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2020/11/30 6:30

歴史好きは絶対行くべし!「近江鉄道本線」7つのお宝発見の旅【前編】

【お宝発見その③】今や近江鉄道本線そのものがお宝だと思う

ここで近江鉄道本線の概要を見ておきたい。

路線と距離近江鉄道本線/米原駅〜貴生川駅47.7km
*全線単線・1500V直流電化
開業1898(明治31)年6月11日、近江鉄道により彦根駅〜愛知川駅(えちがわえき)間が開業、1931(昭和6)年3月15日、米原駅〜彦根駅の開通で現・近江鉄道本線が全通
駅数25駅(起終点駅を含む)

 

近江鉄道の会社の創立は1896(明治29)年と今から120年以上も前のことになる。当時、琵琶湖の東岸には1889(明治22)年に、東海道線の膳所駅(ぜぜえき)〜米原駅間が開業していた。また1889(明治22)年に関西鉄道により草津駅〜三雲駅間が開業。さらに翌年には柘植駅(つげえき)をへて、四日市駅までも路線が延伸された。現在の草津線、関西本線にあたる路線の開業だった。

 

こうした路線開業に刺激され、まだ鉄道が通っていない地域に鉄道路線を、と旧彦根藩士や近江商人が寄り集まって鉄道計画を立ち上げた。とはいえ、旅客以外に地元の農産物を運ぶ程度の貨物利用ぐらいしか見込めず、経営基盤は脆弱だったとされる。まずは1898(明治31)年6月11日に彦根駅〜愛知川駅間を、同年7月24日に愛知川駅〜八日市駅間を開業させた。営業を始めたものの、経営状態は厳しく、その後の路線延伸が危ぶまれたが、1900(明治33)年10月1日に八日市駅〜日野駅間が、同年の12月28日に日野駅〜貴生川駅間が開業している。

 

米原駅〜彦根駅間の開業は1931(昭和6)年3月15日と、かなり後のことになる。区間開業ながらも彦根駅〜貴生川駅間は明治時代に開業した歴史ある路線なのである。

 

ちなみに近江鉄道の八日市線は新八日市〜近江八幡駅間が1913(大正2)年12月29日に。また多賀線の高宮駅〜多賀大社前駅間が1914(大正3)年3月8日に開業している。

 

近江鉄道は創業時から、この会社名を名乗っている。こうした私鉄は非常に珍しい。国土交通省鉄道局が発行している鉄道要覧で確認しても、現在も列車を走らせている鉄道会社のうち、近江鉄道は最古級の歴史を持つ。

 

とはいえ経営基盤は弱く、開業早々に財務整理案が持ち上がるなど、苦難の連続だった。その後には関西鉄道に合併を持ちかけ、また主要路線の国有化が進められた時代には国有化を請願したが、受け入れられることはなかった。その後には滋賀県内の電力供給を行う宇治川電気の傘下にはいり、米原駅まで路線の延伸を行う。当時はその先、三重県の伊勢神宮まで路線を延ばす遠大な計画まで立てている。

 

宇治川電気の傘下だった時代は長く続かなかった。宇治川電気が太平洋戦争中に電力事業の戦時統制令で消滅してしまったためである。その後は西武グループの大元となった箱根土地の傘下に入った。西武鉄道の創業者、堤康次郎は近江鉄道沿線の出身だった(愛荘町下八木/最寄り駅は愛知川駅)。故郷に自らが築いた西武鉄道が関係する企業を持ちたかったのだろうか。以降、近江鉄道は現在に至るまで西武鉄道グループの一員となっている。

 

大手私鉄のグループ内の一企業とはいうものの、ここ最近は長年にわたり鉄道事業は赤字で、2016年には「単続経営での運営は困難」と滋賀県に申し入れを行っている。県や自治体との法定協議会が開かれ、他の交通手段よりも、近江鉄道を存続させた方が賢明、という結論が出たこともあり、一応は存続が決まっている。

 

