世界中の自転車メーカーが続々と参入する電動アシスト付きのスポーツバイク市場。「e-Bike」と呼ばれる新時代の自転車は、欧州を中心に人気が高まり市場規模は213万台にまで達しています。国内でも、当初は電動ママチャリと呼ばれる“子乗せモデル”を得意とするメーカーの派生モデル的な位置付けで市販されていましたが、最近では“ガチ系ローダー”が愛用する本格的なバイクメーカーも数多く市場へと参入し、新たな消費者へのアプローチを始めています。
e-MTBの傑作モデルが新たな時代の扉を開ける
今回、ここで紹介する「パワーフライ5」はツール・ド・フランスやハンマーシリーズへも参加し、スポーツバイクの頂点に君臨するトレック社から2020年モデルとして追加されたニューカマー。スタイリッシュなMTBでありながらも、新型のパワーユニットを搭載。コンパクトなボッシュ製ユニットと共に、バッテリーをダウンチューブに内蔵しているのが大きな特徴です。
既存のe-BIKEは「バッテリーを後付けした違和感」があり、スポーティなスタイルをスポイルしていたことは否めません。しかし、同モデルはMTBらしい武骨なフレームにバッテリーを一体化させることで“違和感”を解消。これぞ新時代のe-MTBという新たな扉を開けたのです。今回は試乗車として用意された同モデルを連れ出し、その魅力に迫ってみたいと思います。
ボッシュ製の新型ユニットの魅力に迫る!
パワーフライ5の特徴はボッシュ製の新型ユニット「Performance CX ドライブユニット」を搭載していること。ユニットのコンパクト化はクランク部分のデザイン性を大きく向上させ、チェーンステーを短縮化させたフレーム設計を実現しました。さらには最大トルクを75Nmへと引き上げることでよりスポーティなアシストを行うと共に、24km/hでアシストが切れた状態でもペダリングの抵抗を大幅に軽減することでハイスピード状態での巡航性能を向上させているのです。
同ユニットの特徴的な性能として「eMTBモード」が与えられ、滑りやすい泥濘路面や狭い場所でのターンではペダルの踏み込みトルクに対して適正なアシスト量を瞬時に判断するバリアブルな機能を搭載。本格的なクロスカントリーで力を発揮してくれます。
前項目でも触れたバッテリーの搭載スタイルがパワーフライ5の大きなセールスポイント。アルミ製の極太ダウンチューブと一体化した500whの大容量バッテリーは、スタイルに違和感を与えることなくデザイン性をアピールしています。
フレームと一体化されたバッテリーはキーロック(バッテリー脱着位置の反対側にある鍵穴を使用)によって脱着することが可能ですが、実はシートチューブの根元にあるキャップをめくると充電用のジャックが装備されており、車体にバッテリーを装着した状態でも充電することができます。その利便性はスマホやパソコンと同様で、充電設備が整ったガレージを持つユーザーにとっては脱着の手間が省けるスタイルになっています。
フレームサイズの展開も豊富で小柄な女性にも対応
そのスタイルからパワーフライ5が電動アシストMTBと気が付く人は少ないはず。スマートなデザインは大きなセールスポイントになっています。唯一、e-Bikeを見分けるポイントはハンドルバーの左手元にあるサイクルコンピュータ風の液晶ディスプレイ。液晶の左側にある上下スイッチを操作することで「ECO」、「TOUR」、「TURBO」、「eMTB」の4モードに切り替えることでき、視認性の良い画面には車速と共にモード、5段階のバッテリー残量が表示され、走行中でも違和感なく状況を把握することができます。
2020年モデルとして登場した同モデルは、S~XLまで4つのフレームサイズが用意され、小柄の女性から180cmを越える長身のユーザーに対応。実際、試乗したモデルはLサイズでしたが、身長が160cmの小柄な筆者でも問題なくライドすることができました。これもダウンスローピングデザインのトップチューブの恩恵で、シートポストが低く調整することができ、体格への対応レンジが広く設計されているのは嬉しい限り。MTBやロードバイクはサイズ選びが大きなキモになるのですが、対応力の広いフレーム形状が同モデルの大きなアドバンテージになっています。
さぁ、実際に街中でライドの旅を楽しんでみよう!
