乗り物
鉄道
2019/11/9 18:00

災害により寸断された「ローカル線」−−不通となっている19路線の現状をチェックする【後編】

ローカル線の旅〈緊急特集〉 〜〜不通区間それぞれの現実〜〜

激甚災害に指定された台風19号を含め、今年も複数の自然災害が列島を襲い大きなつめ跡を残した。そして多くの鉄道路線が傷ついた。この夏まで全国の不通区間は合わせて272.9kmだった。ところが、この秋に列島を襲った自然災害による被害は甚大で、不通区間は19路線601.1kmと倍増してしまった(11月8日現在)。

 

幹線が、いち早く復旧されたのに対して、残された不通区間は大半がローカル線で、作業にあたる人材確保や復旧費用の捻出に苦悩する鉄道会社も多い。傷ついた全国のローカル線。ここで全国の不通区間を再確認するとともに、復旧の進み具合と、この先どうなるのか見込みを含めリポートする。

 

後編は、前編から引き続き、関東・甲信越の不通区間と、2015年以降に起きた大規模災害により引き起こされた鉄道の不通区間についても見ていきたい。

 

【前編はコチラ
災害により寸断された「ローカル線」−−不通となっている19路線の現状をチェックする【前編】

 

↑11月8日現在、自然災害により不通になっている全国の鉄道路線を地図にまとめた。ご覧のように、東日本に集中していることが分かる。北海道と九州は過去の災害により不通となっている区間で、いまもそれぞれ列車が走らない状況が続く

 

⑪【関東の不通区間5】八高線は11月下旬を目指して復旧が進む

東京都の八王子駅と群馬県の高崎駅を結ぶことから呼ばれる八高線。実際の路線は群馬県の倉賀野駅までで、さらに列車は電化区間の八王子駅〜高麗川駅(こまがわえき)間と、高麗川駅から北の非電化区間に2分されている。不通となっているのはディーゼルカーが走る非電化区間だ。

 

◆JR東日本 八高線:台風19号(10月12日)の被害

不通区間寄居駅〜北藤岡駅間24.5km
被害状況橋脚の変形など
復旧見込み11月下旬

 

乗車してみると児玉駅〜倉賀野駅間は、通勤・通学客が多い。11月下旬まではバスによる代行輸送が続く。

 

【関連記事】
関東平野の最西部を縦断するJR八高線米軍基地に眺望が優れた橋、合流する他社線など見どころが満載

 

↑高崎線から分岐、八高線の最初の駅となる北藤岡駅まで列車が走っている。この先、東武東上本線や秩父鉄道との接続駅・寄居駅まで運休状態が続く

 

 

⑫【関東の不通区間6】両毛線は11月11に運転再開へ

栃木県の小山駅と群馬県の新前橋駅を結ぶJR両毛線。栃木市内を流れる永野川橋りょうが被害を受けて、一部区間が不通となっていたが、11月11日には運転再開となる見込みという情報が入った。

 

◆JR東日本 両毛線:台風19号(10月12日)の被害

不通区間栃木駅〜岩舟駅間8.5km
被害状況永野川橋りょうの橋台背面の流出
復旧見込み11月11日の始発から通常通りに運行予定

⑬【甲信越の不通区間1】千曲川橋りょうが崩落した上田電鉄

ここからは甲信越地方の不通区間を取り上げたい。

 

北陸新幹線の上田駅と上田市郊外の別所温泉駅を結ぶ上田電鉄。上田駅を発車するとまもなく千曲川を渡る。しばらく市街地を走った後に、塩田平をのんびりと走る。この千曲川橋りょうが、千曲川の増水により一部が崩落したことは、TVのニュースによって流されていたので、ご存知の方も多いかと思う。

 

◆上田電鉄 別所線:台風19号(10月12日)の被害

不通区間上田駅〜下之郷駅間6.1km
被害状況千曲川橋りょうの崩落など
復旧見込み城下駅〜下之郷駅間の復旧は11月中旬、上田駅〜城下駅間の復旧は未定(1年後を目処に復旧)

