〜〜第7回 鉄道技術展2021(千葉県)〜〜
今年で7回目となる「鉄道技術展」が11月24日〜26日、千葉県の幕張メッセで開かれた。同時に開かれた「橋梁・トンネル技術展」まで含めると270以上と出展ブースの数も多く、企業の多くが、自社の新技術のPRに務めていた。
鉄道のプロ向けの技術展ということもあり、難度が高かったものの、鉄道好きという立場から、興味を引いた企業のブースをいくつか紹介してみたい。
*主催:産経新聞社 オーガナイザー:CNT 写真は一部、修正を加えています
【鉄道技術展その①】将来の高所作業はロボットにお任せ?
まずは日本信号株式会社のブースから。日本信号といえば鉄道の信号技術の草分け的な企業だが、今回は「多機能ハンドリング車」と名付けられた展示が目を引いた。〝筋骨隆々〟なロボットの横に、VRゴーグルをした操作スタッフが座っている。スタッフが操縦すると、ロボットが腕の先にある〝指先部分〟で用意された鋼管をつかんだり、鋼管を上部の1〜4番のスライド部分に差し込むという実演作業を行っていた。
VRゴーグルには、ロボットの頭についたカメラが捉えた状況が映し出される。左手から右手に鋼管を持ち替えて、腕を上げ、スライドして見事に入れ込んだ。見学者から思わず拍手が起こる。
このロボットの後ろには作業車のイラストパネルがあった。高所作業は危険と常に隣り合わせだ。イラストのように作業車の中でスタッフが操作、荷台に取り付けられたロボットが危険な高所の作業を行うロボット付き高所作業車が、少しずつ配備されていくのかもしれない。
日本信号株式会社のブースでほかに気になった技術も取り上げておこう。
現在、多くの駅でおなじみとなっている自動改札機。今は交通系ICカードをタッチして通り過ぎるが、日本信号が展示していたのは「顔認証改札機」なるもの。あらかじめ顔をタブレッド端末で写真撮影し、登録すれば、改札機側が顔を判断して、改札機を開け閉めするシステムだ。
新型コロナ感染症が流行している昨今だが、たとえマスクで顔が半分隠れていても、顔をしっかり認識し、改札が開け閉めされる。
「LS式踏切障害物検知装置」も興味を引いた。従来の障害物検知装置とはどのように異なるのだろう。
この装置の場合、踏切内の上(地上750mm)と、下(地上300mm)2段に検知エリアが設けられる。もし自動車が踏切内に取り残されても、反射率が低いボディではなく、反射しやすいホイールを検知するという。また踏切内で、車いすを利用する人が転倒したとしても、従来タイプよりも死角が少なくなり検知されやすくなるという仕組みだった。
高齢者の踏切事故が目立つようになっている昨今、踏切事故を減らす装置の技術革新が進められているのである。
【鉄道技術展その②】LED表示器+豪華シートに注目が集まる
前照灯、室内灯、表示器などの製作メーカーとして知られているコイト電工株式会社。LEDライト、LED室内灯、さらにLED化した行先表示器「セレクトカラー表示器」などが、多くの鉄道会社に採用・納入されている。
鉄道技術展でも、同社の行先表示器「セレクトカラー表示器」が展示されていた。今は3万5937色の表示が可能になっているとのこと。ひと時代前の数色しか表示できなかったころとは明らかに異なり、色鮮やかで多彩な表示ができるようになっているのである。
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コイト電工でLED表示器とともに、注目を集めていたのが高級シート。「クレードルシート」と名付けられた座席で、技術展には、東海道・山陽新幹線を走るN700Sのグリーン車用シート、JR東日本のE261系・特急「サフィール踊り子」のプレミアムグリーンシート、さらに近畿日本鉄道の80000系・特急「ひのとり」のプレミアムシートが展示され、リクライニングシステムの稼働が可能なように調整されていた。
「サフィール踊り子」用と、「ひのとり」用は、ともにバックシェル付きで、リクライニングさせても、後ろに座る人への気遣いが不要な造りとなっている。
コイト電工の「デジタルベルブザー」も気になった。音が鳴る部分はコンパクトながら、いろいろな音が出せるという。鉄道ではベルやブザー、チャイム、または音声案内など、利用客や乗務員にさまざまな情報を音で伝えることが多い。
これまではベルやブザーなどを個々に鳴らして伝えていた。別々の装置が必要だったわけである。ところが、この「デジタルベルブザー」ならば、それぞれのボタンを押せば、該当する音を鳴らすことができる。音をデータ化して一つの機器に組み込んだもので、省スペース化につながるわけである。
【鉄道技術展その③】大きな車止め表示はどこの駅のもの?