120年以上、その名前が続いてきた鉄道会社であり、湖東地方の人々の暮らしを支える公共交通機関として、この路線自体もお宝と言って良いだろう。

 

なお近江鉄道の路線は、2013年3月以降に愛称が付けられている。米原駅〜多賀大社前駅までは「彦根・多賀大社線」、高宮駅〜八日市駅間が「湖東近江路線」、八日市駅〜貴生川駅間が「水口・蒲生野線」、八日市駅〜近江八幡駅間が「万葉あかね線」という名称だ。各路線にはラインカラーも設定されている。名付けられた愛称は、各区間の沿線の歴史、観光スポットや特色に由来するとしている。すでに7年たっているが、4区間とは異なる運行区間を走る列車が多い(万葉あかね線を除く)。観光で訪れた者にとっては、かえって分かりづらいように感じてしまうのだった。

 

【お宝発見その④】西武電車好きとしてはお宝級の車両がずらり

走る電車は西武グループの一員ということもあり、すべてが西武鉄道の譲渡車両がしめる。その形式を紹介しておこう。

 

◇800系

11編成22両が在籍する。元西武鉄道の401系で1991(平成3)年から1997(平成9)年にかけて譲渡された。西武時代には正面が平面な切妻タイプだったが、近江鉄道に入線後は、3枚ガラス窓に改造されている。塗装は黄色一色が基本だが、企業などの広告ラッピングを施した編成も走る。

↑黄色一色で走る800系は在籍車両数も多く近江鉄道の主力車両となっている。改造された正面のガラス窓3枚が特徴となっている

 

◇820系

2編成4両が在籍する。800系と同じく種車は西武401系だが、こちらは車体の四スミの角を削った“切り欠け改造”と、正面に付けていたステンレス板を外すという改造箇所も少なめで、西武401系のオリジナルな姿を色濃く残している。2編成のうち、822編成は、2016(平成28)年に近江鉄道の創立120周年ということで赤電塗装に塗り替えた。赤電塗装は西武電車が1960年代から70年代にかけて取り入れた赤を基本にした車体カラーのことを指す。

↑820系の1編成のみ、西武のレトロカラー赤電塗装に塗られ近江路を走り続けている。正面にはサボも取り付けられ種車の趣満点だ

 

◇100形(2代目)

5編成10両が導入される。西武では新101系および301系で改造した上で2013年から2018年にかけて導入した。塗装は琵琶湖をイメージした水色(オリエントブルー)に白帯で、トップナンバーの101編成のみ「湖風号」の愛称とロゴが付けられている。新101系は西武鉄道でもまだ現役ということもあり、そんなに古さは感じさせない。

 

◇900形

2013年に導入した形式で、種車は100形と同じく新101系。当初は埼玉西武ライオンズのチームカラー、レジェンドブルーに塗られていたが、2019年に塗り替えられ、ベージュベースに水色、赤帯の「あかね号」塗装に塗り替えられている。この車両はロングシートがメインだが、連結器側にクロスシートが設けられ、臨時列車、イベント列車としても使われている。

↑八日市駅に並ぶ900形「あかね号」と100形(右)。元の車両はどちらも西武新101系だが、100形は水色に白帯の塗装で統一されている

 

◇300形

2020年8月から走り始めた新車両で1編成2両のみが走る。元は西武の3000系で、自社の彦根電車区で改造された。塗装は100形と同じ水色(オリエントブルー)だが、こちらには白帯が付かず、水色一色となっている。近江鉄道初の白色LED行先表示器や、車内案内表示装置などを付け、新しいイメージの電車に仕上がっている。なお、彦根の車両基地には、元西武3000系が数両、留置されており、改造待ちの様子。徐々にこの300形に改造され、古い800系に代わって行くものとみられる。

 

いずれにしても西武電車が好きなファンには興味をそそる車両構成だ。週末になると、近江鉄道に乗車する鉄道ファンらしき姿が多いが、その中に、首都圏からの遠征組が見受けられるのも、うなずけるところだ。

 

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