今回の試乗は東京都内の市街地。アップダウンの激しい都内では電動アシストのありがたみがよく分かりました。MTBといえば悪路を走るトレイルモデルのイメージがありますが、悪路を走破できる太いタイヤは市街地での使い勝手も抜群です。
ロードバイクのように細いタイヤでは、路面の凸凹や歩道の段差はパンクの原因となり、信号が多くストップ&ゴーの多い都心では意外と乗りにくいもの。それに比べてローギアードなMTBは都心で利便性も高く、ヘビーデューティな走破性は都心の移動でも大きな味方になることを実感しました。
パワーフライ5はフロントにサスペンションを持ちながらもリヤはリジットの「ハードテイル」と呼ばれるモデル。フロントのショックは120mmのトラベル量を持つロックショックス製。同モデルは29インチというMTBの流行を取り入れた大径ワイドリムホイールと29×2.30というファットなタイヤを組み合わせ乗り心地も快適。
ブレーキに関しても高い制動性能を発揮するテクトロ製の前後ディスクブレーキを採用しているので、通常のリムブレーキとは異なり雨の日でも安心。ギアはフロントシングル、リヤ12速のコンビネーション。フロントのギアが小さいせいかパンツの裾を撒き込むことなく、チェーンカバーの無いスポーツバイクでありながらもパンツの裾をベルトで固定することなくスムーズにライド。カジュアルスタイルで使用する街乗りバイクとしても優秀です。
E-bikeに搭載されるドライブユニットはクルマで言えばエンジンに相当し、その味付けが性能に直結します。コンパクトなPerformance CX ドライブユニットはデザイン性を高めるだけでなく性能も抜群。ペダルに力を加えた瞬間から“グイッ”とトルクが発生し、漕ぎ出しのパワフルさを感じることができました。通常、スタート時にはギアを軽くすることが必要になるMTBですが、ギアの選択を意識しなくても1、2枚重めのギアでもスイスイと走り出せるのは街中でのライドには有り難く、急な坂道でもシッティング(座ったまま)でグイグイと登ってくれました。
バッテリーをフレームに内蔵するということは、その分だけ剛性が落ちるのではと心配していましたが、そんなネガティブな印象は全くありません。極太のダウンチューブは高い剛性を発揮し、内蔵されたバッテリー自体もフレーム剛性を保つパーツとして機能しているようです。
気になる点とすれば、アシストを入れたままハイケイデンス気味でペダルを回していると「ヒュイーン」というモーター音が耳につくこと。これは慣れの部分も大きいとは思うものですが、アナログのMTBに乗っている人にとっては気になるといえば気になる部分。
また、狭い歩道でのUターンではアシストモードをOFFにするか「eMTBモード」にシフトすることをおすすめします。坂道を登り切ってパワフルな「TURBOモード」のまま転回しようとすると、必要以上のアシストが働いて自分が予想した以上に車体が前に押し出されてしまうので注意してください。
市街地では「ECOモード」、巡航できる道では「TOURモード」に切り替え、上り坂での発進や急坂では「TURBOモード」にシフトすることで快適なライドが楽しめるパワーフライ5。街中でのライドが楽しくなり、人力のMTBはたどり着けなかった場所まで足を伸ばしてみたくなりますよ。
試乗を終えた感想はスタイリッシュでエキサイティングなパワーフライ5には電動アシストMTBという新時代の楽しさが凝縮していると言うこと。今回は市街地での試乗に終わってしまいましたが、悪路でのトレイルでも大きな感動を与えてくれるに違いありません。
ウイークデイは市街地を、そして休日は荒野を楽しむことができる新時代のe-MTB。MTBフリークにとって電動アシストを受けることは決して「堕落」ではなく、新たな景色を見せてくれる「武器」として世界を広げてくれることでしょう。ただし、46万円という車両価格をどう捻出するかが一番の問題になりそうですが……。
撮影/中田悟
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