全国を走る路面電車の旅 第5回 豊橋鉄道・豊鉄市内線(愛知県)
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愛知県の豊橋市は江戸から数えて34番目の宿場「吉田宿」があったところ。いまもあちこちに旧東海道の宿場町の面影を残している。さて、現在の東海道といえば国道1号。幹線道路らしく交通量が多い。そんな国道1号の真ん中を堂々と走っているのが「豊橋鉄道・豊鉄市内線」だ。この豊鉄市内線、日本で唯一、国道1号を走る路面電車なのだ。
クルマを差し置いて、と言うなかれ。市内線は豊橋市民の大切な足であり、さらに車内でビールやおでんが楽しめるレジャー感覚の路面電車も走っていて人気、そして“元気”な路線だ。
【歴史】豊橋空襲後、街の復興に大きな役割を果たす
豊鉄市内線を走らせている豊橋鉄道は、郊外電車と路面電車という2つの異なる運行形態の鉄道路線をもつ。まずは豊橋駅に隣接する新豊橋駅と三河田原駅を結ぶ渥美線。こちらは元東急電鉄の7200系が活躍中だ。そして、豊橋市内に豊鉄市内線(以下:市内線)と呼ばれる路面電車を走らせている。
市内線の歴史は古い。1925(大正14)年に豊橋電鉄の前身である豊橋電気軌道が、駅前と東田の間に路線を開業させた。1945(昭和20)年6月20日の豊橋空襲では壊滅的な被害を受けたものの、その年の9月には早くも路線を復旧させ、街の復興に大きな役割を果たした。その後、多くの街で路面電車が消えるなか、1982(昭和57)年には新路線を開業させるなど、豊橋市民にとってかけがえのない路面電車の路線となっている。他の都市の路面電車が次々に消えていったなか、東海地方で唯一残る路面電車なのだ。
【車両】最新鋭の低床車両から居酒屋車両まで多彩
多彩な列車が走るのも市内線の魅力。7両と最も車両数が多いのがモ780形だ。岐阜を走っていた名鉄軌道線(2005年廃止)からの譲渡車両で、ほとんどの車両がラッピング広告付き。華やかないで立ちで街の中を走っている。
2008(平成20)年には超低床車両・T1000形「ほっトラム」も登場。白い車体にパステルラインの端正な姿で街の中を走り続けている。
そんななか、今や豊橋名物となったユニーク車両がある。モ3203号を団体用に改造した、その名も「おでんしゃ」。2007(平成19)年の登場以来、冬期を中心に運転され、大好評を博している。
赤提灯が吊るされた車内には長いテーブルが置かれ、まさに走る居酒屋。豊橋産の食材にこだわった名物のおでんを食べながら、ほろ酔い気分で路面電車の旅が楽しめる。団体での貸切も可能だが、個人での利用が中心なので、気の合う友人たちと気軽に乗ることができる。
夏には模様替えが施され、冷えた生ビールが楽しめる「納涼ビール電車」となる。こちらは20年以上も続く人気列車だ。短い路線ながら、イベント列車にも力を入れる“元気”な路線である。
【沿線風景】豊橋市内の名建築&名物グルメを求めて
市内線の運行系統は3種類。赤岩口行きと、市線である運動公園前へ直通する2系統が交互に発着するほか、朝夕ラッシュ時には営業所と競馬場前までの区間列車も運転される。全線が一般道との併用軌道。冒頭で紹介したように、わずか1km足らずだが日本の大動脈、国道1号も走る。旧東海道とも交差しており、東海エリアの路面電車らしい光景が味わえる。
市内中心部を走ることから、観光にも便利。中村與資平の設計による名建築として名高い豊橋市公会堂や、1913(大正2)年築の豊橋ハリストス正教会、豊橋市美術博物館、吉田城など、いずれも市役所前・豊橋公園前の両電停から歩いてすぐの距離にある。終点の赤岩口から、赤岩寺や葦毛湿原など、郊外の見どころへのトレッキングも人気が高い。
最後にグルメネタをひとつ。豊橋を訪れたらぜひとも食べたいのが豊橋カレーうどんだ。近年話題のB級グルメで、カレーうどんの底にご飯が入っている独特の二層構造。ボリューム満点、美味しさ2倍の豊橋カレーうどん、店それぞれで味も異なる。食べ比べてみてもなかなか楽しい。
【TRAIN DATA】
路線名:豊鉄市内線
運行事業体:豊橋鉄道
営業距離:5.4km
軌間:1067mm
料金:150円(全線均一)
開業年:1925(大正14)年
*前身の豊橋電気軌道が駅前〜東田間を開業