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2021/11/6 6:00

九州最南端を走る「指宿枕崎線」−−究極のローカル線珍道中の巻

【最南路線の旅⑧】南の路線は線路端の草木の勢いが半端ない

薩摩川尻駅11時56分、ようやく枕崎駅行き列車が到着する。今度はキハ47形が2両編成だ。1両だけでなく、2両という編成での運行もある。ただし、山川駅〜枕崎駅間は、ほぼキハ40系の国鉄形気動車一色となる。鉄道ファンにとってはうれしい列車なのだが……。

 

古い車両がなぜ使われるのだろうか。もちろん、利用者が少ないということが一つの理由ではある。加えて、他の路線ではあまり見かけない光景がこの指宿枕崎線では繰り広げられていたのである。

 

南国のせいなのか、左右の草木の伸び方が並みではないのである。もちろん、鉄道敷地内の草刈りは、JR九州の手で行われているようだ。だが、敷地の外の草木となると、著しく運行を妨げる枝以外は切ることができないのが実情のようだ。薩摩川尻駅に次のような貼り紙にあった。

 

JR九州からのお願いとして、「線路側に木が倒れないように管理をお願いします」。貼り紙には特急「指宿のたまて箱」に倒木があたり、正面の運転席のガラス窓が破損した時の写真が掲載されている。

 

「倒木により当社に損害が発生していれば、賠償請求をする場合がございます。線路のそばで木を切る際は事前にJR九州に連絡をお願いします。伐採中に線路側へ木が倒れると列車の運行に支障をきたします」とあった。

↑草木に囲まれるようにして走る指宿枕崎線のキハ40系。車体に右下のように、草が絡みついて走る姿も、ここでは当たり前のよう

 

このような貼り紙を鉄道路線で見たのは初めてだった。倒木にまで至るトラブルは極端な例ながら、左右両側から想像を絶するほどの草木が張り出していた。その張り出し方は乗車していても良く分かる。

 

途中、外気が気持ちよかったので、ガラス窓を少し開けておいた。その開いた窓から草木が入る。〝ビシッ〟〝バシッ〟と窓ワクを叩く音とともに、油断すると入ってくる草木に腕を擦られることに。この路線に限っては、窓開けには注意が必要なことがよく分かった。当然ながら車両も草木が擦りつけられることによって、多くの傷がつくことになるのだろう。頑丈な車体を持つキハ40系が使われる理由の一つになっているのかも知れない。

↑枕崎駅が近づくにつれ、先ほどまで間近に見えていた開聞岳が遠くなっていく

 

薩摩川尻駅から乗車したキハ47形の車窓からは、開聞岳はそそり立つように見える。東開聞駅、開聞駅を過ぎると、開聞岳は徐々に左手後方に遠ざかり小さくなっていく。

 

入野駅から先は、進行方向の左手、やや遠めながら東シナ海が見えるようになる。頴娃駅、西頴娃駅と難読駅名が続く。ちなみに頴娃駅はローマ字ならば「ei」。2文字は国内では「津駅」に次ぐ短い駅名だ。

 

指宿枕崎線の列車は進行左手に海と集落を、右手に丘陵地を眺めつつ進む。

 

【最南路線の旅⑨】終着駅の枕崎での滞在時間は24分のみに

枕崎駅への到着は12時56分、乗車した列車は鹿児島中央駅からの直通列車だったが、2時間54分かかった。朝6時20分に鹿児島中央駅を出た筆者にとっては、途中下車し、余計な時間を過ごしたものの合計6時間36分かけての終着駅・枕崎駅への到着となった。

↑指宿枕崎線の終点、枕崎駅。車止めの横には記念撮影用のデッキも設けられ、カメラ置台(右下)も用意されている

 

枕崎駅はJR最南端の始発・終着駅となる。そんな枕崎駅まで乗車してきたのは、ほとんどが鉄道ファンという状況だった。3時間近く、のんびりローカル線に乗るというのは、一般の人ならば苦痛を伴うかも知れないが、鉄道ファンにとっては至福の時となるようである。

 

そして大半が24分後に折り返す列車に乗ろうとしているようだった。多くが、最南端終着駅に関わる関連施設の撮影に大わらわだった。筆者の場合は、街中に残る鹿児島交通枕崎線の路線跡を探そうと歩き回った。

↑枕崎駅前の「本土最南端の始発・終着駅」の案内。後ろには「かつお節行商の像」が立つ。行商によって枕崎のかつお節の名が広まった

 

さて、駅に戻ると駅前に立つ案内に目が引きつけられる。そこには「本土最南端の始発・終着駅」とあり、宗谷本線稚内駅から3099.5km、最北端から南に延びる線路はここが終点です、とあった。

 

稚内駅からこの駅まで乗り継いで旅する人がいたとしたら、枕崎駅に到着した時は感慨ひとしおだろう。筆者もゆくゆくは、最北端の稚内駅、最東端の根室本線東根室駅を目指してみたいなと思うのだった。

 

ちなみに、鹿児島中央駅と枕崎駅間にはバスが走っている。所要時間は1時間20分〜2時間弱の距離だ。本数も1日に9往復走っている。他に鹿児島空港との間にもバス便(1日に8往復)が出ている。このバス便の便利さを知ってしまうと、指宿枕崎線を枕崎駅まで乗る人があまりいない理由が分かる。言葉は悪いものの〝物好き〟しか完乗しない路線だったのである。

↑枕崎駅の北には鹿児島交通枕崎線の線路跡が残る。右は観光案内所の横に立つ灯台の形をした日本最南端始発・終着駅のモニュメント

 

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