 

地元の支援とともに、活発なPR策が徐々に成果をあげていた上田電鉄。千曲川鉄橋の崩落は鉄道ファンにとってもショッキングな出来事と言わざるを得ない。すでに国と市、および上田電鉄による連絡調整会議が設置された。早い復旧を目指しての調整が続く。

 

↑千曲川橋梁を渡る上田電鉄の上り電車。対岸の千曲川左岸で、堤防と橋台が流され、左岸側のトラス構造もろとも橋が崩落した。今後は破壊された箇所が利用可能かどうかを判断、復旧への道筋を立てていくとしている

 

【関連記事】
乗って歩けば魅力がいっぱい!「上田電鉄別所線」で見つけた11の発見

 

 

⑭【甲信越の不通区間2】順調に進む!しなの鉄道の復旧工事

台風19号の長野県内の災害映像でショッキングだったのが千曲川を渡る高架橋の崩落だった。千曲川の上を越えていた高架橋が、切断されるように消えてている映像が流されていた。この高架橋・海野橋は北国街道の宿場町、海野宿(うんのじゅく)に向かう海野バイパスの途中にかけられていた。残った高架橋の下をしなの鉄道が走っている。

 

高架橋のこれ以上の崩落が進むと危険ということで、しなの鉄道は長期間、不通となっていたが、応急工事が進められ、11月中旬までには復旧される見込みとなっている。

 

◆しなの鉄道 しなの鉄道線:台風19号(10月12日)の被害

不通区間田中駅〜上田駅間8.7km
被害状況路線の上を通る海野橋の崩落により
復旧見込み11月11日の週には復旧となる予定

⑮【北海道の不通区間1】最終結論は持ち越しとなった日高本線

ここからは、この秋に被害を受けた地域を離れ、2015年以降に起きた大規模災害により引き起こされた鉄道の不通区間の現状を見ていこう。ローカル線を取り巻く、復旧への道筋が容易では無いことが分かる。

 

まずはJR北海道の日高本線から。2015年1月に受けた高潮被害により4年に渡り、路線の8割近くの区間が不通のままとなっている。

 

◆JR北海道 日高本線:高波(2015年1月8日)の被害

不通区間鵡川駅(むかわえき)〜様似駅(さまにえき)間116.0km
被害状況高波により海岸沿いを走る路盤の土砂流出
復旧見込み廃止に向け協議中

 

↑勇払駅(ゆうふつえき)〜浜厚真駅(はまあつまえき)間に架かる厚真川橋りょうを渡る日高本線の下り列車。北海道胆振東部地震の影響で同橋も桁がずれるなど影響を受け、運転再開まで2か月かかった。現在は苫小牧駅〜鵡川駅のみの運行が続けられる

 

1987年の国鉄分割民営化にあたり、経営が危ぶまれた三島のJR(JR北海道・JR四国・JR九州)。ここに来てJR北海道の経営悪化が目立つようになってきている。日高本線の復旧に関しても、JR北海道単独での復旧は無理というのが実情だ。

 

2019年に入って日高本線の沿線7町と個別協議を入っている。JR北海道としては鵡川駅〜様似駅間の鉄道路線の廃止、バス転換を目指す。一方の沿線7町には温度差があり、廃止・バス転換を容認する町と、一部および全線復旧を目指して欲しいという町があり、足並みが揃っていない。最終的な結論はまだ出されていないが、現状を見ると廃止・バス転換はもはや避けられない状況のようだ。

 

 

⑯【北海道の不通区間2】映画で知られる根室本線の幾寅駅だが

根室本線は函館本線の滝川駅から根室駅まで延びる443.8kmという長大な路線だ。本線とはいうものの、現在は札幌駅〜釧路駅間の特急「スーパーおおぞら」が走る石勝線+根室本線が本線扱いで、他はローカル線の色合いが濃い。中でも富良野駅〜新得駅間は超閑散区間となっている。同区間の中で2016年の台風10号による被害で東鹿越駅(ひがししかごええき)〜新得駅間が、不通になったままとなっている。

