ハイブリッド(HV)車というと、日本ではトヨタを筆頭とする国産車の十八番(オハコ)とのイメージを抱かれる方も多いと思いますが、近年は海外ブランドでも急速に増殖。特に外部充電システムを組み合わせたプラグインHV車の選択肢は、もはや国産勢を凌ぐほど。今回は、その代表格にして究極といえるモデルをご紹介しましょう。
[今回紹介するクルマ]
メルセデス・ベンツE 350 de
※試乗車 メルセデス・ベンツE 350 de アバンギャルド スポーツ
価格:875万円
厳しさを増す世界的な環境規制に対するプレミアムブランドの回答
最初にプラグインHV車とはなんぞや、という点を改めておさらいしておきましょう。その最大の特徴は、ソコソコに大きな電力量を持つバッテリーと外部充電システムを組み合わせ、短距離の移動ならEV(電気自動車)として使えること。EV時の航続距離は、このカテゴリーの代表格といえる三菱「アウトランダーPHEV」が65kmでトヨタ「プリウスPHV」が68.2km。最長のホンダ「クラリティPHEV」でも114.6km(各数値はJC08モード)、先日発表されたトヨタ「RAV4 PHV」がWLTCモードで95kmというあたり。
日本では家庭用電源がAC100Vとなるため、AC200V以上が基本となるプラグインHV(とEV)を自宅で充電するには別途電源工事が必要なこと(一部例外あり)。そして内蔵バッテリーの電力を使い切ると単に重たいHV車に過ぎないこともあって(車両価格も高価です)、標準的なHV車ほどの普及度には至っていません。
では、なぜ海外勢がプラグインHV車に熱心なのかというと、欧州などでは元々家庭用電源が高電圧なので余計なコストがかからないこと。そして、メーカー側の都合としてはカタログ上の燃費スペックを“爆上げ”できることも挙げられるでしょう。
遠からず欧州で導入される燃費(環境)規制はメーカー単位で基準をクリアできないと厳しいペナルティが科せられます。そのため、高性能車(燃費が悪い)をラインナップするメーカーほど、標準的なモデルは低燃費化の底上げが必須となるわけです。
また、徐々に普及が進んでいるとはいえEVが従来からの内燃機関のクルマにとって代わるには、いろいろな面でまだまだ時間が必要であることも事実。その点、ガソリンスタンドに代表される古くからのインフラがそのまま使えるプラグインHV車は、とても合理的な選択肢ともなり得るわけです。
ハイテクでも内外装の作りはベース同様にさりげなく……
さて、前置きが長くなって恐縮ですが今回のお題、メルセデス・ベンツE 350 deはクリーンディーゼルのプラグインHV車であることが最大の特徴です。国産勢と比較するとEV時の航続距離は50km(欧州のWLTPモード)と控えめですが、低燃費(低炭素)で鳴らすディーゼルエンジンを組み合わせたことで、プラグインHV車としての環境性能は間違いなくトップクラス。EV、クリーンディーゼル、HV、そしてプラグインという具合に構成要素を列挙すると、現在望み得るクルマのエコ技術が網羅された1台とも言えるでしょう。
とはいえ、その見ためや装備はベースとなる「Eクラス」と大差がありません。全高が若干高いことを除けば4950mmの全長や1850mmの全幅は標準的な内燃機関のEクラスと同じ。細部を除けば、デザイン上でも特別な差別化は行なわれていません。
室内に目を転じても、それは同じ。電動化にともない、ディスプレイに専用グラフィックが与えられるなど細部の違いはありますが、基本的にはベース車と同じくミドル級のプレミアムセダンらしい仕立てです。例によって多少視覚的な閉塞感はあるものの、前後席はセダンらしく十分な広さが確保。適度な新しさを感じさせるインパネのデザインや細部まで行き届いた質感の高さは、いかにも現代のメルセデス・ベンツらしいところ。
もちろん、レーダーセーフティパッケージに代表される運転支援システムやコネクティビティ機能の充実ぶりも最先端レベル。元々が高価なクルマですから当然とはいえ、“高級な”プラグインHV車として最も強い説得力を持つ存在であることは確かでしょう。
