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2020/3/8 18:30

魅力はSL列車だけでない!「東武鬼怒川線」の気になる11の逸話

【鬼怒川線の逸話⑤】沿線に7件の国の登録有形文化財が残る

ちょっと寄り道してしまったが鬼怒川線の旅に戻ろう。大谷向駅を発車すると車窓には左右に広々した水田が広がる。うっそうと繁る林を抜けると大桑駅に到着する。この駅からは再び人家も増え、そして国道121号がぴったりと並走して走るようになる。

 

しばらく走ると川を越える。この川は鬼怒川の支流で、砥川(とかわ)もしくは板穴川と呼ばれる流れで、上に鬼怒川線の砥川橋梁がかかる。この橋梁、歴史的な橋でもある。橋上の三角形の組み合わせ・トラス部分が、1897(明治30)年に設けられた日本鉄道磐城線(現・JR常磐線)の阿武隈橋梁だったものだ。移設してこの橋の架橋に使われた。明治期の貴重な構造物で2017年に国の登録有形文化財となっている。鬼怒川線では同じ年に7件の建造物が有形文化財として登録された。ここでその7件を確認しておこう。

↑トラス部分が有形文化財に登録された砥川橋梁。平行する国道121号の橋上に案内板(右上)が掲示される。通るのは253系特急きぬがわ

 

(1)砥川橋梁:大桑駅〜新高徳駅間、本文を参照

(2)下今市駅旧跨線橋:駅の西側にある跨線橋で、内部は鬼怒川線の登録有形文化財を紹介するギャラリーとして活用される。

(3)(4)大谷向駅上下線プラットホーム:上下ホームを2件として別々に登録

(5)大桑駅プラットホーム:玉石積盛土式と呼ばれる方法で築造

(6)新高徳駅プラットホームおよび上家:ホーム上の上家は古レールを用いた鉄骨づくり

(7)小佐越駅プラットホーム:こちらの駅も玉石積盛土式のホーム

 

鬼怒川線にある9つの駅の中で、5駅も国の有形文化財に登録された建築物があるというのもすごい。それだけ大規模な変更や、改築が行われず、ここまで使われてきたということなのだろう。

 

 

【鬼怒川線の逸話⑥】あれ〜っ? 岩に刻まれた顔は何だろう?

筆者は鬼怒川線に何度か訪れているが、最近まで気付かないことがあった。登録文化財の砥川橋梁で撮影していたときのこと。夏期に出向いた時は木々が繁りで見えなかったのだが、橋の向こうに大きな顔を刻んだ岩が見える。この不思議な岩は何だろう?

↑鬼怒川線の砥川橋梁の上に見える謎の岩。米ラシュモア山の彫像が再現される。左上は別角度から見た左端ジョージ・ワシントンの像

 

この顔が刻まれた岩は、かつてウェスタン村というテーマパークがあったその跡に残る。ウェスタン村は西部開拓当時のアメリカ西部を再現して設けられた。このウェスタン村のシンボルが岩に刻まれた顔で、元になったのはアメリカのラシュモア山に刻まれた4人のアメリカ大統領の彫像だった。同ウェスタン村は2006年に長期休園となり、以降は整備されることもなく廃虚となっている。

 

創設者が西部開拓史の興味をいだき造ったとされる同村。今となってはなぜ巨額の費用を投じてラシュモア山を、コピーしなければいけなかったか理解に苦しむ。観光業という業種には、栄枯盛衰があることを私たちに示すかのようである。

 

【鬼怒川線の逸話⑦】新高徳駅の異様に広い駅前広場の謎

砥川橋梁を渡り、深い渓谷を刻む鬼怒川橋梁を越えると、間もなく新高徳駅に到着する。同駅、昨年にリニューアルされたばかりで、駅舎や跨線橋、トイレなどが非常にきれいになった。そして駅員もレトロな服装で出迎える。SL大樹の運行により、鬼怒川線は、こうして大きく変りつつあることが実感できる。

 

一方、変らないこともある。有形文化財に登録されたホームとホームの上家、そして駅前の広さは以前のままである。この新高徳駅、迂闊なことに、この駅前の広さに理由があったことを、最近まで気付かなかった。

 

なぜ、新高徳駅の駅前広場が不釣り合いなほどに広いのだろう。実はかつて、この駅から異なる路線が分岐していたのである。

↑改装された新高徳駅、駅前広場の手前方向に矢板線の線路があった。国道121号を越えた先に路線跡を利用した地方道が伸びる(左下)

 

かつて東武矢板線という路線が新高徳駅と、現在のJR矢板駅の間を走っていた。東武鉄道に吸収される前の下野電気鉄道時代に造られた全長23.5kmの路線で、1929(昭和4)年に全通している。沿線の木材などの輸送に使われのち、1959(昭和34)年に廃止された。

 

旧矢板線の路線は新高徳駅の南側から東に向けてカーブし、鬼怒川にほぼ沿って走った。かつての線路跡は、今も新高徳駅前の広場として残り、また矢板方面へ続く路線の跡は県道77号線、途中からは国道461号に沿って直線的に伸び、その多くの区間が今も地方道として活かされている。

 

 

【鬼怒川線の逸話⑧】撮影地として人気の新高徳駅〜小佐越駅間

新高徳駅から次の小佐越駅(こさごええき)にかけて、進行方向右手に国道352号が走り、左手に鬼怒川が流れる。鬼怒川の流れはこのあたり、緑に包まれているために車窓から見えない。国道側から見ると、線路の背景に緑が多いということもあり、SL大樹を撮影に訪れる人も多い。

 

下記の写真は新高徳駅〜小佐越駅間で撮影したもの。午前中に走る下り列車の場合に、正面は影になりがちだが、右サイドに光があたる写真が撮影できる。

↑平行する国道121号から撮影したSL大樹。この時は後ろに補機を連結しなかったため、煙を上げて走る姿が目撃できた

 

前述した以外の撮影スポットにも触れておこう。他に人気があるのは、大桑駅〜新高徳駅間の「国道121号の栗原交差点付近」、「砥川橋梁」、そして東武ワールドスクウェア駅〜鬼怒川温泉駅間にある「鬼怒立岩信号場(きぬたていわしんごうじょう)付近」が複線区間に撮影者が多く集まる。

 

鬼怒川線の沿線は単線ながら線路の両側に架線柱が立つ箇所が多い。そのため電信柱が写真に入りやすい難点がある。鬼怒立岩信号場〜鬼怒川温泉駅間の複線区間ならば架線柱を入れずに撮ることができる貴重な撮影スポットでもある。

↑3月8日までは補機を連結しない姿が見られた。2両目には札幌駅〜青森駅間を走った急行はまなす用の客車・ドリームカーが連結される

 

各スポットとも最寄り駅から徒歩20分以内。沿線には駐車場が少ないこともあり、鬼怒川線を利用しての撮影をおすすめしたい。

 

ちなみに筆者は本稿の「おもしろローカル線の旅」を執筆+撮影するにあたり、列車と徒歩でほとんどの路線を巡っている。乗り鉄+ウォーキングは美味しい空気や地元の味(飲酒できることも魅力です!)が楽しめるとともに、身体にも良いように感じている。

 

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