鉄道標識は、線路の先の情報を運転士に伝える大切な役割を持つ。停止する場所を示す「停止箇所標識」や、「距離標」「勾配標」などを造るのが、株式会社保安サプライ。運転に関わる標識以外にも、乗客の目に触れる機会が多い「乗車位置標」や、駅名が書かれた「駅名標」なども製作している。
このブースは目を引くものが多かった。まずは「停止箇所標識」。この標識、実は、地方や会社により異なっていたのだ。たとえば、下の写真は通称〝停目〟と呼ばれる「停止位置目標」を集めたもの。北海道から九州の「停止位置目標」がずらりと並んだ。
中でも目を引いたのが、紫色に縁取りされた四角い枠の中に「E353」という文字と「9」の文字。これはつまり、中央本線などを走る特急「あずさ」「かいじ」に使われるE353系用で、紫の縁取りはE353系のアクセントカラー、9両編成の列車は、この位置で停まるようにという運転士に伝える「停止位置目標」だったわけである。運転士が見ても分かりやすい標識のように感じた。
さらに、ブースの床には「乗車位置標」のシールが貼られていた。「乗車位置標」とは、ここが停車時のドアの位置ですよと知らせるマークだ。
乗車位置は列車ごとで異なることが多い。そんな時に、この「乗車位置標」が必要になる。床に貼られていたのは、普通列車とともに、特急列車のものも。例えばJR西日本の特急「スーパーはくと」の場合には列車のイラストが描かれ、分かりやすい。目を引いたのは流鉄(千葉県)の「乗車位置標」だ。流鉄は走る電車が一編成ずつ異なりカラフルだ。そんな正面の姿がシールにプリントされ、楽しい造りとなっている。
流鉄に乗った時はこの乗車位置標にも、ぜひ注目したいなと思った。
ブースには、黒と白で塗り分けられた巨大な「車止標識」も置かれていた。線路がここで終了という所に設置される「車止標識」だが、通常は280mm角だそうだ。ところが、これは倍以上の大きさ。こんな大きな「車止標識」を、実際に使っているところがあるのだろうか。
たずねてみると、JR九州の門司港駅で使われているものだという。筆者が撮影した門司港駅の写真を探してみると……あった。門司港駅は鹿児島本線の起点となる駅だが、この巨大な「車止標識」が設置されていた。
こうした展示を見ていると、標識もかなり奥深いことがよく分かった。
「駅名標」もなかなか奥が深い。
展示されていたのはJR仙山線の山寺駅の駅名標だった。山寺駅は山形県内にある駅で、山寺の通称で名高い立石寺(りっしゃくじ)の最寄り駅である。駅名標には山寺の写真が使われている。さらにお寺が近くにある駅ということで、和風の屋根が取り付けられていた。単なる名前のみの駅名表示ではない、とてもユニークな駅名標もあることが分かった。
こちらのブースでは、他にさまざまなメッセージを入れ込んだ「踏切注意標[踏切内走行注意]」が展示されていた。このような注意標を付けてはいかがでしょう、という鉄道会社に向けた提案型の展示だったが、利用者の目を引くこうした注意標があっても良いように感じた。
さらに同社では標識類だけでなく、「融雪ブロック『とけるくん』」なる商品の展示もされていた。こちらはホーム上に装着する融雪ブロックで、雪の多い地方の鉄道向け商品。雪の多い地方では、冬には日々のホーム上の雪かきが安全確保のために欠かせない。この融雪ブロックをつけておけば、その部分は雪が溶けるので安全というわけだ。
鉄道関連の技術といっても実に多種多様。色々な製品が開発されていることが良く分かった。
【鉄道技術展その④】目を引いたいくつかの新しい技術
ここではその他の企業で気になった製品をピックアップしてみよう。
◆近畿車輛「車載式 自動スロープ装置」
まずは近畿車輛から。同社は100周年を迎えたとあり、生み出した代表的な車両が細密なイラストで紹介されていた。
1920(大正9)年製造の阪神電気鉄道の311形にはじまり、1958(昭和33)年製造の151系特急形電車や、1996(平成8)年製造の500系新幹線電車、2020(令和2)年の近畿日本鉄道80000系「ひのとり」など、歴史的な車両のイラストがボードにずらりと並び、見ていて楽しめた。
