ゴールデンウィークを前にした4月29日、ETCを駐車場やドライブスルーなど、高速道路以外の施設で利用を可能にした会員登録制サービス「ETCX(イーティーシーエックス)」がスタートしました。これまでETCは通行料金の決済だけが基本でした。それがいよいよ市中での利用が可能となったのです。
「ネットワーク型ETC」により、低コストでETC決済を可能にした
この新たなサービスのポイントは、「ETCX」のロゴマークを掲示してある加盟店において、現在利用中のETC車載機を使い、自動車に乗ったままで代金などの支払いができることにあります。ETCを通行料以外でのキャッシュレス決済手段として活用するのは初めての取り組みです。そのETCXの大きな特徴の一つとしてあるのが、システムの導入費用がETCよりもはるかに安いということ。
ETCでは走行しながら認証を行なえるよう、高性能なアンテナを装備したために導入コストが高いという課題がありました。ETCXでは利用時の一旦停止を必須とすることでシステムの低価格化を実現したのです。さらに、認証処理などをすべてクラウド上で行なう「ネットワーク型ETC」としたため、必要なシステムは最小限で済みます。これにより、駐車場やガソリンスタンド、高速道路以外の有料道路などでの導入がしやすくなりました。
ETCXのサービス第1弾として提供されるのは、新名神高速道路の鈴鹿パーキングエリア(上り線)の「ピットストップSUZUKA」のドライブスルーで、ここでは乗車したまま料金支払いが可能になります。また、静岡県内の伊豆中央道と修善寺道路の各料金所において2021年7月1日よりETCXサービスを開始予定となっています。特に伊豆中央道と修善寺道路では、ETCXを使うほどに利用料金がお得になる新しい割引制度も予定しているということです。
ただ、現時点で利用できるのはこの2か所のみ。ETCXのサービスを提供するETCソリューションズの中村英彦社長は、「当面の目標として3年以内に100か所、会員数10万人を目指す」としていますが、導入コストが安いとは言え、システム設置には土木工事が必要で、POSレジとの連携も必要です。この負担があることから控えめな目標となったようです。
利用時はあらかじめETCカードとクレジットカードを紐付けておく
それでも、駐車場やガソリンスタンド、EV向け充電スタンド、ドライブスルーなどへの導入により、現金でのやり取りがなくなることでユーザーの利便性は飛躍的に高まります。中村社長は「これまではシステムが高額でETC対応を見送ってきた地方の有料道路などでも有効性は高く、将来的にはマンションや工場などへの入退管理のほか、混雑する道路状況に応じた道路課金なども可能」と述べ、利用の裾野が広がることへの期待を寄せました。
一方、通常のETCサービスとは別サービスであるため、利用者はあらかじめETCカードとクレジットカードを連携させるための登録が必要です。登録を終えるとETCカードは決済のためのIDカードとしての役割を果たすようになり、それ以降の利用方法はETCと同じように乗車したままの決済が可能となります。車載機はETCおよびETC2.0に対応しており、決済は瞬時に行われますが、決済時は車両を一旦停止する必要があります。また、登録してないETCカードでの利用はできないので注意が必要です。
ETCソリューションズでは、本サービスに至るまでに2017年から2020年にかけて試行運用を実施しています。駐車場では2017年に新静岡セノバ駐車場や、名鉄協商パーキング藤が丘effeにおいて、19年にはカーフェリーとして川崎近海フェリーの八戸埠頭(青森県八戸市)でも料金決済を実施。特にカーフェリーでは、ETCに記録されている車両長などの車検情報を活用でき、乗船手続きの簡素化に結びついたそうです。また、ドライブスルーでは20年にケンタッキーフライドチキン相模原中央店で試験運用しています。
現時点で利用できるのは2か所のみという淋しいスタートではありますが、ETCが登場してから20年が経ち、ようやく当初の狙い通りの進展が見られるようになりました。今後、ETCでの利用範囲が広がれば、たとえば駐車場での精算はスムーズになり、電子化により駐車場会社のポイントも貯めやすくなるでしょう。ドライブスルーでも、たとえばカーナビの画面上にメニューが表示されて、直接その画面からオーダーできるようになる可能性もあるようです。そんな利用の広がりに期待したいと思います。
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