〜〜全国で進む新線計画その3 大阪編〜〜
これまで2回にわたり東京と神奈川、そして全国で進む新線計画を紹介した。今回は残る大阪地区の新線計画を見ていこう。大阪地区の新線計画は複数あり、工事が進み開業予定も明らかにされている路線が目立つ。
一部の新線の建設現場を2月末、実際に歩き工事の進み具合などチェックした。ほか、どのような計画が進行しているのか、追ってみたい。
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【大阪の新線計画①】複数の新線計画の工事計画が進められる
まずは大阪市および大阪府内で、工事そして計画が進む鉄道新線の概要を見ていこう。進む新線計画は5つある。
〈1〉「東海道線支線」地下化工事
・新線区間:北区豊崎6丁目〜福島区福島7丁目・約2.4km
・開業予定:2023(令和5)年3月予定
〈2〉「なにわ筋線」新線計画
・新線区間:JR難波駅〜西本町駅(仮称)〜大阪駅(新駅)間、南海新今宮駅〜西本町駅(仮称)〜大阪駅(新駅)間・約7.2km
・開業予定:2031(令和13)年春の予定
〈3〉「北大阪急行南北線」延伸工事
・新線区間:千里中央駅〜箕面萱野駅(みのおかやのえき)間・約2.5km
・開業予定:2023(令和5)年度
〈4〉「大阪メトロ中央線」延伸工事
・新線区間:コスモスクエア駅〜夢洲駅(仮称)間・約3.2km
・開業予定:2024(令和6)年度
〈5〉「大阪モノレール」延伸計画
・新線区間:門真市駅〜瓜生堂駅(仮称)間・約8.9km
・開業予定:2029(令和11)年を予定
【大阪の新線計画②】来春には開業予定の東海道支線の地下化
まずは工事がかなり進んでいる「東海道支線」の地下化工事に関して見ていきたい。
大阪駅の北側には梅田駅という貨物専用駅があった。上記は貨物駅があった当時の上空からの写真だ。旧梅田駅の歴史は古い。元は1874(明治7)年12月に大阪駅の貨物取り扱い施設として生まれ、138年にわたり貨物の取り扱いが行われた老舗駅でもあった。2013(平成25)年4月1日に、その機能を吹田貨物ターミナル駅と百済貨物ターミナル駅に移している。
大阪駅すぐの一等地ということもあり、駅の廃止とともに跡地の再開発が始まった。今回の東海道支線の地下化工事もその一環である。北区豊崎6丁目〜福島区福島7丁目の約2.4km区間の工事が進み、旧梅田貨物駅の地下には「うめきた(大阪)地下駅(詳細後述)」が生まれる。完成は来春の予定だ。この新駅の誕生により、列車の運行も大きく変わりそうだ。まずは現状から見ていきたい。
【大阪の新線計画③】現在の線路配置と列車の動きを見ると
旧梅田駅は廃止されたものの、駅の西側を走っていた東海道支線(通称・梅田貨物線)は残された。同路線は今も特急列車や貨物列車の運行に欠かせない路線となっている。
梅田貨物線は、吹田貨物ターミナル駅と、梅田信号場(旧梅田駅)、福島駅を経て西九条駅(福島駅とともに大阪環状線)を結ぶ路線だ。路線距離は12.6kmあり、東海道本線と、大阪環状線を結ぶ大事なルートでもある。
吹田貨物ターミナル駅が路線の起点だが、実際には新大阪駅までは東海道本線と並走し、淀川にかかる上淀川橋梁を渡り、すぐに西へカーブして旧梅田駅方面へ向かう。そして、旧梅田駅の西側にある梅田信号場へ。信号場の先は単線となり西梅田一番踏切を通って、大阪環状線の路線に沿うように走る。福島駅の駅前にある浄正橋踏切を通って、高架上を走る大阪環状線へ上って行く。西九条駅までは大阪環状線に沿って単線の路線が続く。
この梅田貨物線を走る特急列車は、関西空港へ向かう特急「はるか」と、和歌山の紀伊半島へ向かう特急「くろしお」だ。
さらに、大阪環状線の西九条駅から分岐する桜島線(JRゆめ咲線)に安治川口駅という貨物駅併用の駅があり、この駅まで貨物列車も入線している。ちなみに、同駅と東京貨物ターミナル駅との間を走る「スーパーレールカーゴ」という宅配便専用の列車も毎日走っている。つまり梅田貨物線は、特急列車と貨物列車が走る重要な路線ということになる。
【大阪の新線計画④】大阪駅の新地下ホームの建設も進む
大阪駅近くの新線工事区間では、来春の開業を目指して工事がかなり進行していた。下はちょうど「うめきた(大阪)地下駅」の新駅ができる付近の工事の模様だ。