 

◆JR北海道 根室本線:台風10号(2016年8月31日)の被害

不通区間東鹿越駅〜新得駅間41.5km
被害状況斜面崩壊、土砂流入など
復旧見込み2020年度中に富良野駅〜新得駅間を廃止の方針

 

↑列車が走っていたころに訪れた幾寅駅。駅表記が「幌舞駅」となっているが、これは映画「鉄道員(ぽっぽや)」のロケ地として使われた駅名をそのままにしたもの

 

北海道の鉄道路線はその多くが石炭輸送、石灰石輸送や原木輸送などの貨物輸送を見込み開業した路線が多い。鉄道貨物の輸送量が落ち込み、旅客輸送のみでは立ちゆかなくなっている現状がある。国も北海道も、日高本線、根室本線の廃止やむなしの立場とされる。

 

来春には札沼線(さっしょうせん)の北海道医療大学駅〜新十津川駅間(47.6km)の廃止が予定されている。道内のローカル線が徐々に消えていく。何とも寂しい限りだ。

⑰【九州の不通区間1】豊肥本線の名物区間が2020年度に復活

北海道から九州に移り、残る不通区間を見ていこう。JR九州の路線で復旧が遅れている2路線がある。まずは豊肥本線から。2016年に起きた熊本地震から早くも3年が経った。阿蘇を抜けて九州を東西に貫く路線が不通になったままとなっていたが、復旧工事が進められていた。

 

◆JR九州 豊肥本線:熊本地震(2016年4月16日)の被害

不通区間肥後大津駅〜阿蘇駅間27.3km
被害状況51か所で斜面崩壊、土砂流入、路盤流失など
復旧見込み2020年度内に運転再開予定

 

↑豊肥本線の不通区間の名物といえば、立野駅〜赤水駅間にあるスイッチバック区間。立野駅を発車した下り列車は、この先にあるスイッチバック転向線で方向転換。阿蘇外輪山の傾斜地をゆっくりと登る長閑な情景が魅力だった

 

↑上の写真とほぼ同位置で写した2017年5月末の様子。地震から1年たち、線路はすっかり錆が浮き、また付近の棚田も放置された状態になっていた。かつての美しい風景が取り戻せるのだろうか

 

2019年4月10日に国土交通省、熊本県、JR九州による「JR豊肥本線復旧連絡協議会」が開かれた。そこで工事工程を精査、国が実施中の阿蘇大橋地区の斜面崩落部の対策を2019年度末に概成させる。そしてこの部分をJR豊肥本線の復旧工事用ヤードとして活用する等の連携工事が進められることとなった。そして豊肥本線は2020度内に運転再開を目指すとされた。

 

不通区間では、最も工事が難航するだろうと見られていた阿蘇大橋地区。大規模な山崩れによって国道325号の阿蘇大橋が崩落、国道57号が不通となった区間である。この地区ではそそり立つ山のほぼ頂上部分から、山崩れを防ぐように大規模な工事が進められていた。国道の復旧とともに平行する豊肥本線の復旧工事が連携して進められ、復旧への道のりが、より明らかになった。

 

運転再開となれば、かつて走ったクルーズトレイン「ななつ星in九州」が再びこの路線を走り、また観光特急「あそぼーい!」も復活となりそうだ。楽しみにしたい。

 

【関連記事】
熊本地震で被災した九州の鉄道事情豊肥本線は1年前とどう変ったのか

 

 

⑱【九州の不通区間2】日田彦山線の名物めがね橋も過去のモノに

豪雨災害は時に、大切な文化遺産を奪ってしまうことがある。日田彦山線は福岡県と大分県の内陸部を走る68.7kmローカル線。日豊本線の城野駅(じょうのえき)と久大本線の夜明駅(よあけえき)を結んでいた。このローカル線が2017年7月の九州北部豪雨により寸断された。

 

不通区間には名物だっためがね橋が架かる。この名物のめがね橋を列車が走る姿は今後、見ることができない可能性も出てきた。

 

