〜〜2021年 鉄道のさまざまな話題を追う その1〜〜
師走となり何かと気ぜわしい季節となってきた。2021年という1年、鉄道をめぐる出来事もいろいろあった。新車が登場した一方で、長年親しまれてきた車両が消えていった。また廃線となった路線もある。
今回は「鉄道ゆく年くる年」の第1回目、2021年に1月から6月にかけて、鉄道をめぐって起きた出来事を振り返ってみたい。
【2021年の話題①】長年親しまれてきた「湘南ライナー」が消滅
まずは列車の廃止、新設、また車両の置き換えから見ていきたい。
3月13日(土曜日)のダイヤ改正時、JRグループ内で何本かの列車が廃止、新設され、車両の置き換えがあった。中でも東海道本線の首都圏エリアでの動きが目立った。
ダイヤ改正の前日まで走っていたのが「湘南ライナー」「おはようライナー新宿」「ホームライナー小田原」といった座席定員制の有料快速列車だった。
3月15日(月曜日)からはこうした快速列車がすべて廃止され、特急「湘南」に置き換わった。「湘南ライナー」は1986(昭和61)年に誕生した列車で、ちょうど35年で消えたことになる。
列車の変更に合わせて、車両も185系電車、215系電車から、E257系2000番台・2500番台に代わった。料金は湘南ライナー時代一律520円(+運賃=以下同)で、着席が可能だったが、特急「湘南」では50kmまでが760円、100kmまでが1020円(いずれもチケットレスサービス利用の場合は100円引き)と、割高になった。チケットレスサービスを使えば、9月30日までは300円引きとなっていたからなのか、料金が値上げになったことに関して、あまり注目されることもなく、利用者にはすんなり受け入れられたようだった。
車両の入れ替えで目立ったのが、国鉄時代に生まれた特急形電車185系を巡る動きだろう。この春に185系は、湘南ライナーなどのほか、特急「踊り子」の定期運用からも撤退している。その後に185系は急速に姿を消しつつあり、現在は臨時で運転される季節列車や団体臨時列車といった運用のみとなっている。
【2021年の話題②】北日本で目立った廃線・廃駅の話題
今年の上半期、あまり目立たなかったものの、廃線、そして廃止となった駅があった。筆者は仕事柄、地方のローカル線に乗る機会が多いが、新型コロナ感染症の影響もあるのか、乗車率の低さが目に付くようになっている。その影響だけではないのだろうが、北海道で廃止となった駅が多く生まれた。
函館本線の伊納駅、釧網本線の南斜里駅。加えて石北本線と宗谷本線に廃駅が目立った。石北本線は生野駅など4駅、宗谷本線は南美深駅(みなみびぶかえき)や北比布駅(きたぴっぷえき)など12駅にも及んだ。これらは、多くが〝秘境駅〟と呼ばれるような駅で、駅周辺に民家があまりない。したがって乗降する人も少ない。
旅先でこうした〝ひなびた駅〟を発見する楽しみもあるが、営業的に存続が難しい駅は、ちょっと寂しいものの今後も廃止対象となっていくのであろう。
今年の上半期、北日本で2本の路線が廃止となっている。
1本目は日高本線で、鵡川駅(むかわえき)〜様似駅(さまにえき)間、116.0kmが4月1日に正式に廃止となった。同駅区間は2015(平成27)年1月初頭の低気圧による高波の影響で、各所で土砂崩れが起こり不通となり、代行バスが運行されていた。復旧の道が探られ、JR北海道と地元自治体との交渉の場がたびたび設けられたが、6年の歳月を経て正式に廃止となった。
このところ、自然災害の規模が大きくなる傾向がある。北海道だけでなく、九州などでも、営業休止が続く路線が複数ある。災害で寸断されやすい公共インフラ、採算をとることが困難な地方路線をどのように再生させていくのか、難しい時代になりつつある。
さて、もう1線、廃止となった路線があった。こちらは旅客路線でないだけに、あまり注目もされずに、ひっそりと消えていった。
廃線となったのは秋田市の臨海部を走っていた秋田臨海鉄道で、4月1日に廃線となった。また、会社も鉄道事業から撤退している。
秋田臨海鉄道は1971(昭和46)年7月7日に北線と南線の営業を開始、奥羽本線の支線にあたる秋田港駅(貨物駅)と臨海部の工場間の貨物輸送に携わってきた。北線はすでに運行を終了していたが、南線の秋田港駅〜向浜駅5.4kmの貨物列車の運行と、秋田港駅構内の貨車の入れ換え作業などの事業が続けられていた。
