クルマのキャラクターを「深く」理解する上で一番有効なのは、やはりそのクルマと長く接すること。そこで今回は2020年秋のアップデートで全グレードが電動化されたボルボのクロスオーバーSUV、V90クロスカントリーで北陸を目指してみました。プレミアムにして個性的選択でもあるこのモデル、果たしてどんな一面を見せてくれるのでしょうか?
ボルボV90クロスカントリー
744万円~904万円(試乗車:B6 AWD Pro 904万円)
SPEC【B6 AWD Pro】●全長×全幅×全高:4960×1905×1545mm●車両重量:1920kg●パワーユニット:1968cc直列4気筒DOHCターボ+電動スーパーチャージャー+電気モーター●最高出力:300ps/5400rpm●最大トルク:420Nm/2100~4800rpm●WLTCモード燃費:11.3km/L
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2020年のボルボは日本仕様の全モデルをハイブリッドとプラグインハイブリッドに!
プレミアムブランドの中では、早々にパワーユニットのフル電動化に向けたビジョンを明確にしたボルボ。2020年も主力モデルが矢継ぎ早にアップデートされ、日本導入モデルはガソリンのハイブリッド、もしくはプラグイン・ハイブリッドにすべて置き換えられました。その結果、本格導入からさほど経っていないクリーンディーゼル仕様はすでに新車販売のラインナップからドロップしています。
ディーゼルはガソリンとは別途で整備体制を整えねばならない等、導入に際しては相応のコストが生じているはず。さらに近年、新車販売の主流となっているSUVカテゴリーではディーゼル人気が高いことまで含めると、個人的には初めて日本向けボルボのディーゼル撤退という話を耳にした際に「なんてもったいない!」という印象を抱きました。
ディーゼル版ボルボの商品力が決して衰えていなかったことを思えば、それはなおさらの話です。ですが今回、ハイブリッドとなったV90クロスカントリーに接したことで少なからず考え方が変わりました。なぜなら“プレミアム級”SUVのパワーユニットとして、ガソリンのハイブリッドがピッタリといえる仕事ぶりを披露してくれたからです。
V90クロスカントリーのパワーユニットは48V電装を組み合わせたガソリンのハイブリッドに統一
さて、導入以来初の大幅アップデートとなったV90シリーズにおける最大のトピックは、先述の通りパワーユニットが一新されたことです。純内燃機関だったガソリン仕様の「T5」と「T6」、そしてクリーンディーゼルの「D4」に代わり、高効率な48V電装を組み合わせたガソリンハイブリッドの「B5」と、それに電動スーパーチャージャーを組み合わせた「B6」を新採用。また、ステーションワゴンのV90にはプラグインハイブリッドの「リチャージ・プラグイン・ハイブリッドT8」が新設定。導入される全グレードが、電動化モデルとなりました。
V90をベースとしたクロスオーバーSUV、V90クロスカントリーが搭載するのは250ps/350Nmを発揮するガソリンターボ+電気モーターのB5と300ps/420NmのB6。ハイブリッド化にあたって、2Lのガソリンターボは実に90%ものパーツが新設計。シリンダー表面処理の改良などで摩擦抵抗の低減を図るなど、高効率化と洗練度が高められたほか、条件に応じて2気筒での走行を可能にする気筒休止システムも組み合わせて経済性を向上させています。
また、48V電装の導入によって可能となったB6の電動スーパーチャージャーは絶対的なパフォーマンス向上に加え、従来のT6に採用されていたルーツ式スーパーチャージャー比でエンジン重量の低減や快適性の向上などにも貢献しています。
安全性に定評あるボルボらしい新機軸としては180km/hの最高速度リミッターとケア・キー導入もニュースのひとつ。どちらもボルボ乗車中の死亡事故、重傷者の発生をゼロにすることを目的に採用されたもので、後者は運転経験が浅い、あるいは不慣れなドライバーに貸し出す際などに最高速度をリミッターより低く設定できるもの。人によっては「余計なお世話」と感じるかもしれませんが、古くから独自の事故調査チームを組織して安全性向上に取り組んできた、他ならぬボルボの決定だと思えば納得する人は多いはずです。また、日本の環境で走らせる限り、リミッターやケア・キーで不利益を被るユーザーはいないでしょう。むしろ、ケア・キーについては不測の事態における暴走抑止するという意味でのメリットも期待できるはずです。
持ち前の安全性の高さ、という点でも新しいV90シリーズは万全です。ボルボらしい「対向車対応機能」に代表される衝突回避・被害軽減ブレーキの最新版「シティセーフティ」に加え、全車速追従機能付きアダプティブ・クルーズコントロール(ACC)や車線維持支援機能、道路逸脱回避機能などは全車に標準で装備されています。
プレミアムなハイブリッド車に相応しい静粛性と振動の少なさでディーゼルとの違いをアピール!
