【鉄道貨物の秘密③】深夜の東海道本線を快走する貨物電車は?
宅配便の鉄道貨物へのシフトが著しい昨今だが、2004(平成16)年から専用列車を東京〜大阪間に走らせるのが宅配便大手の佐川急便。「スーパーレールカーゴ」というニックネームが付く列車が使われている。この専用列車のため特別な車両が開発された。
通常の貨物列車は機関車がコンテナ貨車などを牽いて走る。ところが、スーパーレールカーゴに使われるのは動力分散方式を採用した〝電車〟なのである。M250系電車と名付けられ、4M12Tという構成。電動車ユニットが4車両、その間に付随車ユニット12両を挟み、計16両で走る。
かつて筆者はM250系の取材をしたことがあった。その時、担当運転士は「通常の貨物列車と比べて、電車のように動きがスムーズですね」と話してくれた。
貨物電車M250系の最高運転速度は130km/h。設計最高速度は140km/hになる。この性能を活かして、東京貨物ターミナル駅〜大阪・安治川口駅間をかかる時間は下りが6時間12分、上りが6時間11分で走りきる。ちなみに1958(昭和33)年に登場した特急「こだま」は、東京〜大阪間を8時間前後かかっている。「こだま」が登場してから約40年後に登場したM250系。時代の変化が実感できる貨物列車だ。
【鉄道貨物の秘密④】真昼に新宿駅や渋谷駅を通過する貨物列車
東京の都心では、貨物列車の姿を見ることは一部の路線をのぞいて、ほぼない。首都圏を通過して、列島の南北間を結ぶ貨物列車が多いのにかかわらずだ。都心で見ない理由は多くが武蔵野線を迂回して走っているから。武蔵野線は、都心部の混雑緩和のため、主に貨物列車の通過を念頭に設けられた。1976(昭和51)年に、都心を迂回してぐるりと回る武蔵野線の現在のルートが完成している。
以降、隅田川駅に発着する貨物列車以外は、都心部ではほとんど貨物列車を見かけなくなった。しかし、一部が残っており、しかも池袋駅、新宿駅、渋谷駅といった都心の駅を、ほぼ正午前後に通過する列車があった。
3086列車がそれで、札幌貨物ターミナル駅発、名古屋貨物ターミナル駅行き。埼京線や湘南新宿ラインの列車が走る線路を抜けていく。電車待ちをしている人たちは、まさに意表をつかれた、というような表情で赤い電気機関車+コンテナ車20両の長大編成の列車の通過を見守る。
山手線と平行、埼京線の電車が走る路線は、実は山手貨物線という路線名が今も残っている。古くは貨物線だったわけで、貨物列車が通過してもおかしくは無い。実際に、今も1日に3往復の貨物列車が走っている。そのうち5本は電車が走らない深夜2時台、1本は朝5時前後。唯一、3086列車のみ昼に通過していくのだ。
ちなみに雪が多く降り積もるような真冬には、コンテナの屋根に雪を残して走る姿も珍しくない。さすが北国・札幌発の貨物列車である。
【鉄道貨物の秘密⑤】日本海縦貫線ってどこの路線のこと?
貨物列車の専用時刻表「貨物時刻表」を愛読書としている鉄道ファンも多いのではないだろうか。この時刻表には、今も「日本海縦貫線」の時刻を掲載したページがある。さて、日本海縦貫線という路線が今もあるのだろうか。
この日本海縦貫線は路線の正式名ではない。日本海に面して走る北陸本線、信越本線、羽越本線、奥羽本線といった路線の総称である。北陸本線は、すでに北陸新幹線の延伸により、新潟県、富山県、石川県の一部の路線は、第三セクター化してしまい、北陸本線の名称すら怪しくなりつつあるのだが。
そんな状況の中でも、貨物列車の世界では、日本海縦貫線の名前には変化がない。まさに貨物列車の世界では“王道”、“鉄板”とも呼ぶべき路線名といって良い。ちなみに同路線には、前述した最も長距離区間を走る貨物列車以外に、関西地方と北陸、新潟、青森、北海道を結ぶ列車が走る。日本海側の都市にとっては欠かせない重要な路線であり、首都圏を通るよりも、走行距離と時間を減らすことが可能な大切なバイパスルートでもあるのだ。