ダイハツ「タント」は、“スーパーハイトワゴン”と呼ばれる極端に背が高いミニバン形態を軽自動車カテゴリーに持ち込んだパイオニアです。いまやこのクラスはスズキ「スペーシア」やホンダ「N-BOX」など、ライバルメーカーも有力な対抗馬を投入。軽乗用車の主流となっていますが、当然ながら販売台数を筆頭とする競争は熾烈なものとなりました。そこで、タントも7年ぶりにフルモデルチェンジを実施。4代目へと進化して、持ち前の多機能ぶりを進化させていますが、結論から先にいうとその実力はこのクラスの先駆に相応しいものでした。
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【今回紹介するクルマ】
ダイハツ/タント
※試乗車:タントX
価格 122万400円~168万4800円(税込)
ダイハツ/タント カスタム
※試乗車:タント カスタムRS
価格 154万9800円~187万3800円(税込)
シンプルな仕立てで質感と新しさをアピールするタントと、「押し」のタント カスタム
群雄割拠となったスーパーハイトワゴン市場に4代目の新型タントが投入されました。ボディサイズは先代と比較すると全高とホイールベースが若干拡大されましたが、すでに初代の頃から軽規格を使い切っている全長と全幅は変わらず。当然ながら合理的な“ハコ”という見ための風情も変わりません。とはいえ、タントはキャラクターラインを筆頭とするディテールをスッキリとシンプルに仕上げることで新しさをアピール。
【フォトギャラリー】GetNavi web本サイトにてご覧になれます。
それをベースとした「タント カスタム」はワイドかつボリューム感のあるフロントマスクを組み合わせて先代より一層押しの強さを感じさせるデザインに仕上げられました。ダイハツによれば両モデルの販売比率はほぼ半々とのことですが、タントは日々を共にする便利な日常のアシ、タント・カスタムはすべての用途をこれ1台でまかなうファーストカーのニーズに一層フィットするの仕立てになったといえるでしょう。
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一方、スクエアな全体のシルエットこそ変わらない(というより変えようがない)新型タントですが外皮に包まれたハードウェアは一新されました。小型車まで含めた新世代のクルマ作り、DNGA(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)を活かした基本骨格はゼロベースから新開発されたもので先代より約40kgの軽量化(骨格全体の数値)を達成すると同時に曲げ剛性は約30%向上。衝突安全性に加え、ノイズやバイブレーションに代表される快適性の向上に貢献しています。
またフロントがマクファーソンストラット、リアはトーションビーム(4WD仕様は3リンク)という基本構成こそ先代と同じながら、サスペンションも理想的ジオメトリーに配慮した新骨格に合わせてブランニューに。操縦安定性や快適性を向上させたほか、全体で約10kgの軽量化も達成しています。
使い勝手の良さでは、また一歩ライバルをリード
とはいえ、この新型タント/タント カスタムの真骨頂はやはり室内回りでしょう。タントは、2007年に登場した2代目から助手席側の前後席間にあるピラー(Bピラー)の機能をドアにインテグレートしたミラクルオープンドアを採用。
巨大なボディ側面の開口部を実現していますが、新型では「ミラクルウォークスルーパッケージ」を組み合わせることで日常の使い勝手を格段に向上させました。その代表格となる機能が、実に540mmというスライド量を誇る運転席ロングスライドシート(世界初)。これにより運転席と後席のウォークスルーが容易としたほか、運転席に座ったまま後席にアクセスできるので、たとえば後席(のチャイルドシート)に座る子どもの世話を……といった場面で重宝すること請け合いです。
もちろん、一番後ろまでスライドさせるとステアリングなどが操作できませんから安全性に対する配慮も十二分です。ロングスライド機構はシフトセレクターがPレンジ(パーキング)に入っていて、なおかつ解除スイッチを押さないと常識的なスライド量に制限。スイッチでロックが解除される時間も1回の操作につき約5秒となるので、誤操作による不測の事態を心配する必要はないでしょう。
