【箱根登山電車の秘密⑧】あじさいが多く植栽された理由があった
箱根登山電車といえば、あじさいが名物になっている。沿線には1万株のあじさいが植えられ、6月中旬から7月中旬まで、梅雨の季節の風物詩ともなっていて、この期間、その名もずばりの「あじさい電車」も走っている。
実はこのあじさい、当初は土どめのために植えられたのだという。傾斜地を走る箱根登山電車。路盤、盛土、壁ののりめんなどの土壌保全に気を配られた。今は初夏の箱根登山電車といえば「あじさい」といわれるぐらいになっているが、もともとは土どめ用に植えられた植物だったとは。おもしろい経緯である。
あじさいの名所ともなっている大平台駅付近。この駅はスイッチバック構造となっている。電車は向きを変えて、上大平台信号場へ、さらに上っていく。
上大平台信号場は、スイッチバック専用の信号場だ。ここは敷地外からスイッチバックする電車の撮影が可能ということもあり、鉄道ファンが訪れるスポットとしても知られている。
上大平台駅で最後の方向転換をした電車は、次の停車駅である宮ノ下駅へ勾配区間を上っていく。
宮ノ下駅までの間には仙人台信号場があり、下り列車との交換が行われる。列車の交換がない時も一時停車、そして電車は発車する。この信号場の標高が398m。ここまで箱根湯本駅(標高96m)からすでに302mも上がってきたことになる。
さらに上れば宮ノ下駅となる。ここまで箱根湯本駅から28分。距離は6kmで、平均時速は12kmちょっとという計算になる。
時間がかかる箱根登山電車ではあるが、平行して走る国道1号の渋滞は慢性化。週末の午後になると、スムーズに走れないことも多い。そんなクルマの渋滞をしりめに登山電車は、すいすいと(?)急坂を上り下りするのである。
【箱根登山電車の秘密⑨】気になる堂ヶ島温泉行き乗り物のその後
宮ノ下駅の周囲は沿線でも名宿が多い地域で知られる宮ノ下温泉がある。現在、核となる富士屋ホテルは改装中だが、それでも、旅行客は絶えない。
そんな宮ノ下温泉。隣接地に気になる温泉地がある。箱根七湯として古くからの湯治場風情を残す温泉として名高かった堂ヶ島温泉。今は残念ながら宿が営業を休止している。
早川沿いは堂ヶ島渓谷と名付けられ、以前には2軒の旅館があった。そしてそれぞれ宮ノ下からケーブルカーとロープウェイで上り下りしたのだった。
2年ほど前に宮ノ下から遊歩道を渓谷までおりて、堂ヶ島温泉の状況を見てみた。その時は、旧旅館の跡地は塀で囲まれ、中の様子を見ることができなかった。
この6月に訪れてみると、旅館を再建する工事の様子、工事用のケーブルカーが設けられていた。
堂ヶ島温泉には近年まで対星館と大和屋という2件の宿があった。地元の観光案内所に聞くと、その2軒を合わせた宿を復活させる工事が進められているのだそうだ。将来、どのような形で堂ヶ島温泉が復活するのだろう。さらにどのような乗り物で渓谷へおりていくのか、興味が涌くところだ。
【箱根登山電車の秘密⑩】旧型スタイルの車両もあとわずかに
箱根登山電車は、1000形、2000形、そしてアレグラ号と名付けられた3000形・3100形と新しい車両が増えつつある。一方で開業当初の車両を改造したモハ1形、太平洋戦争前に造られた車両の機器を流用、改造を施したモハ2形という、いわば旧型スタイルを維持した車両が長年、走り続けてきた。
さらにモハ1形の103-107編成は珍しい吊り掛け駆動方式を残している。乗車していると下回りから「ぐぅーん」というようなエンジン音が聞こえるのが特徴だ。筆者の乗車時にも、その貴重な音を記録しようと、録音機材を持って乗車している鉄道ファンも見かけた。この車両もこの7月末で消滅の予定だ。今回の廃車で箱根登山電車から吊り掛け駆動方式の車両が消える予定だ。
旧型スタイルをした車両で残るのはモハ1形の104-106号編成、モハ2形の108号と109号となる。新型のアレグラ号は乗車していて快適だが、古い趣を残した車両が徐々に消えていくのは鉄道ファンとしては一抹の寂しさを覚える。
そんな旧型の電車に揺られて小涌谷駅へ。この先は、この路線でも比較的、平坦な区間となる。右手に彫刻が点在する公園が見えてきた、彫刻の森駅も近い。次が終点の強羅駅だ。箱根湯本駅から強羅駅まで約40分、標高は541mまでに上った。とともに濃厚な登山電車の旅が終了した。
終点の強羅駅は鋼索線との乗換駅。この駅の構内奥に気になる電車が停められている。オレンジ色の電車で形式名はモニ1形。事業用電車で、工事用の資材を運ぶための電車だ。日中そして週末は、ほぼ動かないようだが、走る様子をぜひ見てみたいものだ。