乗り物
鉄道
2019/8/18 18:00

乗って歩けば魅力がいっぱい!「上田電鉄別所線」で見つけた11の発見

【別所線で発見⑨】地方駅の典型的な光景が中塩田駅の前に広がる

下之郷駅を発車すると、上田原駅と同じように急カーブ。田園地帯が広がり、また独鈷山などの山並みを望む塩田平(しおだだいら)の中を走る。沿線でもっとも絵になる区間だ。

 

次の駅は中塩田駅(なかしおだえき)。洋風のハイカラな建物で、建築された年は明確でないものの、上田電鉄を代表する駅でもある。ところが、上田電鉄(上田交通時代)には駅の補修までには手が回らずで、一時期、荒れ果てた状態となっていた。

 

その状態を憂いた上田市を中心に2009年に改修工事が行われ、今ではきれいな姿の駅となっている。

 

↑国の鉄道軌道輸送高度化事業の一環として改修された中塩田駅。建物はベージュ色に、すそや窓ワクなどミントカラーが施され、美しい姿を取り戻した。とはいえ、駅近くの商店はすべて閉店されていた(左上)。駅がきれいになった反面、寂寥感がつのる

 

中塩田駅は美しく直されていた。ところが駅周辺には大きめの商店が数軒立っているのだが、どの商店も閉じられていた。風格ある店構えで表には「○○百貨店」と記された店もあった。かつて駅前は人々で賑わい○○百貨店で、その日の夕食の素材を買い物して、という人もいたのだろう。

 

クルマ社会となり地域の姿がすっかり変わってしまったことを物語る光景。中塩田駅も駅前を通る県道は、ひっきりなしにクルマが通るのだが、駅はひっそりと静まり返り、乗り降りする人も非常に少ない。地方を走る鉄道の難しさを物語る光景に出会った。

 

 

【別所線で発見⑩】何もない駅ではない! 密かに人気の八木沢駅

とりあえず終点までの間に、もう一駅下りてみようかなと、と選んだのが別所温泉駅の一つ手前の八木沢駅(やぎさわえき)だった。ホームに下り立つと目の前に広がる田園風景と、その先に山々が見えてすがすがしい。

 

建物内には広めの待合室がある。駅の出入り口は駅前通りへまっすぐ下りず、階段を斜めに下りて出入りするという、ちょっと風変わりの駅だった。

 

形は風変わりだが特段、目に付くようなものは何もない駅だった。待合室で一時過ごしていると、クルマに乗った若い男性が駅前にクルマを停めて駅中に。構内を見て回りしきりに写真を写している。

 

あれれ? 何かあるのかな、と思い駅の中からだけでなく外も見てまわる。駅舎を外から撮影しょうとすると。

 

↑入口とは逆の田園側から八木沢駅の駅舎を撮影してみる。ベンチに小さなハートマークが。なるほど…といった驚きが。さらに駅名標にはあるキャラクターが描かれていた

 

2015年に改修された八木沢駅。駅の入口には丸い形の赤い郵便ポストが設けられる。駅舎は華やかなミントカラーに塗られ、ベンチにはハートマークが彫り込まれていた。

 

さらに「八木沢まい」(鉄道むすめのキャラクター)が駅名標に描かれている。八木沢まいという名前は、この八木沢駅と、隣の舞田駅(まいたえき)を合わせたものだそうだ。若い男性はこのキャラクターが描かれた、駅名標を撮りに来ていたというわけだった。

 

↑八木沢駅からは塩田平の田園風景とともに、取り囲む山々が美しく望める。ホーム上には八木沢まいが描かれた駅名標と並び「恋愛成就 鍵架け場」(左上)があった

 

前述のハートマーク付きベンチは「ハートベンチ」と名付けられていた。ホーム上には「恋愛成就 鍵架け場」がありこんな文句が書かれていた。「♥ハートベンチ♥に座ったら2人の絆をロックしませんか?」。そして“鍵架け場”とされた金属ネットにはいくつかの鍵がかけられていた。

 

こうした物語が浮かび上がるような駅づくりも、これからの鉄道の生き方なのかも知れない。とはいえクルマで訪れ、駅前に駐車、写真を撮ったらすぐに帰ってしまう若者が見かけられた。電車に乗って訪れてこそ、価値があるのではないだろうか。

 

さてキャラクター八木沢まいの物語は、次の別所温泉駅へと続くのである。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6