廃線となった南線の貨物輸送を支えていたのが紙の輸送だった。紙の輸送は鉄道貨物の中でも大きなウェイトを占めていたが、近年はペーパーレス化の流れが高まり、輸送量が急激に減ってきている。同臨海鉄道でもそれは同様で、沿線の製紙工場の生産量は7年前には約20万トンだったものが、2020年度には約7万5000トンまで減っていた。今後、生産量の増加は見込めず、鉄道輸送からトラック輸送へシフトされた。他に同地区からの貨物輸送の需要もなかったことから秋田臨海鉄道自体の廃線に至った。
鉄道貨物輸送は時代の動きに大きく左右される。同路線は紙の輸送に頼っていただけに、その影響も大きかった。JRの貨物線や臨海鉄道では、今も紙の輸送量が多いが、今後は鉄道貨物の比率を減らす動きがより強まっていきそうだ。
【2021年の話題③】今年も鉄路を彩った車両たちが消えていった
長年、走り続け、見慣れ、乗り慣れた車両には愛着がある。とはいえ、走り続ければ老朽化が進む。平均して30年前後で消えていく車両が多い。国鉄がJRとなってすでに30年以上となることもあり、JR発足後、間もなく生まれた車両たちが次々と消えていくようになった。今年は特に引退していく車両が目立ったように思う。そんな引退車両のうち、上半期に消えた車両を見ていこう。
◆JR東日本215系
まずは215系から。215系は好評だった快速「湘南ライナー」の輸送量増強のために1992(平成4)年から翌年にかけて10両×4編成(計40両)が導入された。当時、東海道本線を走っていた211系の2階建グリーン車、2階建て試作車の415系クハ415-1901号車を元に開発された。
全車が2階建て構造という珍しい通勤型電車でもあった。当初は「湘南ライナー」以外に、日中に走る快速「アクティー」などに利用されたが、乗り降りに時間がかかるなどの問題もあり、後継車両の導入を機会に、東海道本線では「湘南ライナー」などの朝夕のみの運用となっていく。週末には快速「ホリデー快速ビューやまなし」などの臨時列車に使われたものの、決して稼働率が高い車両とは言えなかった。
さらに、有料の定員制列車に使われる電車なのに、グリーン車がのぞき対面式の座席だったことや、構造上、バリアフリー化できなかったり、客席の造りなどが今の時代に合わなくなっていた。他の路線や列車へ転用することもなく、この春に静かに消えていった。生まれて30年弱とはいえ、走ってきた距離は短い。ちょっと残念な車両だったように思う。
◆名古屋鉄道1700系
名古屋鉄道(以下「名鉄」と略)の特急は他の鉄道会社ではあまり見ない運行方法をとっている。
2000系「ミュースカイ」のみ全車有料の特急だが、ほかの特急は豊橋駅側に連結される2両のみが有料の「特別車」で、他の車両は「一般車」となる。1700系はその「特別車」の一系統だが、2021(令和3)年2月10日に運用が終了した。運用開始は2008(平成20)年暮れと、新しかったのにもかかわらず、早めの引退となった。その経緯を見ると、この車両の風変わりな生まれに行き着く。
1700系はもともと1600系として1999(平成11)年に登場した。3両すべてが「特別車」という編成で、他の「一般車」と連結して運転された。その後に特急の運用形態が変わり、1600系の使い道がなくなってしまった。そのため、3両のうち1両(制動車)は廃車に、動力車と中間車のみ2両が改造されて、新製した2300系4両と連結して走り始めた。
特急6両のうち1700系2両の「特別車」は1999(平成11)年生まれ、2300系「一般車」は2008(平成20)年生まれという、2つの経歴を持った編成が生まれたのだった。
ここ数年で新塗装に変更され、リフレッシュした姿が見られたが、同系列のみでの運行した方が効率的といった理由もあったのだろう。1700系のみが引退となった。ちなみに1700系と組んでいた2300系には新たに2300系の新車が用意され〝新編成〟となって走り始めている。
◆JR西日本413系・415系800番台
国鉄時代に生まれた〝国鉄形車両〟が毎年のように消えていく。今年も数形式がJRの路線から姿を消した。七尾線を走ってきた413系、そして415系800番台も消えた形式である。
どのような車両だったのか触れておこう。
413系は急行形交直流電車451系などが種車となっている。急行列車が消えていくのに伴い、北陸地方で必要とされた近郊路線用の電車として改造されたのが413系だった。3両編成および2両編成の計31両が1986(昭和61)年から1995(平成7)年の間に生まれている。
