【箱根登山電車の秘密⑤】箱根湯本駅付近に三線軌条が残る理由
前置きがかなり長くなってしまったが小田原駅から箱根登山電車に乗車することにしよう。
路線の起点となる小田原駅。小田原駅では小田急小田原線と箱根登山電車が共用している。ホームは7番線から11番線まであり、箱根登山電車は7番線が箱根湯本方面行き、11番線が箱根登山電車の折り返し専用ホームとなっている。
箱根登山電車の起点を示すゼロキロポストは7番線の中間部にある。さて路線の起点ではあるが、小田原駅〜箱根湯本駅間を走る電車はすべて小田急電鉄の電車が使われている(一部区間を走る回送電車を除く)。赤いレーティッシュ塗装の車両が普通電車として走るが、こちらも小田急電鉄1000形である。
ちなみにレーティッシュ塗装とは、箱根登山電車が、開業の際に参考としたスイスのレーティッシュ鉄道の塗装色のことで、1979(昭和54)年以来、同鉄道と箱根登山電車は姉妹鉄道となっている。
小田原駅を発車した電車はJR東海道本線と並走、小田原城を左手に見あげながら進む。小峰隧道を抜けたら、右へ急カーブをえがく。小田急ロマンスカーは、箱根湯本駅が終点駅だが、その間、路線と平行して、国道1号が走り、また眼下に早川を見て進む。
このあたりは、小田原近郊の郊外路線の印象が強いが、徐々に両側の山が狭まってきて、険路・箱根の趣が強まっていく。3つめの駅が入生田駅(いりうだえき)。乗車していると、車内からはなかなか見えないのだが、この駅と箱根湯本駅間は三線軌条と呼ばれるレールが3本敷かれる区間だ。
入生田駅〜箱根湯本駅間のみ三線軌条となっているのはなぜだろう?
小田急線の線路幅は日本の在来線が多く採用する1067mm幅。一方箱根登山電車は世界的に標準サイズとされる1435mmとなっている。
入生田駅構内には箱根登山電車の検車区がある。箱根湯本駅よりも先には、平坦な広い土地が少ないことから、この入生田駅に検車区が造られた。この検車区まで箱根残電車の車両を回送する必要があることから、この三線軌条区間が設けられているわけだ。
もともと、箱根登山電車の電車は2006(平成18)年まで小田原駅まで走っていた。しかし、車両の運用や、三線軌条の保守、電化方式(箱根湯本駅を境に直流1500Vから直流750Vと変わる)の違いなど、非効率なことが多いことから、箱根登山電車は箱根湯本駅〜強羅駅間を往復するのみとなった。
小田原駅〜箱根湯本駅間は、箱根登山鉄道の路線であるのにも関わらず、すべての電車が小田急電鉄の電車で運行されている。箱根登山鉄道は、小田急グループの一員(2003年に完全子会社化)でもあり、そのあたりの問題はないということなのだろう。
【箱根登山電車の秘密⑥】箱根湯本駅を出てすぐ始まる80‰区間
箱根湯本駅で小田急の電車から箱根登山電車の車両に乗り換える。箱根登山電車はホームの先、3番線から強羅駅行が発車する。
箱根湯本駅から本格的な山岳区間の開始となる。乗ると、すぐに箱根登山電車の最大勾配80‰の傾斜が始まる。車両自体が傾斜し、立っていると、身体が水平を保とうと自然に斜めになっていくのがわかる。
箱根湯本の温泉街を左下に見つつ電車はモーター音を響かせ上っていく(最新電車はそれほどモーター音が聞こえない)。3つのトンネルを越えると、山中の駅、塔ノ沢駅に到着する。
【箱根登山電車の秘密⑦】塔ノ沢駅の中にある銭洗弁天とは
箱根湯本駅とはがらりと雰囲気が変わる塔ノ沢駅。トンネルとトンネルの間の小さな駅だ。さてこの駅。最寄りの国道1号からのアクセル路は遊歩道のみということもあり、秘境駅の趣がある。
週末はこの駅を見たさに訪れる観光客が多いのが箱根ならではだ。ホームは2面、2番線のかたわらに深澤銭洗弁天がある。この弁天様。さる証券会社の創始者が寄贈したとされる。境内には銭洗弁天らしく、銭の洗い場も。筆者も試してみたが、流れの冷たさに驚かされた。さてご利益があるかな?
塔ノ沢駅を出た電車は急勾配を上りつつトンネルを抜ける。
2本目の杉山隧道を抜けるとすぐ、早川橋梁を渡る。橋から見おろす渓谷が絶景だ。「出山の鉄橋」と呼ばれ親しまれるこの鉄橋は、箱根観光名所の一つともされている。現存する日本最古の鉄橋ともされ、その工事の大変さが偲ばれるところでもある。
出山の鉄橋がよく見えるのは出山信号場。スイッチバックのために一時停車する車内から眼下に今、渡ってきた緑色の鉄橋が眺められる。出山信号場を折り返した電車は、茂る緑の中、80‰の急勾配をさらに大平台駅へ向けて上っていく。