今回北陸までの試乗に供されたのはV90クロスカントリーのトップグレードとなる「B6 AWD Pro」。名前の通り、搭載するパワーユニットは2Lガソリンターボ+電動スーパーチャージャー+電気モーターという“フルコンボ”状態。これに8速ATを組み合わせて、駆動はSUVモデルらしい4WDとなります。ちなみにB5を搭載するV90クロスカントリーも、トランスミッションと駆動方式はB6と同じ。装備内容がほぼ同じ仕様も選べますから、B5とB6のどちらを選ぶかは絶対性能の要求水準(と予算)次第というところでしょう。
試乗の行程に関する指定は特になし。東京を出発したら、あとは夜までに金沢に到着すればOKという、良い意味で緩いものでした。そこで、カメラマン氏の提案により経由地を飛騨市に設定。今回は古典的な日本の風景とV90クロスカントリーの組み合わせで行こう、ということに。
まずは、都内から首都高速を経て中央道を目指したのですが、走り出して最初に実感したのは黒子に徹するエンジンの仕事ぶりでした。いまや音や振動が煩わしいディーゼルなど、少なくともプレミアムを自認するブランドのクルマでは皆無。ボルボのディーゼルもその例に漏れませんでしたが、新しいB6はそれに輪をかけて静粛、かつ振動の類がありません。快適性の点においてガソリンとディーゼルに極端な差がないのはいまや常識。とはいえ、たとえばエンジン違いの同じクルマで比較すれば、音にしろ振動にしろガソリンの優位がついぞ揺らがなかったのもまた事実。
ディーゼルといえば経済性の高さや持ち前の大トルクを活かした日常域の力強いドライブフィールも魅力ですが、低速でストップ&ゴーを繰り返す使用環境なら洗練度は良質なガソリンエンジンの方が一枚上手。B6は、そんなことを改めて実感させてくれる出来映えです。構造上、EVを彷彿とさせる電気駆動モデルらしさはソコソコといったところですが、エンジン自体が静粛なことに加え、アイドリングストップ&スタート時の振動も上手に抑え込まれているのでプレミアムSUVらしい高級感に不満を抱くことはありませんでした。
そんな好印象は、随所にアップダウンが存在する中央道に入っても変わりません。今回の旅程は担当編集氏と前述のカメラマン氏が同乗するオジサン3名+撮影機材+1泊分の私物×3という状況でしたが、当然ながら動力性能は余裕たっぷり。アクセルを深く踏み込む領域でこそロードノイズをかき分けて室内に進入したエンジン音を意識することになりますが、それとて絶対的なボリュームは最小限。音質も不快な類ではありませんから、積極的に走らせる場面ではほど良いBGMにもなり得ます。
また、当日はコロナ渦ながら交通量が多めということでACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を筆頭とする運転支援機能もあれこれと試したのですが、制御の洗練度が高いことも印象的でした。この種の機能は、ドライバーの運転スタイルに合わないと嫌われる傾向があったりもするのですが、V90クロスカントリーのそれはクルマ任せにしてもストレスを感じない水準にあります。寄る年波のせいなのか、もはや自分のペースで走れない環境だと運転することが面倒になってきている筆者のような人種には、ロングドライブの疲労を軽減する上でも間違いなく有効な機能になり得ていました。
オーディオなどの快適装備もアップグレード! シャシー性能も熟成の域に到達
飛騨に直行する場合、ルートは中央道から上信越道に入り松本ICまで利用するのが普通ですが、今回は諸般の事情から岡谷ICで降りて一般道から上高地をかすめて高山、飛騨に至る国道158号線を目指しました。東京を出発してすでに数時間。雑談のネタも尽きてきたのでオーディオのBGMで気分転換を図りました。
試乗車にはオプションのB&Wプレミアムサウンド・オーディオシステムが装備されていたのですが、出てきた音に早速反応したのが音楽好きの担当編集氏。実は今回のマイナーチェンジで、B&Wのシステムもアップデート。ウーファーのコーン素材が変更されたほか、ツィーターも新しいダブルドームに。さらにアンプが強化されDSPのモードも一層充実したものとなっています。その昔、カーオーディオの別冊を作っていた筆者の場合、その変更内容は理解できても従来型と比較して音がどう変わったのかは分かりかねたのですが、とりあえず走行する車内でもクリアな音質で、かつ聞いていて気分を高揚させる音作りであることは確認できました。また、装備面ではワイヤレス・スマートフォン・チャージも標準化されたので、Apple CarPlayなどのリンク機能を活用すれば手持ちのライブラリーを気軽、かつ高音質で楽しめるようになったことも朗報といえそうです。
国道158号線は典型的な山越えの国道、ということで、その折々で今回は操縦性も簡単にではありますがチェックしました。クロスカントリーも含めたV90シリーズは、ボルボの主力プラットフォームである「SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)」を採用。電動化や自動運転時代に対応するとともに、シャシー性能もそれ以前のボルボ車より大幅に底上げされたのですが、新しいV90クロスカントリーでは洗練度も着実にアップしていることが確認できました。