北陸地方で長年にわたり使われたが、北陸新幹線の誕生により、北陸本線があいの風とやま鉄道とIRいしかわ鉄道に移行した時に、多くがあいの風とやま鉄道に譲渡、残りは七尾線を走り続けていた。
この春のダイヤ改正で、七尾線の普通列車がすべて新型521系100番台へ置き換えが完了、JRの路線からは413系が消えていくことになった。ちなみに、引退となった413系(クハ455を1両含む)の1編成はJR西日本金沢総合車両所で整備され、えちごトキめき鉄道に譲渡されている。
413系とともにJRから消滅したのが415系800番台だ。この車両の生まれは今もJR九州を走る415系と異なる。JR九州の415系は、もともとこの形式として生まれた。ところが、北陸地区を走っている415系は改造車両として生まれた。種車は近郊用直流電車の113系で、この電車を七尾線用に1990(平成2)年〜1991(平成3)年に改造して誕生したのが415系800番台だった。
1991(平成3)年、七尾線は電化された。路線まわりの構造物の問題から交流電化には不向きとされ直流方式で電化された。七尾線の電車は路線の起点となる津幡駅止まりの電車は無い。すべての列車が金沢駅まで走っている。旧北陸本線の津幡駅〜金沢駅間は交流電化区間のために、七尾線の電車の運行には交直流電車が必要となった。
一部の列車には413系が使われたが、車両数が少ないことから113系を改造することに。この改造で同形式が生まれたのである。415系800番台は、33両が改造されたものの、七尾線の新型車両導入で、全車が運用を離脱した。
◆JR九州キハ66系
国鉄形の車両で消えていった車両のもう1形式が急行形気動車キハ66系だ。国鉄時代にはキハ58系という急行形気動車が、大量に生産された。このキハ58系を進化させ、1974(昭和49)年から九州の筑豊地区に投入されたのがキハ66系だった。走行性能、また客室の居住性も高められている。当時としては画期的な車両で鉄道友の会からローレル賞を受賞された。
とはいうものの、全国の路線からちょうど急行列車が消えつつあった時代ということもあり、優秀な車両だったが15編成30両のみしか製造されなかった。九州では筑豊本線を走った後に、全車が長崎に移動し、大村線の主力車両として長崎駅〜佐世保駅間の輸送に携わった。
走り始めてから47年。優秀だった車両も、さすがに老朽化が目立つようになり、大村線にYC1系ハイブリッド式気動車が導入されるにしたがい、徐々に車両数が減っていた。今年の6月30日がラストランとなり引退となった。
◆JR貨物DD51形式ディーゼル機関車
最後はJR貨物のDD51形式ディーゼル機関車である。DD51といえば、全国の非電化区間の無煙化に大きく貢献した車両で、計649両が製造され、貨物列車や、客車列車の牽引に活躍した。
JR移行に伴い多くの車両がJR旅客各社とJR貨物に引き継がれた。JR貨物のDD51は北海道と、中京地区を走り続けてきたが、DF200形式ディーゼル機関車の導入に伴い、まず北海道を走っていた車両が消滅、中京地区の輸送にのみ残されていた。
2両つらねた重連運転など力強い走行シーンが見られたが、同地区にもDF200の導入が進み、3月12日のダイヤ改正前の最終日に運行が終了している。
残るDD51は旅客各社のみとなり、JR東日本に2両、JR西日本に8両が在籍している(2021年3月現在)。すでに定期運用はなく、事業用列車、もしくは臨時の団体列車などに使われるのみで、なかなか見ることができない貴重な車両となってしまった。
【2021年の話題④】前半に登場した新車は少ないが希少車両も
引退していく車両がある一方で、新車も登場した。ここでは上半期に登場した新車を見ていこう。
◆京阪電気鉄道3000系プレミアムカー
まず、京阪電気鉄道(以下「京阪」と略)の3000系プレミアムカーから。京阪は大阪府、京都府、滋賀県を走る複数の路線を持つ。中でも大阪市内と京都市内を結ぶ京阪本線が〝ドル箱路線〟となっている。従来から高級感が感じられる特急形電車を導入してきたが、2017(平成29)年8月20日から、特急形電車8000系の編成に1両、プレミアムカーという有料座席指定特別車両を連結することを始めた。同車両が好評だったことから、さらに増備をすすめていた。