一方、実機はなかったものの、パネル展示で気になったのが、「車載式 自動スロープ装置」という製品。電車のバリアフリースペースなどに取り付けられる製品で、現在、駅の係員が対応している車椅子利用者への乗降サービスを、係員が不在な駅でも対応できるようにしたもの。段差や隙間があるところでも車椅子利用が可能となる装置でもある。すでに一部の路線バスなどに装着されたものの鉄道版というわけである。
すぐ導入というのは難しいかも知れないが、将来的にはこうした装置が導入されると役立つように思った。
◆富士電機「電気駆動ドアシステム」
富士電機株式会社のブースには、実物大の両開きの乗降ドアが用意されていた。どのようなものなのかたずねると、電気駆動ドアシステム「ラック・アンド・ピニオン式ドア」の紹介とのこと。
電車のドアの開閉は、すべてが電気駆動で動くのだろうと筆者は考えていたがすべてではないということが分かった。ドア上部に空気配管があり、〝元空気だめ〟から圧縮空気が供給されて、ドアが開閉する装置もかなり使われているようだ。
国内では走行中にドアが開く事故が年に数件起きている。事故には至らないまでも、ドアに物がはさまって、開閉するものの、なかなか電車の発車ができないといったトラブルもよく起こる。
富士電機のドアは電気駆動ドアシステムを売りにしている。ドアごとに監視機能付きのコントローラーを持ち、もし荷物がはさまったドアがあっても、ドア個々の対応が可能なのだと言う。その結果、トラブルによる時刻の遅れを未然に防ぐことにつながる。さらに圧縮空気を使わないために、取り付けが簡単で、保守・点検が容易になるという。鉄道の技術は奥深いことが良く分かった。
「走行中にコックを開けてもドアが開かない!」とPRの言葉にあった。つまり走行中に乗客がコックを誤操作したとしても、開けることができない。より安全性が確保されるという仕組みとなっているわけだ。ドアの非常コックへの注目度が高まっているだけに、見学者も同社のシステムにかなり興味を示しているようだった。
◆ニコン・トリンプル「自立四足歩行ロボット」
株式会社ニコン・トリンプルが紹介する自立四足歩行ロボットはなかなか興味深い製品だった。
公開していたロボットはアメリカBoston Dynamics社の「Spot」。背にはアメリカTrimble社の「3DレーザースキャナC7」を積んでいる。ロボットとスキャナを一つのソフトフェアで制御できる仕組みで、タブレットPCを使って操作する。細密に計測できるスキャナを積むことで、人が関わらずにさまざまな計測をしたり、現場を360度見渡すことができるロボットだという。物流業界のロジスティクス管理にも応用できるのだそうだ。
人手をかけずに、管理業務などもできるわけで、それこそ番犬ならぬ、〝番ロボット〟としても役立ちそうである。
【鉄道技術展その⑤】開け閉めボタンも大きく変わっていた!
今回の鉄道技術展をめぐっていると、鉄道の車内外で良く見かけるボタンを見つけた。
「照光式押ボタンスイッチ」と名付けられたNKKスイッチズ株式会社の製品で、車両のドア横に付く。最近、ローカル線の車両などで良く見かけるようになった開け閉めの操作ができるボタンスイッチだ。
車外に付くボタンスイッチは、ここにボタンがあります、ということが良くわかる仕組みだ。黄色や赤といった明るめの色をした「ベゼル」と呼ぶ囲むパーツが付いている。
一方、屋内用にはベゼルが付かず(ベゼルレスタイプと呼ぶ)、ボタンのみだが、「開」は緑、「閉」は赤で常時点灯。単にボタンスイッチがある状態とだいぶ異なるのだ。さらにベゼルは、黄色、橙(だいだい)、赤、青、緑、灰色があり、選べるようになっている。
また「開」「閉」という文字で示さずに、開閉方向が分かりやすくデザイン化されている。
従来型のボタンスイッチに比べて、暗い所でも見える造り。さらにユニバーサルデザインであり、色覚バリアフリーにも対応している。防水・防塵性能にも優れていて、2020(令和2)年4月20日に発売された新しいボタンスイッチながら、急速に採用されつつあり、多くの車両で見かけるようになっている。
車両に付くボタンスイッチも、技術開発やデザインで、より使いやすい形に進化を遂げていたわけだ。
【鉄道技術展その⑥】新たなレンタル軌陸車はどこが違うのか?
