三菱電機のオーディオブランド「DIATONE(ダイヤトーン)」は、1980年代のオーディオ全盛期を支えた伝統ある国産ブランドの一角だ。近年では特に高品質なカーナビや車載用スピーカーなどを積極的に展開しており、カーオーディオファンの間では、音に真摯なブランドとして知られている。
そんなダイヤトーンが、4月にカーナビのハイエンドモデル「NR-MZ300PREMI-2」を発売した。たまたま同じタイミングで筆者の実家が新車を導入するということで、ダイヤトーンの実力を試してみるべく、新車に本製品をインストールした。「カーナビのオーディオなんて」と侮るなかれ、クルマ大好き・オーディオ大好きの筆者が、この音に想像以上の衝撃を受けたのだ。
基本操作はスイスイ、純正からの乗り換えも違和感ナシ
本製品は従来品の地図更新版で、主要な機能などに大きな変更は無い。現代のナビらしく、マイナーチェンジ前から引き続き準天頂衛星システム「みちびき」に対応しているため、現在位置などのナビゲーションの精度はかなり高い。加えてルート取りに過去の渋滞データを活用したりユーザーのルート取りを学習したりと、よりスムーズなナビゲーションを提供するイマドキな機能も搭載している。ETC2.0対応ユニットと合わせて使えば、結構正確な渋滞情報が入るほか、高速道路に乗ると特定地点で自動的に広域交通情報が流れてくる。
筆者実家は残価設定型クレジットを利用し、最新世代のプリウスを10年以上乗り継いでいる。カーナビはと言うと、これまでは基本的にトヨタの純正品かメーカー推奨品とも言うべきディーラーオプション製品を使ってきた。このためサードパーティー製品はナビゲーション部分の操作感で戸惑うのではないか、と懸念していた。だがいざ本製品を使ってみると、5ルート比較や自宅登録をはじめとした表示方法などのナビ操作は、これまで使ってきたものとほとんど変わらなかった。UIがメーカー純正の操作に近いのは、機種乗り換えのハードルを下げる重要なポイントだ。
また本機は、ARM Cortex-A9を4コア搭載したルネサス製車載向けSoC「R-Car H1」を採用している。処理能力の高いこのチップによる効果がなかなか良好で、少なくとも筆者が試した限りでは、スマホでお馴染みのピンチ/スワイプといったタッチ操作などで引っかかった事は一度も無かった。指の追随性も高く、操作感覚としてはストレスフリーなタブレット端末と評して問題ないだろう。「ピュアブラック・ハイコントラストモニター」をうたう8インチの大画面は、黒が締まっていて発色が良く、日差しが強い快晴時のドライブでもクリアで見やすかった。この辺りは同社のテレビブランド「REAL」の技術が活きていると感じた。その証拠に、ディスプレイのベゼル(枠)部分右上にはREALロゴが誇らしげに刻み込まれている。
徹底したノイズ対策設計、高度なDSP搭載。これ1台でハイエンド構成もこなす
「サウンドナビ」のハイエンドを名乗るだけあって、本機は音に関して妥協を許さない。電子パーツも配線ハーネスもピュアオーディオ製品で使われるレベルのものを惜しげもなくふんだんに使用し、DACは2012年以降一貫して32bit処理をする高級チップを採用し続けている。オーディオ部分のハンダは開発に3年かかったという「DIATONE SOLDER」という独自で、シャーシはCDメカ部分とナビ部分を独立、回路設計にあたってはパーツ配置の向きを最適化するというこだわりぶりだ。音質を追求する姿勢を「これでもか!」と言わんばかりに見せている、もはや執念とも呼ぶべき設計である。
ソフト面の機能もハイエンド。カーオーディオは車室空間が複雑なため、ホームオーディオと違って「コンポーネントを揃えてつなげればいい音が出せる」というものではない。そのため車内の音を良くするには、周波数特性を整えるイコライザーや音の到達タイミングを揃えるタイムアライメント、各スピーカーユニット間のつながり帯域を調整するクロスオーバー指定、といった調整機能が必須だ。ハイエンドカーオーディオだと、こういった調整に独立したDSPユニットを用意するが、本機はこれらが前席の左右独立で細かく設定できる調整機能を内蔵している。そのためかなり高度なカーオーディオ環境も、DSPユニットなしで構築できてしまうのだ。
クリアな音像、ナチュラルな響き。これぞ高級カーオーディオのサウンド!