現在の大阪駅のちょうど北西側に地下の新駅ができる。すでにJR西日本から新駅の名前を「大阪駅」とすることが発表された。本原稿では既存の大阪駅との違いを明確にするために、ここからは大阪駅(新駅)と表記したい。
それに合わせて既存の大阪駅からの連絡通路等の建設も進む。大阪駅の西側には新改札口ができる予定で、また新しい駅と既存の大阪駅を結ぶための「改札内連絡通路」が設けられる。
JR西日本から発表されたイメージパースによると、地下1階にホーム2面、線路が4線の大阪駅(新駅)が生まれる予定だ。そして現在の梅田貨物線の路線も移され新駅を走ることになる。
この新駅誕生の効果は大きい。特急「はるか」と特急「くろしお」は、現在梅田貨物線がバイパスとして通っていることもあり、大阪駅には停車しないで走る。この特急が大阪駅(新駅)を停車するようになるのだ。大阪〜関西空港間を走る特急列車が停車することになり、大阪駅(新駅)は名実ともに大阪の玄関口となるわけだ。
しかし、大阪駅(新駅)の開設後もネックとなる要素が1つ残っている。新駅の先、西九条駅まで結ぶ梅田貨物線は単線のままなのだ。つまり、走る本数が限られ一部列車に遅れが生じると、多くの列車の運行に支障を来してしまう。
路線構造のために、スムーズな列車運行ができないことを鉄道ではボトルネックと呼ぶが、そうしたボトルネック解消のために、次の新線計画が立てられている。
【大阪の新線計画⑤】将来は「なにわ筋線」と結ばれる予定
大阪の北と南を直線的に結ぶ新線として計画されるのが「なにわ筋線」と呼ばれる新線計画だ。新線はJR難波駅〜西本町駅(仮称)〜大阪駅(新駅)間と、南海新今宮駅〜西本町駅(仮称)〜大阪駅(新駅)間。約7.2kmの予定で、開業は2031(令和13)年春とされている。
同線は大阪府、大阪市、JR西日本、南海電気鉄道(以降「南海」と略)、阪急電鉄の5社が共同事業として進める新線計画で、第三セクターの事業として進められている。
自治体が絡むものの、JR西日本と複数の民鉄事業者が一緒に路線造りを行うのは近畿地方では、珍しいことといって良いだろう。国鉄時代には私鉄との競走が激しく、お互いつばぜり合いを演じてきた仲でもある。路線が近くを走っていても駅すら設けないのが、ごく当たり前でもあったのだが、時代が変わったことを強くうかがわせる。
なにわ筋線は大阪駅(新駅)から、中之島駅、西本町駅(いずれも仮称)と路線が敷かれ、西本町駅の先で分岐、一本はJR難波駅へ、もう一本は南海新難波駅(仮称)を経て、新今宮駅付近で南海本線と合流する。
大阪駅(新駅)〜西本町駅間はJR・南海共同営業区間で、西本町駅の南に設けられる分岐ポイントからそれぞれJR西日本と南海の営業区間となる。
JR難波駅は現在、関西本線の列車の折り返し駅となっている。「なにわ筋線」が完成した後、特急「はるか」「くろしお」はこの駅と新線を利用して、大阪駅(新駅)へ向かうことになる。このルートが完成すれば、現在、西九条駅〜梅田信号場(地下化が完成後は大阪駅)間に残る単線区間は走らずに済む。所要時間の短縮とともに、列車本数の増便も可能になり、その効果は大きい。
計画では南海の路線は新今宮駅付近から地下へ潜り、JR難波駅から北へ伸びる路線と合流し、大阪駅(新駅)へ向かう。南海の線路幅はJR西日本の在来線と同じ1067mmで乗り入れには支障ない。すでに関西空港線ではJR西日本と南海が一部区間を共用しており、運行や技術的な問題もなさそうだ。
なにわ筋線が開業した後には、関西空港線のように、JR西日本と南海の特急が大阪駅(新駅)で顔を合わせることになるのかも知れない。
なにわ筋線の計画で興味深いのは阪急電鉄が絡んでいることである。「阪急十三方面に分岐する路線(なにわ筋連絡線)について、国と連携しながら整備に向けた調査・検討を進めます」としている。
開業目標を2031(令和13)年春としているが、同目標には阪急電鉄の乗り入れ計画は明示されていない。阪急電鉄では1435mmという標準軌幅の電車が走る。既存の在来線の線路幅と異なり阪急の電車は新線を走ることができないにもかかわらず、なにわ筋線の計画に名を連ねているということは、阪急電鉄が、線路幅が違うものの、少しでも沿線住民の便利さを考えて、なんとか線路を延ばせないか考えてのことなのだろう。既存の鉄道会社が、将来にむけて強い危機感を感じている現れなのかも知れない。
【大阪の新線計画⑥】御堂筋線が乗り入れる「北大阪急行」が延伸