“初モノ”は、それだけにとどまりません。半ドアの助手席を自動で全閉にする助手席イージークローザーやパワースライドドアが閉まりきる前にドアロックを事前予約できるタッチ&ゴーロック機能。そして降車時に予約しておき、電子カードキーを持ってクルマに近づくと自動でパワースライドドアが開くウェルカムオープン機能は、いずれも軽自動車では初採用とか。決して「なければ困る」という装備ではありませんが、おそらく小さな子どもを連れてショッピングといった場面では、そのありがたみがヒシヒシと実感できるであろうことは想像に難くありません。
骨格から新設計した成果で、基本機能にも磨きがかかりました。フロントピラー(Aピラー)が従来より細くなったことで前席からの視界が拡大。一層運転しやすくなったほか、室内のフロア高が16mm低床化され子どもから高齢者に至る乗降性と荷物を積載する際の利便性が向上しました。また、ダイハツは産学協同研究で、おもに高齢者がクルマを使う際の利便性を追求。この新型タントから形状やレイアウトを最適化したアシストグリップや電動のサイドステップを用意するなど、特に地方ではライフラインの役割を担う軽自動車に相応しい地道なアップデートを行っていることも見逃せないポイントといえるでしょう。
もはや運転支援システムの充実ぶりは高級車レベル
幅広いユーザー層をフォローする、という意味では近年注目を浴びている運転支援システムの充実化にも抜かりはありません。従来からのスマートアシストには新たに車線逸脱を防ぐステアリングアシスト機能が備わるほか、前後方向で機能するブレーキ制御付きの誤発進抑制機能、ステレオカメラによる標識認識機能が追加。
また、縦列と並列を問わず駐車時にステアリング操作をアシストするスマートパノラマパーキングアシストの採用は軽自動車初とか。ターボ車については、全車速追従機能付きのアダプティブクルーズコントロールを用意するなど、機能の数ではもはや高級車と比較しても遜色がありません。
正直なところ自然吸気仕様がジャスト
今回はタントが自然吸気エンジン、タント カスタムはターボエンジン仕様が試乗車として用意されていましたが、その走りはいずれも納得の出来映えでした。トランスミッションは、いずれもスプリットギアを追加して効率を高めた新開発のCVT(D-CVT)でしたが、アクセル操作と実際のレスポンスがリンクしないCVTの悪癖が抑えられ日常域の扱いやすさは十二分。ギアの守備範囲がワイド化された恩恵か、車内に届くノイズも許容範囲内。特に速度が速くなってくると、先代より着実に静粛性が高まっていることが実感できます。
また、特に自然吸気仕様は良い意味で穏やかなライド感も印象的でした。足回りは搭載エンジンによるセッティングの違いがなく、いずれもFF仕様だった試乗車の場合はタイヤサイズが異なる程度だったのですが、必要にして十分な速さとまろやかな乗り心地がミックスされた自然吸気仕様は毎日使う道具にはピッタリの出来映えと感じられました。
もちろん、高速走行の頻度が高い人やアップダウンが激しい山岳路などが日常的環境にある人なら選ぶべきはターボ仕様です。ただ、このクルマ本来のキャラクターやコストも重視されるべき軽自動車という役どころを思うと、日々の伴侶には自然吸気仕様がジャストというのが正直なところになるのです。
SPEC【タントX(2WD)】●全長×全幅×全高:3395×1475×1755㎜●車両重量:900㎏●パワーユニット:658㏄水冷直列3気筒12バルブDOHC●最高出力:52PS/6900rpm●最大トルク:60Nm/3600rpm●WLTCモード燃費:21.2㎞/ℓ
SPEC【タント カスタムRS(2WD)】●全長×全幅×全高:3395×1475×1755㎜●車両重量:920㎏●パワーユニット:658㏄水冷直列3気筒12バルブDOHCインタークーラーターボ●最高出力:64PS/6400rpm●最大トルク:100Nm/3600rpm●WLTCモード燃費:20.0㎞/ℓ
撮影/宮越孝政
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