肝心の音を聴いてみると、これには本当に驚いた。音色と解像感のバランスがかなりハイレベルなまとまりを見せており、特にベースの量感には目を見張るモノがある。安価なカーオーディオだと「バスブーストを効かせて不自然に強調されたブーミーな音」みたいなイメージが僕にはあったのだが、本機で奏でる音楽にはその様な脚色された嫌な感じが無い。かといって低音が痩せたプアな感じも無く、たっぷり豊かなボリュームを感じさせてくれる。
音のキレがとても良く、音楽のノリも良好。生成りの音楽が生き生きと踊っていて、とにかく聴いていてワクワクする、そういう音楽がドライブ中に愉しめる。正直言って、下手なホームオーディオでは到底太刀打ち出来ないレベルだ。例えば「ホテルカリフォルニア」はヴォーカルの像がしっかりと立っているほか、シンバルやギターのカットなどがとてもカリッとしている。「ワルツフォーデビイ」だとボリューミーなダブルベースのマルカート(弾み)感が印象的だし、ピアノはしっとりとしていて艶があり、思わずうっとりとしてしまう。ヒラリー・ハーンの「バッハ ヴァイオリン協奏曲」を歌わせてみれば、量感たっぷりなベースが音楽をしっかりと支え、ヴァイオリンソロがゆったりと自由に遊ぶ事ができている。高音に刺さるような嫌みは無いし、音響空間の広さを思わせるホールの響き(ホールトーン)は驚くほど自然だ。
音でクルマをより楽しむ、便利機能も盛りだくさん
昨今のピュアオーディオにおいて、ハイレゾ対応はもはや常識。本機も例に漏れず、192kHz/24bitまでの音源再生に対応している。ただし出力時には44.1kHz/24bitにダウンサンプリングされるので、ハイレゾ音源をピュアに愉しむならば外部入力端子を装備してポータブルプレイヤーをつなぐ必要がある。デジタルオーディオの方式はDSDやMQAなどが次々と出てきているので、この点は次世代モデルでの改良に期待したい。
そのかわりといっては何だが、本機はハイレゾ以外の音源をより気軽に楽しむ機能を多数搭載している。例えば音源の空間表現を広げる「PremiDIA Surround」や、CDやラジオなどソースやコンテンツの違いで生じる音量レベルの差を一定に整える「DIATONE Volume」などなど。なかでも利用頻度が高そうなのが「PemiDIA HD」。音源をハイレゾ相当に拡張する、いわゆるアップコンバート機能だ。「補正1」「補正2」という2種類の設定があり、補正1は手堅く安定したサウンドの正統派アップコンバート、補正2はちょっと印象的な雰囲気を狙ったサウンド、という感じの効果が得られる。試しにmp3音源を鳴らしてみたところ、元からハイレゾの音源と比べるとのっぺり感は拭えないが、それでも補正をかけるとかなり音の彫りが深くなった。音楽のジャンルや好み、その日の気分などで使い分けたい。
走行速度に応じてドライブ中の音量を自動調整してくれる「車速連動ボリューム調整」も、高速道路を使うような長距離ドライブには便利だ。調整量を1から3まで設定できるが、筆者が試したところ「調整量2」が最も違和感が少なかった。ただし、この機能では路面の状況に由来するロードノイズは消えず、あくまでエンジンなどの駆動系に由来するノイズの対策を補助するのが役目だ。この点はレクサス車などで既に車内ノイズキャンセリングが出来ているので、単体ヘッドユニットでも同様の機能が出ると嬉しい。
ホームオーディオのハイエンドスピーカーに通じる“ダイヤトーンブランドの音”
今回の新車はカーオーディオ用語で“ヘッドユニット”と呼ばれるいわゆるナビ本体の交換以外、オーディオ向けに特別な事はやっていない。スピーカーはプリウス標準装備の6ユニットだし、ドア部分の不要な響きを吸音材で抑える「デッドニング」といった作業も施していない。乗り継ぎ前のクルマもマイナーチェンジ前のプリウスだった。
オーディオ系に関しては、前回も今回も基本的にメーカー標準装備。だがディーラーオプションのナビ(ヘッドユニット)を付けていた以前とは比べものにならないほど、ダイヤトーンから出てくる音は粒が細かい。これはひとえに徹底したノイズ対策設計の賜物だが「同じメーカー標準スピーカーでありながら、ヘッドユニットを変えるだけで出てくる音がここまで違うものか!」と、強い衝撃を受けた。
特に印象的だったのは、音場はナチュラル、音像が明確に出てくるというサウンドの傾向。これはペアで120万円もする、同ブランドのホーム用高級スピーカー「DS-4NB70」に通じる。このナチュラルさ・クリアさは、言うなれば“ダイヤトーンブランドの音”だ。これが発見できた事が、個人的には最も嬉しかった。
ただし困ったこともひとつ。このシステムを聴き込むと標準スピーカーでは物足りなくなってくるのだ。プリウスの標準スピーカーはかなり軽量で、特に低音がどうしても締まりきらない。そういうのを感じると「ナビと同じくミッドウーファーもダイヤトーンに変えたらどうなるだろうか」「あるいは近年人気が高まっているフォーカルに、音のツヤを狙うならスキャンスピークも面白そう」といった欲がムクムクと顔を出す。ハイエンド・オーディオナビ「NR-MZ300PREMI-2」は、そういう事を気付かせてくれるしっかりとした音を出す。プライベートなマイカーで極上の音楽を奏でれば、走りの追求とはまた違う“音と走りの融合”というクルマの面白さに出会える。