【豊肥本線の記録⑥】やはり注目は立野駅近くのスイッチバック
鉄道好きにとって豊肥本線で最大の楽しみといえば、やはり立野駅〜赤水駅間のスイッチバック区間であろう。しかも、豊肥本線は珍しいZ字形を描く“三段スイッチバック”が楽しめるのである。豊肥本線の同区間ができたのが、1918(大正7)年1月25日のこと。当時はもちろん蒸気機関車が牽引する客車列車のみで、勾配がきつい路線を走りきることが難しかった。
そのために傾斜を緩めるためにスイッチバックが導入されたのである。熊本駅から走ってきた列車は立野駅(標高277.4m))のホームにまず到着する。ここでしばらく停車。ホームに停まる間に運転士は前から後ろへ移り、列車は進む方向を換える。
そして静かに発車する。列車は今まで走ってきた線路を左に見て、右側に続く急坂を登って行く。特急「あそぼーい!」に乗車すると客室乗務員の次のようなアナウンスを聞くことができる。
「これよりスイッチバックの中間地点に到着いたします。進行方向を変えて運転をいたします」とスイッチバック構造の簡単な解説が車内に流される。
山の斜面に2つめのスイッチバックする箇所に転向線がある。ここの標高は約306m。立野駅からこの折り返しまでの長さ1kmほどの距離で、30m近くものぼったことになる。
この区間で停車した列車内では、また運転士が前から後ろへ忙しそうに移動して、進行方向を変える。発車した列車は、さらに高度を上げていくのである。周囲に広がる豊肥本線の名物ポイント「棚田」を見ながら徐々に登っていくのが楽しい。次の赤水駅の標高467.4mで、わずか1駅間で200m近くも列車は登って行くのである。
ちなみにスイッチバック区間のその先にある阿蘇大橋付近は、大規模な斜面崩落が起り、国土交通省による復旧工事が行われた。外輪山の山頂部、標高740m地点まで徹底して手が入れられ、斜面の途中からは「土留盛土」工事が行われた。「崩落斜面の恒久安定化対策」が施されたことにより、安心して通れるルートと生まれ変わっている。このあたり熊本側から走った左手に、大規模な工事跡があるので、ぜひ見ておきたいところだ。
ちなみに並行して走る国道57号の復旧は10月ごろになる予定で、豊肥本線がひと足早い復旧となった。
【豊肥本線の記録⑦】ななつ星in九州も豊肥本線を走るだろうか
震災の前まではJR九州自慢のクルーズトレイン「ななつ星in九州」が豊肥本線を走っていた。豪華列車は果たして豊肥本線を戻ってくるのだろうか。
残念ながら新型感染症の流行もあり、「ななつ星in九州」は3月から運休を余儀なくされていた。さらに7月の豪雨災害も重なり、運転を見合わせていた。8月15日から運行が再開される。その行程は。
3泊4日コースは九州の東側、日豊本線をたどるコースが中心となる。このコースでは1日目から2日目にかけて、大分駅から阿蘇駅へ列車が入線する予定だ。残念ながら熊本駅方面へは向かわない。
一方、1泊2日コースでは、1日目は長崎県へ。2日目に熊本駅から豊肥本線の阿蘇駅(宮地駅での折り返し)までの行程が組み込まれた。
筆者はこの豪華列車が運転開始したころに、取材のため列車を追いかけた経験がある。立野駅近くの棚田が広がる名物ポイントで構えたが、通過したのは早朝5時40分過ぎ。陽の短い季節、しかも雨が降る朝で、あえなく“撃沈”となってしまった。
今回の運転では阿蘇駅に停車するのは6時〜9時25分ごろになった。立野駅のスイッチバック区間は5時台の運転となりそうだ。今度はぜひ陽の長い日に訪れ、朝日を浴びて走る「ななつ星in九州」に出会ってみたい。
【豊肥本線の記録⑧】立野駅で接続する南阿蘇鉄道の復旧は?
豊肥本線の立野駅といえば、忘れてはいけないのが同駅で接続する南阿蘇鉄道である。立野駅近くにある立野橋梁をはじめ、美景があちこちで楽しめた。
この南阿蘇鉄道も、立野駅から長陽駅(ちょうようえき)までの間が特に深刻な被害を被った。道床流失、土砂流失にとどまらず、立野橋梁の橋脚損傷や、同線一の美景が楽しめるポイントだった第一白川橋梁が軌道の狂い、鋼材の歪み、そしてトンネルの亀裂多数などが起り、大規模な復旧工事が必要となった。
そのため現在は中松駅〜高森駅間の運転のみとなっている。被害の規模の大きさから復旧が危ぶまれた南阿蘇鉄道だったが、地元の熱意が実り2018年3月に復旧工事を開始、予定では2023年の夏には復旧の見込みとされる。
豊肥本線に比べて、こちらはやや先のことになるが、運転されるトロッコ列車に乗車できる日が楽しみだ。