唯一、見ためや使い勝手でベース車と大きく異なるのは明らかに小振りなラゲッジスペース。容量は実用的といえる370Lが確保されていますが、内燃機関のEクラスは540Lなので170Lも少なくなるわけです。実際、荷室にはバッテリーを追加したことによる大きな出っ張りがあり、かさ張る荷物の積載は厳しそう。後席にトランクスルー機構が備わるので長尺物の積載は可能ですが、ミドル級のセダンとしては残念な部分といわざるを得ません。
たとえば、クラリティPHEVはキャビン床下に薄くバッテリーを敷き詰め、セダンでも512Lの荷室容量を実現しているだけに、個人的には「もう少し何とかならなかったのですか?」というモヤモヤした気分が残ります。
プレミアムなセダンだからこそ際立つEV走行時の高級感
とはいえ、その走りはEクラスでこのプラグインHV仕様を選ぶ理由を見出すのに十二分な出来映えでした。前述のように、搭載エンジンは194PSと400Nmを発揮する2Lのクリーンディーゼルターボで、これに122PSと440Nmの電気モーターをドッキング。システム総合の最高出力は306PS、最大トルクは700Nmを叩き出します。
後者については4LのV8ツインターボを積む「メルセデスAMG E63(750Nm~)」を例外としてEクラス最強といえば、どれほど強力なアウトプットであるかがお分かりいただけるでしょう。
実際、アクセルを深く踏み込み2つのパワーユニットをフル活用した際の力強さは、プラグインHV車という仕様からイメージされる以上。車重が2080kg、とこれもEクラスで一番のヘビー級とあってAMGモデル並みの迫力とはなりません。ですが、積極的にクルマを操りたい乗り手の嗜好に応える速さの持ち主なのは間違いありません。
また、傑作ユニットとして世界的にも高く評価される2Lディーゼルは、ナチュラルなアクセルレスポンスと高い静粛性を実現しているのでハイブリッド走行時の快適性もハイレベル。もちろん、ディーゼル特有の音を意識させる場面が皆無とはいいませんが、高級セダンとして不満のない水準にあることは確かです。
ですが、実はそれ以上に印象的なのはEVモードの走行時。電気モーター単体でも前述のトルクなので、日常的なアクセル開度なら多少道路に勾配があっても一切それを意識させない力強さを発揮。また、いかにも電気駆動らしい滑らかな加速感と静粛性の高さは、Eクラスというプレミアムなセダンに相応しいもの。この点はベース車からしてハイレベルなのですが、E 350 deはそれに輪をかけた高級感が味わえます。
もちろん、クルマとして注文を付けたい部分はあります。2トン超えの車重を支えるためなのか、荒れた路面を突破するシーンなどではサスペンションからの入力が不自然な場面があります。また、ハンドリングについては純内燃機関のEクラスほどナチュラルというわけには行きません。さらに付け加えるなら、EV走行時の高級感が最大で50kmしか愉しめないのも個人的には不満です。
ですが、全長が5m近く車重が2トン超えのセダンでもWLTCモード燃費が15.9km/Lという優れた経済性。そして、エコを意識した作りでも高級感が一切削がれていない点には魅力を感じずにいられません。その意味で、E 350 deは乗り手の豊かな生活スタイルと社会性への配慮を“さりげなく”演出したいニーズにぴったりな選択肢といえるでしょう。
SPEC【E 350 de アバンギャルド スポーツ】●全長×全幅×全高:4950×1850×1475mm●車両重量:2080kg●パワーユニット:1949cc直列4気筒DOHCディーゼル+ターボ+電気モーター●最高出力:194[122]PS/3800rpm●最大トルク:400[440]Nm/1600~2800rpm●WLTCモード燃費:15.9km/L
撮影/宮越孝政
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