【謎その2】複線用の敷地がしっかりと残る新金線の謎
新金線は、誕生の経緯がなかなかおもしろい。そこから見ていこう。
千葉県の産物を、総武本線を使って輸送するにあたって問題になったのが、隅田川を越える橋がなかったこと。長年、総武本線は両国止まりだった。そのため、当時の貨物輸送は東武鉄道の路線経由で常磐線の北千住駅まで運ばれていた。この問題を打開すべく1926(大正15)年に誕生したのが新金線だった。
その後の1932(昭和7)年に総武本線の隅田川橋梁が完成したが、両国駅〜御茶ノ水駅間が旅客営業のみに造られた路線だったため、その後も総武本線の貨物列車は、新金線経由で走り続けている。
この路線を訪れてみて、奇異に感じるのは、ほとんど全線にわたり複線用の用地が確保されていることだ。下の写真のように、敷地はゆったりとしていて、さらに架線を吊る鉄塔も複線用に造られている。
【謎解き2】列車本数の減少で複線化が実現しなかった
1970年ごろまで新金線は、千葉方面と都心を結ぶ物流の大動脈でもあった。さらに越中島支線を走る貨物列車も、この路線を通って各地へ向かった。最盛期は、さぞや過密ダイヤとなっていたに違いない。
複線用のスペースを確保しておいた理由は、路線開業時に、将来の列車本数の増加を見越してのものだったのだろう。
ところが、1980年以降となると、新金線の列車本数は激減する。現在は、定期運行している貨物列車が日に3往復(うち1往復は日曜日運休)、ほか数便が臨時運行という状態だ。こうなると、とても複線にする意味がないと思われる。結局、新金線の複線化計画は夢物語に終わってしまい、確保した用地もそのまま塩漬け状態になってしまったわけだ。
【補足情報その1】貨物列車で必須の「機回し」作業に注目
現在、新金線を走る定期列車は次の3往復だ。
◆下り列車(金町駅 → 新小岩信号場)
1091列車:隅田川駅発 → 千葉貨物ターミナル駅行き
金町駅10時49分発 → 新小岩信号場11時00分着
1093列車:越谷貨物ターミナル駅発 → 鹿島サッカースタジアム駅行き
金町駅6時24分発 → 新小岩信号場6時35分着
1095列車:東京貨物ターミナル駅発 → 鹿島サッカースタジアム駅行き
金町駅0時27分発 → 新小岩信号場0時38分着(日曜運休)
◆上り列車(新小岩信号場 → 金町駅)
1090列車:千葉貨物ターミナル駅発 → 隅田川駅発行き
新小岩信号場19時20分発 → 金町駅19時30分着
1092列車:鹿島サッカースタジアム駅発 → 越谷貨物ターミナル駅行き
新小岩信号場19時52分発 → 金町駅20時02分着
1094列車:鹿島サッカースタジアム駅発 → 東京貨物ターミナル駅行き
新小岩信号場15時23分発 → 金町駅15時33分着(日曜運休)
貨物列車は電車のように、前後、進行方向をすぐに変えて走り出すことができない。進む方向を変える時には、機関車を切り離して併設された線路を逆方向へ走り、先頭となる側に機関車を連結させる「機回し」作業が必要となる。
地図上、Z字形の路線になっているこの新金線の路線。どの駅で機回しが行われているのだろうか。
まず金町駅では隅田川駅発の1091列車と、戻りの隅田川駅行きの1090列車の機回しが行われる。
新小岩信号場では、前述した3往復の列車がすべて機回し作業を行う。この機回しには地上の補助要員が必要なうえ、時間は最低でも15分程度は見ておかなければいけないとあって、各列車とも機回しのための時間に余裕を持たせている。
ちなみにこうした作業は新小岩信号場に沿った遊歩道から見ることができる。貨物列車好きな方は一度、訪れてみてはいかがだろう。
【補足情報その2】国鉄形電気機関車の宝庫、新金線。撮影できるポイントも多い
前述した定期的に走る3列車だが、鉄道ファンにとってうれしいのは、すべての列車に、いまや貴重となりつつある国鉄形電気機関車が使われていること。
下り1091列車・上り1090列車、そして下り1093列車・上り1092列車にはEF65形式直流電気機関車が使われる。また下り1095列車と上り1094列車には、EF64形式直流電気機関車が使われている。
両形式とも、国鉄当時の原色に戻されつつある車両が増えているだけに、鉄道ファンにとって気になるところだ。新金線は、撮影ポイントが多く、国鉄形電気機関車が貨物列車を牽くとあって、鉄道ファンにとっては見逃せない路線にもなっている。
【補足情報その3】新金線を訪れるとしたら小岩駅か京成高砂駅からがおすすめ
新金線は、金町駅から中川沿いに南下、路線のほとんどが、住宅の建ち並ぶなかを走る。踏切が数多いこともあり、撮影しようとするときには、この踏切が生かせる。複線化用に用意されたスペースを、列車との適度な“間”として生かせることもうれしい。
新金線を訪れるならば、京成高砂駅や、JR小岩駅から歩くことをおすすめしたい。京成高砂駅から中川方面に向かい、新金線に並走する道や中川の土手を歩けば、快い散策も楽しめる。
また小岩駅からは、徒歩15分ほどで、この路線の最大のポイントでもある中川橋梁へ行くことができる。
新小岩信号場へは、JR新小岩駅からJR小岩駅方面へ徒歩で10分ほど。信号場内に停まる貨物列車や総武本線の列車がよく見えて、鉄道ファンにとっては魅力的なポイントにもなっている。ベンチもあり、小休止の場所にも利用できる。
葛飾区の新金線旅客化計画のその後を追う
今回、紹介した越中島支線と新金線には、長年にわたり、旅客路線とするプランが立てられてきた。
両路線が走る江東区、葛飾区を南北に結ぶ公共交通機関といえば、バスのみだ。バスはどうしても道路の渋滞に悩まされる。特に朝夕のラッシュ時には、運行が思い通りいかない。
こうした現状から江東区も葛飾区も、越中島支線や新金線を、旅客化できないか長年にわたり検討を続けてきた。
2017年に、さらに具体的に旅客化できないかを検討したのが葛飾区。新金線をLRT(ライトレールトランジットの略)の路線として生かせないかというものだった。低床で、高齢者にもやさしい乗り物として見直されつつあるLRT。国も導入支援を行い、実際に宇都宮市では、新たなLRT路線の建設に乗り出している。
新金線はすでに複線化できる用地があり、まっさらの新線を造るよりは、建設費も安くできる。
さてその検討結果が、2018年6月11日に葛飾区のホームページで発表された。
新金線のLRT案は、国道6号との平面交差や、需要予測に基づく採算性、貨物線のダイヤとの共存などの課題があるとしたうえで、「周辺の動向を見守りながら、南北交通の充実を図るストック材として活用方法を検討していく」としている。
新金線旅客化案はまったく消えたわけではないが、まずは地下鉄の延伸計画などのプランの促進に力を入れていくことになりそうだ。