◆JR九州 日田彦山線:九州北部豪雨(2017年7月5〜6日)の被害

不通区間添田駅(そえだえき)〜夜明駅間29.2km
被害状況複数の橋りょうの橋脚の傾きや変形、斜面崩壊、土砂流入など
復旧見込み未定

 

↑筑前岩屋駅〜大行司駅(だいぎょうじえき)間にある栗木野橋りょう。太平洋戦争の直前、資材に事欠いた1938年に完成したため無筋コンクリート充複5連アーチ橋という特異な構造を持つ。同線には他に宝珠山橋りょうというめがね橋もある

 

日田彦山線の復旧では、不通区間の復旧費用の一部を国や沿線自治体が負担するという合意が得られていた。しかしその後、路線の維持管理は自治体で、運営はJR九州が行うという「上下分離方式」を提示されたことから話し合いが進んでいない。復旧を諦め、BRT(バス・ラピッド・トランジット)化する案も示されている。

⑲【九州の不通区間3】22年度中に再開を目指す南阿蘇鉄道

JR豊肥本線とともに、熊本地震により大きな被害を受けた南阿蘇鉄道。地元町村により運営される第三セクター鉄道だ。路線は立野駅〜高森駅間の17.7km。うち豊肥本線との接続駅、立野駅〜中松駅間の被害が大きかったことから長期間の不通となってしまった。

 

◆南阿蘇鉄道 高森線:熊本地震(2016年4月16日)の被害

不通区間立野駅〜中松駅間10.5km
被害状況橋脚損傷、トンネル内亀裂、のり面崩壊、土砂流入など
復旧見込み2022年度中に復旧予定

 

↑立野駅に近い立野橋りょうを渡るトロッコ列車。この先にある第一白川橋りょうの損傷が目立つため、同橋は架け替えされることになった

 

南阿蘇鉄道は2018年から不通区間の復旧工事がすでに始められている。第一白川橋りょうの損傷が著しく、同橋は架け替えられることになった。そのために工事費は膨らみ、最大で70億円になる見通し。国は復旧費の97%を負担する方針としている。復旧は2022年度の予定で、立野駅まで復旧した後は、列車が豊肥本線への乗り入れるプランも協議されている。

 

【関連記事】
【費用は65億円超】熊本地震被災からの復旧を目指す南阿蘇鉄道の施策と取り組み

 

 

【まとめ】大半が復旧するなかでBRT化で延命する策も論じられる

現在、路線が不通となっている19線区のうち、北海道の2線区は廃止となる気配が強くなっている。一方で、この秋に被災した線区は大半が、復旧までの期間に長短の差があるものの、路線復旧へ向けて調整、そして工事が進められていることが分かった。

 

予断が許さないのが、地方を走る閑散路線だろう。例えば、九州の日田彦山線のように、経営基盤が弱い三島のJRが運営し、さらに地元自治体にも余力が無いところでは、BRT(バス・ラピッド・トランジット)化が避けられないのかも知れない。すでにJR東日本の大船渡線や気仙沼線ではBRT化が進められた。

 

こうした方策も一つの鉄道路線の延命策と言えるだろう。ただし筆者個人としては、やはり鉄道路線が残せるのであれば、鉄道の方が賢明だと思う。一度廃止してしまった路線は復活するのは新線を造ることと同じように経費がかかる。

 

地球温暖化により、台風、豪雨といった自然災害は深刻さを増していくと予想されている。今後、出現して欲しくは無いものの、災害により不通になった鉄道路線をどのように復旧していけば良いのだろうか。いま国や自治体、そして私たち自身を含め、改めて公共交通機関の維持の仕方が現状のままで良いのかどうか、問われているように思われる。

 

↑市街地の復活を目指す陸前高田市。玄関口となる大船渡線の陸前高田駅も2018年4月に新市街地へ移った。BRTは乗車した記憶としては、専用道路上は、あまり乗り心地が良いとは言えなかった。とはいえ渋滞に巻き込まれにくいのは長所と言えるだろう

 

【ギャラリー】