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2019/12/31 10:30

フランス流のラグジュアリーはいかが? 最新コンパクトSUV「DS 3 クロスバック」に乗ってみた

ここ数年、世界的に見ても一番ニューモデルの投入が活発になっているSUVカテゴリー。2019年も国内外で数々の“新作”が発売されていますが、今回はその中でも極めつけの個性派、DSオートモビルズの「DS 3 クロスバック」を紹介しましょう。

 

【今回紹介するクルマ】

DSオートモビルズ/DS 3 クロスバック
※試乗車:グランシック 411万5000円

価格:304万5000円~411万5000円

↑サイドビューは、リアドアのウインドー下端が前方に向けてキックアップ、センター(B)ピラーと一体化する「シャークフィン」や立体的な面構成が特徴的です

 

【フォトギャラリー(GetNavi webサイトにてご覧になれます)】

 

名車の名を戴く新生プレミアムブランドらしい、華やかにして個性的なエクステリア

まずはクルマの前に「DSオートモビルズって何?」というところから。DSオートモビルズとは、プジョーやシトロエンを擁するPSAグループが2014年に立ち上げた新生プレミアムブランドです。当初はシトロエン時代にデビューした「DS3」や「DS4」、「DS5」を販売していましたが、2017年に初の完全オリジナルとなるSUVの「DS 7 クロスバック」を発表しています(日本では2018年に発売)。ちなみに、ブランド名のDSとは1955年に登場した名作、「シトロエンDS」にちなんだもの。このクルマに触れ始めるときりがないので興味を持たれた方はぜひともご自身で調べていただきたいのですが、その独創的な作りと何者にも似ていない造形センスは後の自動車界にも多大なる影響を及ぼしています。筆者も晩年のモデルに試乗したことがありますが、天才肌のエンジニア(アンドレ・ルフェーブル)とアーティスト(彫刻家)でもあったデザイナー(フラミニオ・ベルト―ニ)の共作、DSの初体験は衝撃以外の何者でもありませんでした。

↑1955年に登場した「DS」(写真は廉価版の「ID」)。当時宇宙船とも呼ばれた先進的なスタイリングに加え、往年のシトロエンを象徴する技術でもあった窒素ガスと油圧を駆使した「ハイドロニューマチック」サスペンションを初めて搭載したクルマでもありました

 

脱線しそうなので話を戻しましょう。そんな自動車史に残る名作の名を戴く、DSオートモビルズのオリジナル第2弾となるのが今回の「DS 3 クロスバック」です。全長4120×全幅1790×全高1550mmというサイズからも察せられる通り、クラスとしてはコンパクトSUVに分類されますが、最大の特長は個性的にして凝りに凝った内外装のデザインでしょう。さらにフランス流ラグジュアリーを体現する、と公言するブランドの作だけに質感の高さも一般的なコンパクトSUVの域を超えています。

↑日本仕様は「Be Chic(ビーシック)」、「So Chic(ソーシック)」、「Grand Chic(グランシック)」の3グレードで構成されます。今回の試乗車(写真)は最上級のグランシックでした

 

外観で特に印象的なのは、柔らかで複雑な面構成と随所にエッジを効かせたキャラクターラインが織りなすサイドビュー。「シャークフィン」と名付けられた前方に向けてキックアップするセンターピラー形状は、3ドアハッチバックだったDS3を彷彿とさせる造形ですが、それ以前に普通のSUVとは明らかに異なる独自性をアピール。

↑ボディカラーは写真のウィスパー(パープル)などの8色をラインナップ。ルーフカラーも3色が用意されています(バイトーンルーフ)

 

質感、という意味ではわざわざウインドー回りのウェザーストリップが見えないようにした仕立てが繊細さの表現として実を結んでいますし、このクラスでは異例なポップアップ式ドアハンドルの採用もプレミアムブランドの作品らしいディテールといえるでしょう。また、このドアハンドルを筆頭として随所にクロームパーツが散りばめられているのも外観的特徴のひとつとなっていますが、華やかでいながら下品さの一歩手前、ともいうべき絶妙な使い方にもフランス流のプレミアム性が見出せるかもしれません。

↑クロームのドアハンドルは、コンパクトクラスでは珍しいポップアップ式を採用しています。

 

↑グランシックのホイールは18インチ(タイヤサイズは215/55R18)。ビーシックとソーシックは17インチが標準となります

奇抜でいながら操作性、質感はハイレベル。装備も最新モデルに相応しい水準

室内は、そんな外観以上に“跳んだ”仕立てとなっています。ファブリックを大胆に使ったインパネは上質であることはもちろん、デザインはもはや奇抜と表現できるもの。特に中央のインフォテインメント系の操作部は普通のクルマでは考えられない形状、レイアウトになっていて初めて目にすると戸惑う人も多いはずです。とはいえ、これが単なるデザイナーの“お遊び”に終わっていないあたりはシトロエンを源流とするブランドの作らしいところ。戸惑うのは最初だけで、実際に使ってみれば不都合なことは一切ありません。

↑「デザイナーの仕事」を実感させるインパネ回り。グランシックのインパネは、「バスチーユ・インスピレーション」と名付けられた華やかさを感じさせる仕立て。2019年12月には、グランシックがベースとなるオフホワイト内装の限定車、「リヴォリ」も発売されました(40台、416万円)

 

↑インフォテインメント系のセレクトボタンとエアコンルーバーが菱形モチーフで統一された操作系。他には見られない造形です

 

