【東武SLの旅⑤】運転された4年間で沿線も大きく変わった!
「SL大樹」が運転される前は、鬼怒川線沿線にあまり足を運んだことのない筆者だったが、運転され始めた後は一年に数回は訪れるようになった。まさに「SL大樹」の魅力にはまってしまったのである。訪れるたびに沿線が少しずつ変わってきていること気がついた。
東武鬼怒川線には昭和初期に造られた駅や建造物が多く残り、それが長い間、大切に使われてきた。そんな鬼怒川線の鉄道施設7件が「SL大樹」が走り始めた2017(平成29)年の7月21日に国の登録有形文化財に登録された。SL復活運転の目的の一つには「鉄道産業文化遺産の保存と活用」の推進という大事なテーマがあったのである。
そうした駅に残る文化財の保存とともに、駅がきれいに整備されていった。例えば「SL大樹」が発着する下今市駅。旧跨線橋が登録有形文化財に指定されるが、駅舎は博物館のように落ち着いた趣に整備されている。また新高徳駅はホームと古いレールを使った鉄骨造の上家が登録有形文化財に指定されている。新高徳駅は2019(平成31)年に駅舎もきれいに整備され、おしゃれな駅に生まれ変わった。
鬼怒川温泉駅も「SL大樹」の運転開始後にリニューアルされた。栃木県産の杉材を使った造りが評価され、2018(平成30)年に林野庁が主催するウッドデザイン賞に輝いている。構内の跨線橋には沿線の登録有形文化財に関しての案内があるので、ぜひ見ておきたいところ。時間に余裕があれば、駅前にある足湯に浸かっておきたい。
【東武SLの旅⑥】代表的な人気撮影地を歩いてみると
ここからは乗車した時に役立つように沿線の見どころを簡単に紹介しておきたい。また、撮影地として人気のポイントと、車内から楽しめる美景ポイントも触れておこう。
起点の下今市駅側から紹介しよう。下今市駅を発車したSL列車は右にカーブして川を渡る。この川は大谷川(だいやがわ)。日光・中禅寺湖が源で、華厳の滝として落ち、日光市内で有名な神橋が上流にある。橋を渡れば間もなく大谷向駅(だいやむこうえき)だ。鬼怒川線は単線のため途中、大谷向駅ほか複数の駅に交換設備があり、特急列車や普通列車と行き違う。
大谷向駅を過ぎると、沿線には水田が点在、また左手には杉林が連なる。この杉林の下を通るのが会津西街道で、今市から旧会津藩の城下町・会津若松まで延びている。そんな風景を見ながらSL列車は走る。
間もなく倉ヶ崎SL花畑と名付けられた広場にさしかかる。地域の人たちによって整備された公園で、春には菜の花、夏にはヒマワリ、秋には秋桜が咲き、それぞれの季節には、花の写真とSL列車の写真を撮影に訪れる人も多い。ここではホタルを復活させる取り組みも行われているそうだ。
鬼怒川線の沿線は左右両側に架線柱が立つところが大半だが、この花畑のところは片側のみとなっていて、写真撮影には絶好なポイントといえるだろう。もちろん車内から見ても美しい。
次の大桑駅から新高徳駅までは変化に富んだ風景が楽しめる。勾配区間もありSLが煙を多く出しつつ走る区間でもある。また駅間には2本の大きな川が流れ、渡るSL列車が絵になる。川はまず一本目が小百川(こびゃくがわ)で、この川に架けられた砥川橋梁は登録有形文化財にも指定されている。平行する国道121号の歩道から気軽に写真撮影が可能とあって、訪れる人も多い。
さらに新高徳駅の近くには鬼怒川が流れる。鬼怒川橋梁は走る列車の撮影にはあまり向いていないものの、車内から見下ろす鬼怒川と遠くの山並みは新緑と紅葉時期(後述)、特に素晴らしい。
新高徳駅の先、小佐越駅(こさごええき)付近からは国道352号が間近を走るようになり、この国道沿いにも人気の撮影ポイントが点在する。
東武ワールドスクウェア駅を過ぎ、鬼怒川温泉駅が近づく途中、鬼怒立岩(きぬたていわ)信号場からは複線区間となる。写真撮影や、列車に手をふる人もこの区間は多い。ちなみにこの信号場にはかつて鬼怒立岩駅という駅があった。1964(昭和39)年に廃止となり、今は単線から複線区間へ変わる信号場として残されている。
鬼怒川温泉駅がSL列車の終点駅となるが、東武鉄道鬼怒川線の線路は新藤原駅まで延びている。さらにその先は、野岩鉄道(やがんてつどう)、会津鉄道と線路が続く。会津若松駅、また休日にはラーメンの町、喜多方まで行く快速「AIZUマウントエクスプレス」も鬼怒川線を走っている。