「働くクルマ」は子どもたちから羨望の眼差しを受けるものですが、特に消防車はその最たる存在と言って良いでしょう。しかし、一口に消防車と言っても消防ポンプ車、はしご車、キャビンの形状など様々あり、さらに最新技術が投入され、年々進化を遂げています。今回は消防車開発のトップメーカー、モリタの石橋正行さんの案内で、子どもにドヤ顔できる消防車の最新事情をご紹介します。
これからの消防車は「3.5t未満」で威力発揮がテーマ
――消防車と言っても、様々なタイプがありますよね。
石橋正行さん(以下、石橋) はい。大きく分けると、積載車と消防自動車の2つです。積載車は、トラックのエンジンとは別体で駆動させるポータブルの消防ポンプを搭載したもの。一方の消防自動車は、トラックの走行用のエンジンを使って消防ポンプを回すものです。
この2つが基本で、さらにはしごを取り付けたもの、破壊放水機能を取り付けたものなどがあります。
――特に近年、モリタで開発を進めている消防車のモデルはどんなものですか?
石橋 小型の消防車開発ですね。2017年3月12日の改正道路交通法の施行により、これから若い方が免許を取った場合、3.5t未満の消防車しか乗れなくなります。特に街の消防団というのは、一般市民で構成されていますから、そういった人は普段から3.5t以上の車を運転できる免許をわざわざ取ることは極めて少ないわけで、この問題を解消するために3.5t未満の消防車開発に力を注いでいます。
また、昨年、大型物流倉庫の火災がありましたが、消火活動が難航した要因は、窓などの開口部が少ないうえに、内部の面積が広いこともあり、消火活動が難航した立地なんです。窓がないような建物では、窓なり壁なりを突き破って消火活動を行えるような消防車の開発にも注力しています。
多様化する災害現場を想定して、進化する消防車たち!
――多様化する災害現場を想定しているということですね。
石橋 そうです。はしご車にしても、どんな場所に車両を停められるかはわかりませんよね。ときには傾斜地にはしご車を停めないといけないこともあります。
そういった場合を想定して、地面が斜めであっても、はしご装置を水平に自動矯正するジャイロターンテーブルを搭載したはしご車「SUPER GYRO LADDER」という消防車もあります。従来からこのタイプはあったのですが、これまでは傾斜7度しか対応できなかったのが、最新モデルでは11度まで対応できるようになるなど、より便利になっているんですね。
また、はしご車のバスケットにしても、車いすでも乗り降りできるよう大きな物を搭載できるようにするなど、あらゆる状況を予測して、より細やかな開発を行っているところです。
はしご車の価格、2億3千万円は安いか高いか?
――素朴な疑問ですが、はしご車は救助もでき、消火活動もできるものと考えて良いですか?
石橋 はい。はしご車は、高所での救助活動に加え、バスケットに取り付けられた放水銃から放水することも可能です。はしご車は、国内だけに留まらず、中国をはじめとするアジア諸国で活躍しています。
こちらにあるはしご車も実は中国市場向けなんですよ。こちらのはしご車は、メルセデス・ベンツのシャシを使用したはしご車です。はしごの下に伸縮水路が付いていて、バスケットの先端にある放水銃から、放水することが可能です。
――ちなみに、このはしご車は、価格はどれくらいですか?
石橋 2億3千万円くらいですね。
――2億3千万円! これは高いほうですか? 安いほうですか?
石橋 お客様の仕様によって異なるため一概には言えませんが、中国の「CCC」という検定試験を受験したモデルですので、適性な価格だと考えています。
【中国向けはしご車に実際に乗ってみた!】
水以外で消火活動を行う消防車も
――やはり消火活動は放水が基本なのでしょうか?
石橋 基本的には水か泡ですね。ただし、近年は水だけでなく、気体によって火を消すことができる消防車の開発も行っており、こういったモデルも注目されています。
我々人間が吸っている空気は約8割が窒素で、約2割が酸素ですが、この酸素濃度のバランスを調整し、窒素濃度の高い空気にしてあげると、火を消すことができます。ただし、現場で人が倒れてしまっては困りますから、人がギリギリ生存できる酸素濃度によって、水以外で火を消すということもやっています。
――こういった水以外を使って火を消すというのは、すでに現場でも使われているのですか?
石橋 東日本大震災以降、原子力関連施設で、既設消防設備の損傷時のバックアップ消火システムとして導入されています。こういった経験からも近年注目を浴びているタイプです。
原子力関連施設だけでなく、サーバールームや美術館といった場所で火災が起きた際は、できる限り水を使わずに消火したいですよね。このシステムを活用しあらかじめ
窒素富化空気を充填しておくことで発火しない環境を作ることもできるんですよ。こういった様々な状況を想定して、開発を進めています。
進化し続けるモリタの消防車
――今回の「東京国際消防防災展2018」では数多くの消防車、消防用品が出展されていますが、このなかでモリタさんはどれくらいのシェアになるのですか?
石橋 消防車では全体の57%程度です。日本の消防技術とともに成長してきたモリタですが、それまでの業界になかった機能を開発し、提案をし続けてきたことで、徐々に受け入れてもらえるようになり今日に至っています。
これまでにお伝えした「多様化する災害現場での消火活動をどうすべきか」「水を使用できない現場ではどうすべきか」といった問題に対し、常に研究してきた成果だと自負していますが、これからもその姿勢を変えないばかりか、さらに強めていきたいと思っています。そのことで、より安全で住みよい豊かな社会に貢献できると考えています。
消防車も当然のことながら日進月歩で、より便利により細やかに進化を遂げていました。今回の「東京国際消防防災展2018」でお披露目した多くのモデルが現場で活躍するようになるのは、まだ少し先になりそうです。しかし、これら機能的な消防車たちに、これからも注目、知識を得るようにし、子どもたちにドヤ顔してみましょう!