最後は、やや大きめの展示物を取り上げたい。保線作業などに使う軌陸車を紹介するレンタルのニッケンのブースだ。
軌陸車は大半が中型トラックを利用し、車体下から鉄輪がでてくることで、道路だけでなく、線路上も走ることができる。夜間に保線などの作業に使われることが多く、鉄道会社や保線作業を行う会社が所有していることが多い。とはいえ、そうした車両は高価で保有するのも大変である。
レンタルのニッケンでは「鉄道工事用機械」の名前で多くの軌陸車を用意する。同社では1979(昭和54)年から軌陸車の開発を開始、今もさまざまな用途に役立つ軌陸車の開発を続けている。
今回の鉄道技術展のブースにも2タイプの新しい車両を持ち込みPRに務めていた。その車両を紹介しておこう。
◆軌陸車「鉄道用サイドステージ」
まずは「鉄道用サイドステージ」と名付けられた車両。この車両は作業員が乗りこみ作業する〝ステージ〟が上でなく、横に伸びるのが特長となっている。
高所作業車の場合には、作業をする時にアウトリガーを四方に張り出して車体を安定させなければいけない。ただし、このタイプはアウトリガーを引っ込めないと移動できない。つまり作業中の移動に手間がかかるのだ。さらに高所作業車は上部の作業に役立つのだが、斜めとなると角度にもよるが危険が伴う。
今回展示されていた「鉄道用サイドステージ」は低い位置の作業に向いた車両で、アウトリガーも必要としない。そのためトンネル内などでの配線や、側面作業に向いている。作業に合わせて移動することもできる。作業効率がアップするというわけだ。
ちなみに軌陸車の鉄輪は在来線用の1067mm幅と、新幹線用1435mmといった異なった線路幅にも対応しているのだそうだ。なかなか便利な仕組みなわけである。
◆軌陸車「鉄道用アンロードプラス(仮称)」
もう1台の車両もユニークなものだった。「鉄道用アンロードプラス(仮称)」と名付けられた車両で、軌陸車ながらホームでの荷物の積み込み、積みおろし作業に役立つ車両だ。
ホームに到着したら、荷台をホーム側に動かすことができる。荷台を降ろしきれば、ホームとの段差もなくなり、スムーズに荷物の積み下ろしができる。軌陸車が走る時には荷台が車両の上にすっぽりと収まる仕組みだ。いろいろな作業に役立ちそうだが、特にホームドアの設置作業などに威力を発揮しそうである。
今回の鉄道技術展に登場した「鉄道用アンロードプラス(仮称)」はまだレンタルはされておらず、現場には2022年度から登場の予定だとされる。
ちなみに、レンタルのニッケンからは、2022年度に高所作業車「鉄道用ハイライダー9.9m」と、「鉄道用オーバーフェンス」という名前の軌陸車が登場予定となっている。「鉄道用ハイライダー9.9m」はその名前の通り、9.9mまで作業ステージが伸びる高所作業車。また「鉄道用オーバーフェンス」は、線路と敷地外にフェンスがある場合に、そのフェンスを越えて作業をする時に役立つ造りとなっている。
いろいろな作業に対応するような軌陸車が次々に開発されていたわけである。
ブースには軌陸車だけでなく、「踏切用軽量マット」という製品も置かれていた。軌陸車は踏切などの線路と道路の段差がないところから線路の上にのせる必要がある。踏切が近くにない場所でも、この「踏切用軽量マット」を敷けば踏切がわりとなり、軌陸車を線路にのせることが可能となる。重量は11kg〜17.5kgと軽めで、簡単に移動させることができる。
軌陸車だけでなく、こうした製品まで用意していることに感心した。
今回は鉄道技術展の興味を引いたブースのみを紹介した。これはごく一部であり、他にも興味深い製品が多数紹介されていた。
同鉄道技術展は2022(令和4)年5月25日(水曜日)〜27日(金曜日)にも、インテックス大阪4・5号館で開かれる予定だ。鉄道のプロでなくとも一般の人でも入館できるので、興味がある方は訪ねてみてはいかがだろうか。