以前、SPAを採用した初期のXC90に試乗した際は十二分な剛性感が確認できる一方、ステアリングに伝わるフィードバックなどに粗さを感じたものですが、それももはや昔の話。いざ乗り手がスポーティに振る舞おうと思えば、それに応えられる能力はしっかりと備わっています。また、ベースとなるV90より大幅に地上高を高めたクロスカントリーですが、ロールを筆頭とする挙動は基本的にナチュラル。B6搭載車のタイヤは45扁平の20インチという好戦的なサイズですが、乗り心地もプレミアムなSUVとして満足できる仕上がりでした。
十二分な存在感を発揮しながら、日本の風景にもマッチするフォーマルさも両立
さて、そんなロングドライブのひと区切りとなる飛騨市に到着したのは昼を大幅に過ぎた時間帯。遅めの昼食を済ませ、早速“フォトセッション”に突入したのですが古風な飛騨の町並みとの相性はご覧の通り。ボルボによれば、V60をステーションワゴンの本流とするなら、このクルマのベースとなったV90はスタイリッシュな風情を重視したスペシャルティ系ワゴンとのことですが、そこにSUVテイストをプラスしたV90クロスカントリーは個性派でいながらフォーマル性も兼ね備えた仕上がりといえるでしょうか。
ワゴンベースのクロスオーバーとしては異例に高い地上高(本格SUVに匹敵する210mmもあります)と、天地が薄く、そして前後に長いボディの組み合わせは好き嫌いがはっきり分かれるであろう“攻めた”佇まい。ですが、存在感を主張しつつも決して悪目立ちする造形ではないことは飛騨市内に佇む写真からも明らかです。いまやSUVはコンパクトからプレミアム級まで選択肢が豊富ですが、それだけに単にSUVというだけで個性的な選択にはなり得なくなっているのも事実。その意味では、サイズ(とクラス)相応の落ち着きを確保しつつ、普通のSUVとは明らかに違うカタチのV90クロスカントリーは狙い目の1台といえるでしょう。
残る行程、飛騨から金沢まではせっかくなので後席に居場所を移しました。一般的な乗用車の場合、前席と後席を比較すると純粋な乗り心地は前後のタイヤから距離が取れる前席が勝るというのが普通。そこで、巨大でロープロファイルなタイヤを履いたV90クロスカントリーではどの程度の落差があるのかという、少し意地悪な視点で試してみたのですが結果的には十分に快適でした。
大ぶりなサイズ、なおかつワゴン用としてはホールド性にも優れたリアシートは秀逸な座り心地で、心配されたタイヤからの入力も許容範囲内。長いホイールベースの恩恵でフラットなライド感が満喫できました。ファミリー層を筆頭に、この種のモデルは後席の使用頻度が高くなるはずですが、この出来映えなら後席に座る家族から不満が出ることはないでしょう。
……と、後席のツッコミどころをあれこれ探している間に目的地である金沢へは夕食前のタイミングで到着。ほぼ1日中走り続けの状態で、普段の新車試乗会と比較すれば格段に長い時間をクルマと過ごしたわけですが、結果的には定評あるボルボの長所ばかりが目立ったというのが正直な感想です。
ちなみに、全行程を通じた燃費は11km/L弱。カタログのWLTCモード燃費が11.3km/Lであることや、なにひとつ燃費を考慮した走らせ方をしなかったことを思えば秀逸な結果です。日本では軽油がガソリンより圧倒的に安いので、純粋な燃料費で依然ディーゼルが優位なのは確か。ですが、おそらくV90クロスカントリーを選ぶユーザーにしてみれば、その差はもはや誤差の範囲内といえるかもしれません。
ボルボのディーゼルを所有する担当編集がB6に乗って思ったこと
担当編集・尾島の愛車はボルボのディーゼル車です(2019年式)。近い将来ボルボのラインナップからディーゼルが落ちると聞きつけ、「これはなんとしても手に入れておかねば」と清水の舞台から飛び降りる勢いで購入しました。泉のごとく湧き出るトルク、優秀な燃費、ランニングコストの安さからディーゼルにはとても満足していたわけですが、そんな折、ついにボルボのラインナップからディーゼルがなくなる日がやってきました。
これはぜひとも今後ボルボの主役となる48V電装搭載ガソリンハイブリッドを試さねばなるまい、となかば使命感から参加した今回の試乗会(なんなら、やっぱりディーゼル買っておいてよかった~と思いたかったのです)。実際に試乗して何を感じたのかというと、静粛性とそれがもたらす終始高級車然としたふるまいの上品さ。ディーゼルも乗り込むうちに音や振動はあまり気にならなくなりますが、いざ乗り比べればガソリンハイブリッドの圧倒的な静粛性が際立ちます。加えて電動スーパーチャージャーを追加しているB6はパワーもトルクの厚みも充分で、踏み込めばハッキリと速い。その気になればこの大柄で重たいボディを実に機敏に走らせます。
燃費とランニングコストはディーゼルに軍配が上がりますが、この価格帯のプレミアムカーを購入する層はそこまで目くじらを立てないだろうとも思われ、むしろワインディングをがんがん走った今回の試乗でも11km/Lを余裕で上回る燃費をたたき出すのだから経済性だって合格点。これはガソリンハイブリッド、ありだなぁと思った次第です。ボルボを検討中の皆さん、ディーゼルの不在を嘆く必要はなさそうですよ!(尾島信一)
撮影/神村 聖