クラスを超えた走行性能
今回試乗したのは「e:HEV」と呼ばれるハイブリッド・パワートレーンを搭載したグレード。先代モデルのハイブリッドは「i-DCD」という1モーターのパワートレーンでしたが、e:HEVは2モーターです。基本的にはエンジンを発電用に用い、駆動はモーターが担うシステムですが、エンジンの効率が高くなる高速クルーズ時だけは、エンジンを駆動に用います。加速力に優れるモーターと、一定速でのクルージングで効率が高まるエンジンの得意なところをそれぞれ活かしたパワートレーンといえます。
「i-MMD」と呼ばれていた頃から、そのパワートレーンを搭載したモデルはいくつも乗ってきましたが、完成度にますます磨きがかけられている印象です。発進時はモーターらしい力強い加速が味わえ、中間速度での加減速もスムーズ。過去にドライブした際には、発電機として用いているため、アクセル開度に関わらず一定回転で回り続けているようなエンジン音に違和感をおぼえたこともありましたが、新型「ヴェゼル」ではそうした違和感もほぼ払拭されています。
そして、最も感心したのが足回り。大径ホイールを履き、サスペンションのストロークが長いSUVは舗装路を一定以上のペースで走るとフワフワと落ち着かない印象を受けたり、逆にサスペンションを締めすぎているように感じるモデルも少なくありません。しかし、新型「ヴェゼル」は足回りがしなやかに動きつつも、しっかりと路面を捉え、速度が上がってもタイヤを路面に押し付け続けてくれている印象。低速域では路面の凹凸をいなすように乗り心地が良く、高速域ではしっかり踏ん張ってくれるような足回りです。
2019年、先代モデルに「TOURING」グレードが追加された際、コーナーリング性能の向上に驚いた記憶が鮮明に残っていますが、聞けば新型はこの「TOURING」と同等のボディ剛性を基本に、足回りをさらに煮詰めているとのこと。ボディ剛性を高めることで、サスペンションは柔らかくすることができ、しなやかな動きを実現しているのです。足回りの完成度だけで言えば、2クラスくらい上の高級SUVにも勝るとも劣らない印象でした。
試乗の最後に、限られた時間ですがパワートレインがガソリンエンジンの「G」グレードにも乗ってみました。受注状況は「e:HEV」が93%を占めるとのことでしたが、ガソリンモデルも好印象。出だしの加速や、しっとりした走行感はハイブリッドに分がありますが、バッテリーを積んでいない軽さからくる素直なハンドリングに、こちらも捨てがたいと感じました。メーカー担当者いわく「素うどんのような」グレードとのことでしたが、その分、このクルマの素性の良さが味わえた気がしました。これから選ぶのであれば、どちらも一度乗ってみることをおすすめします。
SPEC【e:HEV Z(FF)】●全長×全幅×全高:4330×1790×1590mm●車両重量:1380kg●パワーユニット:1496cc直列4気筒DOHC+e:HEV(i-MMD)●最高出力:78kW[106PS]/6000〜6400rpm【モーター96kW[131PS]/4000〜8000rpm】●最大トルク:127N・m[13.0kgf・m]/4500〜5000rpm【モーター253N・m[25.8kgf・m]/0〜3500rpm】●WLTCモード燃費:24.8km/L
撮影/松川 忍
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