外線やレーザー光線が途中で遮られ、踏切内にクルマなどの障害物があることが検知されると、非常ボタンが押されたときと同じように特殊信号発光機が光り、さらにATC装置が作動して、車両が減速される。
光センサー式の検知装置は、複数の装置を立てて、障害物を検知する。とはいえ、赤外線やレーザー光線を照射する部分が限られている。元々、クルマなどの障害物の検知を前提にした装置のため、踏切内に人がいたとしても、その検知は難しい。
この検知装置に比べて高度な検知が可能にしたのが「三次元レーザーレーダ式(3DLR)」と呼ばれるシステム。踏切脇の支柱上に箱形の装置が設置されていて、この箱からレーザー光が照射され、踏切内の障害物を検知しようというものだ。障害物が踏切内に留まっている場合、クルマだけでなく、条件によっては人まで感知できるように検知の精度が高まっている。
ちなみに京王電鉄では踏切障害物検知装置の設置割合は踏切全体の63%だとされる。歩行者専用の踏切もかなりあるので、クルマが通行できる踏切のうち、多くが何らかの装置を備えているわけだ。ちなみに検知方式は光センサー式の検知装置(HB形と呼ばれるものやレーザー式)を多く使用しているが、一部に三次元レーザーレーダ式も設置されている。
踏切の保安設備がない「第4種踏切の事故」が目立つ
ここまでさまざまな安全対策について見てきたが、踏切は、その保安設備により第1種、第2種、第3種、第4種の全4種類に分けられている。踏切警報器や自動遮断機が付いている踏切は第1種踏切とされる。第2種踏切は踏切保安係が遮断機を操作する踏切で、現在はすでに国内にない。第3種踏切は自動遮断機がなく、踏切警報器のみの踏切だ。
そして第4種踏切は踏切警報器などの保安設備がなく、足元に踏み板が設けられ渡れるようになっている形のものだ。ちなみに大手私鉄の踏切は、第4種は非常に少なく、今回紹介した京王電鉄はすべての踏切が第1種で、第4種は1つもない。第4種は、列車の運行本数の少ない地方の鉄道路線に多い。
数で言えば全国の3万3432箇所(国土交通省平成27年度調査・路面電車の路線も含む)ある踏切のうち、第4種は2864箇所で、0.085%でしかない。
ところが、第4種踏切で起きた事故が、踏切事故全体の13.9%を占める。今後、どのような対策を施していけばいいのか。近隣の人たちにとって、欠かせない第4種踏切もあり、安全対策が模索されている。