日本仕様では3代目以来となる「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のディーゼル仕様が発売されました。本国ドイツをはじめとする欧州ではシリーズの主力となっているクリーンディーゼルですが、すでに定評あるガソリン仕様と比較した際のアドバンテージは果たしてどこに見出せるのでしょうか?
【今回紹介するクルマ】
フォルクスワーゲン/ゴルフ
※試乗車:TDIハイライン・マイスター(ハッチバック/ヴァリアント)
価格:391万円(ハッチバック)/405万円(ヴァリアント)
【フォトギャラリー(GetNavi webにてご覧になれます)】
【関連記事】
隠れた実力派ミニバン「フォルクスワーゲン・シャラン」のクリーンディーゼルは、さらに実力派だった【コッテリインプレ】
クリーンディーゼルであることの主張は最小限!
筆者のようなオジサンには少し気恥ずかしいのですが、いま風に表現するなら「ゴルフ」はコンパクトカーの“神”です。実際、1974年に初代がデビューして以降、ゴルフはコンパクトカーの基本形態であるFF2ボックスの“お手本”として君臨。2013年に上陸した現行型(7代目)も、歴代モデルと同じくクルマとしての実力は間違いなくトップクラスです。もちろん、いまや燃費やパッケージングなど、項目ごとに比較をすればゴルフを上回るライバルはいくらでも挙げられます。しかし、総合的に評価すると常に1、2を争う位置にランクインする完成度の高さには素直に脱帽するしかありません。
そんな現行ゴルフの(日本における)最新作が、クリーンディーゼルエンジンを搭載した「TDI」モデル。5ドアの「ハッチバック」とワゴンボディの「ヴァリアント」にラインナップされ、グレードはそれぞれで4タイプから選べます。エンジンを除くハードウェアや装備についてはガソリンの「TSI」に設定された同グレードと基本的に同じ。ただし、リアサスペンションはシンプルなトレーリングアームとマルチリンクをグレードによって使い分けるTSIに対し、TDIはすべてマルチリンクで統一されています。ちなみに、ハッチバックについてはTDIの追加でガソリン、クリーンディーゼル、プラグイン・ハイブリッド(GTE)、ピュアEV(e-ゴルフ)と実に4種ものパワートレインがラインナップ。単一モデルでここまで豊富な選択肢が揃うのは国産勢まで含めてもゴルフだけです。
グレード構成がTSIとほぼ同じ、ということでハッチバック、ヴァリアントのいずれもTDIだからといって、外観で特に異なる部分はありません。同時期に発表されたシャランのTDIはホイールデザインがオリジナルになっていますが、ゴルフでTDIであることを主張するのはリアのエンブレム程度です。
そのスタイリングは、ハッチバックの太いリアピラーに代表される歴代モデルのアイコンを受け継ぎつつ高い質感を意識させる出来映え。コンパクトカーながらゴルフが高級感をアピールするようになったのは4代目あたりからですが、現行型のそれはもはやプレミアムブランドと比較しても遜色がない水準にあります。フォルクスワーゲン(以下VW)の一員ということで、もちろん派手さこそありませんが凝縮感のある佇まいや彫りの深いボディサイドのキャラクターライン、端正なディテールなどはカテゴリーを超えた“クラスレス”の風格すら漂わせています。
3代目からシリーズの一員となっているヴァリアントでも、それは変わりません。マニアが世代になぞらえて「ゴルフ7(セブン)」と呼ぶ現行型は全体にシャープな造形と特徴としていますが、ルーフが長くなるワゴンボディとのマッチングは歴代ヴァリアントの中でもベストといえるもの。ステーションワゴンらしい豊かな風情をコンパクト級のサイズで表現するのは本来難しいことなのですが、現行ヴァリアントではハッチバックを上回るスマートなシルエットでそれをアピール。実用的でありつつも、ひと味違う選択として十二分な説得力が与えられています。いまや日本では少数派となったステーションワゴンですが、「SUVの押し出し感はちょっと……」というニーズにも狙い目の1台と言るでしょう。
現行型の「7.5」は、装備類の先進度もトップレベル