↑最新のプジョーもそうですが、セレクターを筆頭とするスイッチ類もデザイン性の高さを感じさせる仕立てです

 

また、デジタルを基本とする視覚系グラフィックが細部に至るまで気を配ったデザインであることに加え、往年のシトロエンを彷彿とさせる表示が選べることもマニア的には嬉しいポイントといえるでしょう。その一方、パッケージング自体は常識的。SUVとしては低めな全高や絶対的サイズを思えば室内は必要にして十分な広さですし、荷室容量はむしろ大きな部類といえますが、この部分で非凡な才を見せていたかつてのシトロエンを知る人は多少の食い足りなさを感じるかもしれません。

↑メーターのグラフィックは、複数から選択が可能。その中には往年のシトロエンに採用された「ボビンメーター(レタリングされた円筒が回転して数値を表示)」を模したものも

 

とはいえ、いまや独立したブランドであるDSオートモビルズのクルマを往年のシトロエンと比較するのは無意味なことなのでしょう。実際、シトロエンを含めて目に入る部分の上質感という点ではあまり褒められなかった往年のフランス車と比較すれば、DS3クロスバックのそれは間違いなくラグジュアリーと呼べる出来栄え。最新モデルらしく装備品も充実していて、特に運転支援システムに関してはドイツ勢を筆頭とする既存のプレミアムブランドに対しても遜色のない水準にあります。その意味で、このクルマの内外装は上質なだけにとどまらず個性を重んじたいプレミアム志向のユーザーにとって十二分な説得力を持つことは間違いありません。

↑サイズ、座り心地ともにハイレベルなフロントシート。上質な乗り心地に貢献していることは間違いありません

 

↑ダイヤ状のステッチが印象的なグランシックのシート表皮はレザーが標準。後席空間は、ボディサイズ相応というところ

 

↑後席使用時の荷室容量は350L。容量だけでなく、使いやすい形状も特徴的です

 

↑凝った機能は採用されていませんが、分割可倒式の後席を完全に畳むと容量は1050Lまで拡大します

まさに最新フレンチ・ラグジュアリー、ともいうべき快適性が際立つ!

現状、日本に導入されているDS 3 クロスバックのパワートレインは3タイプあるグレードを問わず1.2L直列3気筒ガソリンターボ+8速ATのみ。今回の試乗車は最上級のグランシックでしたが、その走りもプレミアムなコンパクトSUVとして満足できる出来栄えでした。

走り出して最初に気付くのは、プレミアムなクルマらしいボディのしっかり感。DS 3 クロスバックにはPSAグループの新世代骨格、CMP(コモン・モジュラー・プラットフォーム)が採用されていますが、従来のPF1プラットフォーム比で剛性が30%向上しているという謳い文句にウソ偽りはなさそうです。また、しっかり感はあっても乗り心地にしなやかな繊細さを感じる点もフランス車らしい魅力のひとつ。乗用車ベースのSUVの場合、路面からの細かな凹凸を拾う、悪くいえばザラザラとした乗り心地を示す個体が少なくないのですが、DS 3 クロスバックにそんな悪癖はなく滑らかなで上質なライド感が満喫できます。

 

サスペンションはフロントがストラット、リアはトーションビームというコンパクトカーでは定番の構成ですが、前述の秀逸な乗り心地に加え操縦性も侮れない水準にあります。特にスポーティな設定ではありませんが、背の高さを意識させない漸進的なロール感やステアリング操作に対する正確な応答性、さらに“粘り腰”で十二分な安定性を確保するリアの動きと相まって、乗り手さえその気になればスポーティな走りにもしっかり応えてくれます。

 

グランシックでも車重は1280㎏、ということで1.2Lターボがもたらす動力性能も必要にして十分というところ。組み合わせるトランスミッションがワイドレンジな8速ATなだけに、日常的な走りではシームレスな加速と優れた静粛性を実感。音や振動、という点では不利な3気筒のネガを意識することはありません。もちろん、高回転になれば相応に室内に飛び込む音は大きくなりますが、決して不快な音質ではないので積極的にエンジンを回す歓びも見出せます。2020年内には日本にもピュアEV仕様の「E-TENSE」が導入されるというDS 3 クロスバックですが、純粋な実用性や質感という点ではこのガソリン仕様を選んでもユーザーが後悔することはないはずです。

↑日本仕様のパワーユニットは、いまのところ1.2Lの3気筒ガソリンターボのみ。これに8速ATを組み合わせます

 

となれば、結論は明らか。DS 3 クロスバックは、コンパクトSUVとして間違いなく狙い目の1台です。プレミアムブランド、ということでお値段は相応に高くなりますが輸入車で主流のドイツ勢に対するオルタナティブとしても自信を持ってオススメできます。いまや各メーカーからさまざまな選択肢が提案されているSUVカテゴリーにあって、とりわけ個性を重視したいユーザーにピッタリなことは言うまでもないでしょう。

↑走りはフランス車に対する期待を裏切らない、しなやかな乗り心地と懐の深い操縦性が魅力的です。絶対的な動力性能も必要にして十分

 

SPEC【グランシック】●全長×全幅×全高:4120×1790×1550㎜●車両重量:1280㎏●パワーユニット:1199㏄直列3気筒DOHC+ターボ●最高出力:130PS/5500rpm●最大トルク:230Nm/1750rpm●WLTCモード燃費:15.9km/L

 

撮影/菊池貴之

 

【フォトギャラリー(GetNavi webサイトにてご覧になれます)】