そして今年の1月31日からは特急形電車の3000系にもプレミアムカーが連結されるようになった。
有料座席指定の車両や列車は、JRおよび私鉄各社で導入が進められている。なかなか運賃収入の増加が見込めない中、少しでも役立てばと鉄道会社も導入を図る傾向が強まっている。さらに、新型コロナ感染症の流行により、混んでいる列車を避けて移動したいと思う利用者も多い。そうした人たちにとってうってつけの列車、そして車両となっている。需要がある以上は、今後もこうした車両・列車の導入が加速していきそうだ。
◆東京メトロ有楽町線・副都心線17000系
2月21日から東京メトロ有楽町線・副都心線に新しい車両17000系が走り始めた。同線では10000系以来、15年ぶりの新車登場となった。丸形の前照灯に丸みを帯びた車体には、副都心線のブラウン、有楽町線のゴールドのラインカラーが入る。来年度までに21編成180両が導入される予定で、既存の7000系の置き換えを図る予定だ。
東京メトロの千代田線6000系、有楽町線7000系、半蔵門線8000系と、正面の貫通扉に窓がない独特な風貌を持つ車両が長年走り続けてきた。すでに6000系は引退となり、7000系も徐々に減りつつある。時代の流れとはいえ、親しまれてきた姿だけに、一抹の寂しさを覚える。
◆JR東日本E131系
首都圏に近いJR東日本のローカル線では、これまで東京近郊を走ってきた車両をリニューアルして使う傾向が強かった。例えば房総半島を走る外房線、内房線、鹿島線では、以前に京浜東北線を走っていた209系が、車両更新されて使われてきた。そうしたローカル線の効率化を図ろうと生まれたのがE131系だ。3月13日のダイヤ改正に合わせて導入されたが、房総地区用に新しい車両が導入されたのは51年ぶりだそうだ。
水色と黄色の房総らしい明るい色のラインが入るE131系。12編成24両が製造され、房総地区の主力車両として活かされることになる。
このE131系はその後の増備も進み、秋からすでに相模線を走り、また来春からは日光線や、宇都宮線にも導入される。相模線ではE131系の増備により、早くもこれまで走っていた205系の姿が急速に減りつつある。
◆JR東日本E493系(事業用電車)ほか
回送作業、保線作業などに使われる事業用車は、なかなか一般利用者の目に触れることのない車両でもある。JR東日本に今年は複数の事業用車が導入され、顔ぶれが大きく変わろうとしている。
まずはE493系。2両編成の事業用交直流電車で、回送列車の牽引や、入れ替え作業などに使われる予定だ。
電気式気動車GV-E197系も今年に新製された事業用車両だ。形はE493系とほぼ同じながら砕石輸送用で、砕石を積むホッパ車(GV-E196形)を中間に4両はさむ形で運用される。
すでにレール輸送用のキヤE195系の導入も進められていて、JR東日本の事業用車も大きく変わることになる。
こうした新型事業用車に代わって消えていこうとしているのが、国鉄時代に造られた電気機関車やディーゼル機関車など。EF81、EF65、EF64、ED75、そしてDD51、DE10といった機関車が今も使われている。
現在、上記の新型事業用車両の試運転を続けている段階で、正式運用の開始はまだ発表されていないため、既存の車両がいつまで使われるのか不明である。あくまで推測でしかないが、量産型が導入される時には、国鉄生まれの機関車たちも、徐々に消えていくことになりそうだ。
【2021年の話題⑤】4月にロマンスカーミュージアムが開館
今年上半期の話題で最も注目されたのが、神奈川県の海老名駅に隣接して誕生した「ロマンスカーミュージアム」ではないだろうか。
長年、ロマンスカーの名前で特急列車を運転してきた小田急電鉄が造った鉄道ミュージアムで、館内には引退した歴代ロマンスカーや、昭和初期に走った小田原線用モハ1形などの車両が保存展示されている。
小田急沿線を模型化したジオラマパークや、ロマンスカーの運転が楽しめる本格的な運転シミュレーター、そして親子で遊べるキッズロマンスカーパークといった施設もあり充実している。
また入口にはミュージアムカフェ、屋上には海老名駅構内が見渡せるステーションビューテラスがあり、なかなか楽しめる施設となっている。
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