クラスレス、という表現は室内の作りや装備品についてもピッタリ当てはまります。現行ゴルフは2017年に「ゴルフ7.5」と呼ばれるほどのアップデートを受けていますが室内回りは持ち前の質感の高さに加えてデジタル化が進行。スマホとの連携ができるインフォテインメントシステムは、タッチスクリーンに直接触れることなく手の動きだけで操作可能な「ジェスチャーコントロール」を採用。上級グレードでは、メーターも12.3インチの高解像度デジタルディスプレイが標準化され、多彩な表示機能を誇ります。また、運転支援システムの充実ぶりは同クラスのライバルはもちろん、プレミアムブランドのモデルと比較して勝るとも劣りません。今年、ラインナップに追加された新グレードの「マイスター」では駐車時のステアリング操作を自動化する「パークアシスト」まで標準装備されています。
まさに“標準的”なパッケージングながら実用性の満足度も高水準
一方、オーソドックスなFF2ボックスのハッチバックとワゴン、ということで背の高いミニバンテイストのモノスペース、あるいは流行りのSUVと比較すればユーティリティは外観から想像される通り。前後席の空間はサイズ相応というところで、特別広いわけではありません。とはいえ、大の大人が後席に座っても不足があるわけではなく、少なくとも4人家族あたりまでなら実用性は十二分でしょう。また荷室はハッチバック、ヴァリアントともにクラスの平均値を上回る広さが確保。特にヴァリアントは1クラス上のワゴンを凌ぐ容量なだけに、RV的なニーズにもしっかり応えてくれるはず。このあたりは、かつて「トランクを買うとクルマがついてくる」とまでいわれたモデルをラインナップしていたVWの作らしい美点のひとつです。
現行ゴルフの“究極形態”的な完成度が魅力
さて、今回久々の復活となったゴルフのディーゼルですが、搭載するのは「パサート」から導入が始まった最新世代の2Lターボ。気になる排ガス浄化システムは、尿素水溶液(Adブルー)を使うSCRなどを駆使して最高水準のクリーン度を達成しています。そのパワー&トルクは150PSと340Nmで、同時期に投入された「シャラン」用のTDIと比較すれば若干控えめな数値になりますが、コンパクト級のサイズに対しては十二分といえるもの。
実際、その走りはディーゼルならではの充実したトルクが印象的です。同じゴルフならスポーツ仕様の「GTI」に匹敵するトルクなだけに、加速自体も強力そのもの。音や振動、といったディーゼルにつきものの弱点も走っている限りは一切気になりません。また、これは先行上陸した「ティグアン」のTDIでも確認済みでしたが組み合わせる7速DCT(ツインクラッチの新世代AT。VWでの呼称はDSG)との相性が良いことも魅力のひとつ。発進時から回転上限に至るシームレスな加速、そして極低速の微細なアクセル操作にも正確に反応するレスポンスの良さは、前述したゴルフならではの上質感を一層引き立てる出来映え。実のところ、1.2Lガソリンターボのベーシックなゴルフでも実用上の動力性能にはまったく不足はないのですが、一度クリーンディーゼルの余裕を体感してしまうと、そのある種の贅沢感が離れがたいのもまた事実。車重は1.2Lガソリン比で200kg近く、1.4Lガソリン比でも100kg以上重くなるディーゼル仕様ですが、今回試した限りでは操縦性に対するネガティブさもほとんど感じられません。むしろ、乗り心地についてはガソリン仕様より重厚と感じられるほどなので、ゴルフの最上級モデルとして接しても満足度は高いはずです。
上陸してすでに7年目となる現行ゴルフ。実はまもなく本国では新型が発表されるので、モデルライフ的には末期にあたります。しかし、仮に年内に新型が発表されたとしてもそれが日本にやって来るのはまだ先の話。その意味では、完熟の域にある現行型を選ぶ理由は十分にありますし、それがこのクリーンディーゼルであればゴルフが持つ魅力を網羅できることは間違いありません。およそ30万円、というガソリン仕様の価格差は悩ましいところですが、優れた経済性を誇るだけに「理性的に贅沢を味わいたい」というニーズにもピッタリの選択といえるでしょう。
SPEC【TDIハイライン・マイスター】●全長×全幅×全高:4265(4575)×1800×1480(1485)㎜●車両重量:1430(1490)㎏●パワーユニット:1968㏄直列4気筒DOHCディーゼル+ターボ●最高出力:150PS/3500~4000rpm●最大トルク:340Nm/1750~3000rpm●WLTCモード燃費:18.9(17.7)㎞/L ※( )内はヴァリアント
撮影/宮門秀行
【フォトギャラリー(GetNavi webにてご覧になれます)】