大阪を南北に走る大阪メトロ御堂筋線。1933(昭和8)年5月20日に梅田駅〜心斎橋駅間の3.1kmが開業した日本で2番目に古い地下鉄路線である。後に南は中百舌鳥駅(なかもずえき)、北は江坂駅まで延長されている。
江坂駅から先も路線があり、こちらは北大阪急行電鉄という大阪メトロとは異なる企業が運営している。北大阪急行電鉄は大阪府と阪急電鉄などが出資する第三セクター方式の鉄道会社だ。1970(昭和45)年に開かれた日本万国博覧会のために、北大阪急行・南北線の江坂駅〜千里中央駅間5.9kmが設けられた。ちなみに同線と万国博中央口間をつなぐ東西線という路線が造られたが、万博閉幕後に廃止されている。
南北線の現在の終点駅は千里中央駅で豊中市にある。北隣には箕面市(みのおし)がある。この箕面市西宿までの区間、2.5kmの延伸工事が進む。路線は国道423号(新御堂筋)沿いに設けられる。新線区間には箕面船場阪大前駅と箕面萱野駅(みのおかやのえき)が設けられる。箕面市には阪急電鉄箕面線の箕面駅があったが、新線ができる付近は住宅地が多かったものの鉄道空白地帯で、路線の延伸が長年望まれてきた。
新線の終点駅となる箕面萱野駅には、複合型ショッピングセンター「みのおキューズモール」がすでにあり、同店舗と駅が直結される。通勤・通学だけでなく、ショッピングにも便利な路線となりそうだ。
【大阪の新線計画⑦】万博開催に合わせ伸びる大阪メトロ中央線
2025(令和7)年の4月13日〜10月13日開催予定の日本国際博覧会。前回に開催された万博が1970(昭和45)年のことだったから、55年ぶりに大阪で開催される万博となる。
開催の予定地は大阪市の夢洲(ゆめしま)。大阪港、最西端にある人工島で、島内には現在、巨大なコンテナターミナルがある。一方で多くが空き地のままとなっており、その空き地が万博会場となる。
現在、夢洲へ渡るためには夢舞大橋と、夢咲トンネルを利用しなければならない。夢咲トンネルは万博会場となる夢洲と、南側の咲洲(さきしま)の間の海底部分にある自動車専用のトンネルで、同トンネル内の中間部を活かして、鉄道新線を通す。
咲洲のコスモスクエア駅までは大阪メトロの中央線が走っている。このコスモスクエア駅と夢洲に設けられる夢洲駅(仮称)間に新線が設けられる。ちなみに、終点のコスモスクエア駅と、1つ手前の大阪港駅の間は大阪港トランスポートシステムという事業者が路線の所有者で、夢洲延伸後も同社の所有になるという。
コスモスクエア駅からは前述の夢咲トンネルを利用、夢洲駅までは北港テクノポート線と名付けられ、2024(令和6)年度には完成予定だ。
北港テクノポート線は将来、新桜島駅(仮称)まで伸ばす計画もあったが、こちらの計画は明確になっていない。統合型リゾート施設(IR)の構想がコロナ禍もあり進んでいないことが影響しているようだ。
【大阪の新線計画⑧】大阪モノレールの路線の延伸計画もある
大阪市の周辺をぐるりとめぐる大阪モノレールの路線。大阪モノレール線と、彩都線(さいとせん)の名前で親しまれる国際文化公園都市モノレール線の2本の路線がある。
本線にあたる大阪モノレール線は大阪空港駅(豊中市)と門真市駅(かどましえき/門真市)間21.2kmを結び、かつては世界最長のモノレール路線でもギネス世界記録としても認められていた(現在は世界2位)。
そんな大阪モノレール線の延伸計画がある。現在の終点駅である門真市駅から南へ8.9km、瓜生堂駅(うりゅうどうえき/仮称)まで延長するプランだ。
新設される駅は4つ。門真市駅側から見ると、最初の駅が門真南駅(仮称)で、ここで大阪メトロの長堀鶴見緑地線と接続する。次の鴻池新田駅(仮称)ではJR西日本片町線(学園都市線)と、荒本駅(仮称)では近鉄けいはんな線(大阪メトロ中央線)と、終点の瓜生堂駅では、近鉄奈良線の新駅が設けられ、大阪モノレールとの接続駅が生まれる予定だ。
この延伸により、現在の営業区間と合わせると既存の鉄道10路線と接続されると言う。東京でもそうだが、都市の中央と郊外を結ぶ路線は充実している。一方で、郊外の町同士を結ぶ環状線路線は脆弱な印象が強い。大阪モノレールの延伸はそうした郊外の町々を結ぶ路線として役立ちそうだ。
すでに瓜生堂駅に新設される車両基地の整備が始められている。開業の目標は2029(令和11)年を予定している。