【天浜線の秘密⑤】11の駅が登録有形文化財の指定を受ける
天浜線は39ある駅のうち、11の駅が国の登録有形文化財の指定を受けている。4分の1に近い駅が文化財というわけだ。その多くが昭和初期の開業当時の状態を保っている。
こうした路線は非常に珍しい。駅に加えて橋、駅施設など36施設が登録有形文化財に指定されている。いわば、路線そのものが博物館そのものと言って良い。登録有形文化財に指定された全駅を巡ったので、写真を中心に紹介しよう。
【天浜線の秘密⑥】なぜ多くの駅が古い姿を留めているのか?
なぜここまで古い施設が残されたのだろう。
登録有形文化財と同じく、文化財保護法により守られているのが「重要伝統建造物群保存地区」。全国に残る古い街並みに残された建物や町並みを、景観ぐるみで保存、守っていこうとする制度だ。
なぜこうした古い建物や町並みが残ることになったのだろう。これらの地域の多くは高度成長期から続いた好景気の時代に開発が行われなかった。開発の対象から漏れたことが、逆に今となって光を浴びるようになっている。
天浜線もこうした例と同じように、国鉄二俣線から含め、輸送力増強という開発のメスが入らなかったことが、今になって幸いしていると言って良いだろう。
東海道本線の沿線が「東海道メガロポリス」化し、大小の工場や、それに伴うように市街地化され様相を変えていった。対して、東海道本線のバイパス線として造られた天浜線には、路線を含めて開発の手があまり入らなかった。両線の間は、それほど遠く離れていないにも関わらずである。
それが今や“お宝”となって残っている。これは貴重なことといって良いだろう。
ところで、登録有形文化財に指定されてしまうと、マイナス要素がないのだろうか。登録有形文化財とはどのようなものなのか、ここで抑えておこう。
登録有形文化財とは1996(平成8)年に設けられた文化財登録制度に基づき登録された有形文化財のこと。当初は建造物のみだったが、その後に建造物以外も登録できるように変更された。
高度成長期以降、急激な都市化により、近世以降に造られ、建てられた建物や施設が、歴史的、文化的な価値を重視されずに、壊されるという残念な例が相次いだ。こうした反省から歴史的にも大切な建物や施設を末長く活かせるように、この登録制度が生まれた。
登録有形文化財制度の長所は、現状とほぼ同じ外観であれば、建物内に手を入れても構わないということ。例えば、古い酒蔵の外観を生かしつつ、内部をレストランにしても構わない。
天浜線でも登録有形文化財に指定された駅舎が多いが、内部を食堂や、カフェ、そば店として利用した駅が複数ある。
駅が無人で寂しくなるよりも、こうした店舗として使われれば、地方の文化的な拠点にもなる。鉄道会社にしても使ってもらえれば、荒れる心配がないし、利益も得ることができる。天浜線では店が入っていない駅でも、トイレを含め清掃や整備が地元の人たち主体で行われていた。そのため駅の建物が古くともみな奇麗。訪れた人の好印象を生み出す結果に結びついている。
さらに登録有形文化財には、建造物修理補助事業という制度があり、保存修理する場合には国から一部を補助が受けられる利点もある。最近多い災害復旧などでも有利になっている。