乗り物
鉄道
2021/11/6 6:00

九州最南端を走る「指宿枕崎線」−−究極のローカル線珍道中の巻

【最南路線の旅③】鹿児島湾が見え始めるのは平川駅の先から

秋ともなると南国、鹿児島でも夜明けは遅い。旅をしたのは10月17日(日曜日)のこと。この日の日の出の時間は6時22分。指宿枕崎線の列車の発車時間6時20分とほぼ同時刻だった。列車はまだ暗い中、ディーゼルエンジン特有の音を奏でつつ鹿児島中央駅を発車した。

 

車両はJR九州の気動車キハ200系。鹿児島を走るキハ200系は黄色い塗装で、側面の「NANOHANA」(なのはな)と大きくロゴが入る。乗車した2両編成の座席はロングシート、片側3扉の近郊用気動車である。

↑指宿枕崎線の南鹿児島駅と鹿児島市電・谷山線の南鹿児島駅前停留場。この駅のみ指宿枕崎線と市電の乗り換えが便利な駅となっている

 

ロングシートで〝旅の気分〟はあまり高まらずだが、鹿児島中央駅〜山川駅は、このキハ200系(クロスシート車両もあり)で運行されることが多い。列車が走り出してしばらく、進行左手を鹿児島市電・谷山線の線路が近づいてくる。そして指宿枕崎線と平行して走るようになる。

 

指宿枕崎線の駅名と、この鹿児島市電の停留場名は複数が同じだ。同じだから乗り換えできるのだろうと思われそうだが、離れている駅が多いので注意したい。接続しているのは南鹿児島駅のみだ。

↑平川駅〜瀬々串駅間の海をバックにした指宿枕崎線の定番スポット。走るのはキハ200系。ラッシュ時は4両編成での運行も行われる

 

指宿枕崎線も鹿児島市内では、通勤路線の趣で高架線区間がある。ローカル線のイメージは薄い。旅情豊かなローカル線の趣が味わえるのは、鹿児島中央駅から8つめの平川駅付近からだ。平川駅を過ぎると、間もなく進行左手に鹿児島湾(錦江湾)が見え始めるようになる。ここからしばらくは海に付かず離れずの路線区間となる。

↑平川駅を過ぎてから鹿児島湾を眺める区間となる。走るのは特急「指宿のたまて箱」。同路線の名物観光列車となっている

 

指宿枕崎線の観光ポスターなどで使われる写真を撮影できるのが平川駅〜瀬々串駅(せせくしえき)間の歩道橋上にあるスポット。後ろに鹿児島湾が見え、南国らしい風景が見渡せる。筆者もだいぶこのあたりには通ったが、このスポット以外に背景に海を写し込める箇所がほぼない。山側から写すことが難しい路線区間でもある。よって、この定番スポットが観光用に使われることが多いのであろう。

 

対して指宿枕崎線の車内から見る鹿児島湾の美景は素晴らしい。つまり撮影者たちが苦労して撮る風景を、指宿枕崎線に乗れば誰もが楽しめてしまうというわけである。

 

【最南路線の旅④】指宿といえば温泉だが帰りに立ち寄ることに

朝6時20分発の山川駅行き。平川駅を過ぎ、鹿児島湾が左手に見え始める。ちょうど朝日が向かいの大隅半島方面から海を赤く染めつつ上ってきていた。そんな感動的な景色を眺めながら列車は進む。海上に大型船が数隻浮かぶのが見える。進行方向、左手先にはENEOS喜入基地の大きな石油タンクが見えてくる。基地の最寄り駅、喜入まではほぼ30分おきに列車が走っていて列車本数が多い区間だ。ここまでは鹿児島の郊外路線といった趣が強い。

 

喜入駅、前之浜駅を過ぎ、再び鹿児島湾沿いを走り始める。車窓から亜熱帯の植物も見られるようになり、より南国ムードが増していく。マングローブ樹種のメヒルギ群落の北限地も路線沿いにある。人工的に植えた亜熱帯の木々でない自然のままの南国の木々が、ここでは見ることができるわけだ。薩摩今和泉駅(さつまいまいずみえき)から指宿市となる。指宿市はこの沿線屈指の温泉郷で、全国から訪れる人も多い。

↑鹿児島中央駅〜指宿駅間を走る特急「指宿のたまて箱」。海側が白、山側が黒という水戸岡鋭治氏らしい思いきったデザインの列車だ

 

観光客の多くが乗車するのが特急「指宿のたまて箱」で鹿児島中央駅と指宿駅の間を1日に3往復走る。車内は鹿児島湾側が良く見えるような座席配置となっている。指宿は浦島太郎伝説の発祥の地でもあり、発着する駅では、列車から玉手箱から出るような白煙が立ち上る。そんな演出が楽しい人気の観光列車でもある。使われるのはキハ140形とキハ47形の組み合わせで、JR九州の列車デザインを多く手がけてきた水戸岡鋭治氏が作り上げた「水戸岡ワールド」全開といったD&S列車(デザイン&ストーリー列車)である。

 

さて、今回の指宿枕崎線の旅では、指宿に帰りに訪れることにしたものの、先に指宿の簡単な説明をしておきたい。指宿は日本屈指の温泉町だ。駅前にも屋根付きで広めの足湯があり、温泉の良さを気軽に楽しむことができる。市内には温泉宿がふんだんにあるほか、駅近くにも日帰り温泉や、銭湯があり、宿泊せずとも温泉が楽しめる。

↑指宿駅の目の前にある足湯。こちらでのんびりと温泉気分を楽しむ人も多い

 

さらに、指宿ならではの温泉の楽しみ方といえば「砂むし」。温泉の蒸気で熱せられた砂の上に寝て、スタッフに砂をかけてもらう。10分も入れば、汗が吹き出してくる。浴衣を着て楽しむ天然サウナなのであるが、サウナとは違うのは、砂に包まれて横になってリラックスできること。生き返ったような、また天に舞い上がるような感触が楽しめる。山川にも砂むしがあるので、時間に余裕がある時は楽しんでみてはいかがだろう。

 

温泉の楽しみは次の機会にして、今回はローカル線の完乗で1日をまとめることにする。

 

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4