ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をする「クルマの神は細部に宿る。」。今回は、古くからEVを販売してきたBMWが昨年末に発売したEVのフラッグシップモデル、iXを取り上げる。
※こちらは「GetNavi」 2022年6月号に掲載された記事を再編集したものです。
【レビュアーPROFILE】
永福ランプ(清水草一)
日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。2018年以降、ペンネームを「MJブロンディ」から「永福ランプ」へ変更している。
安ド
元GetNavi編集部員で、現在ではフリーエディター。永福ランプを慕い「殿」と呼んでいる。
【今月のGODカー】BMW/iX
SPEC【xDrive50】●全長×全幅×全高:4955×1965×1695mm●車両重量:2530kg●パワーユニット:モーター●最高出力:313PS(230kW)/8000rpm●最大トルク:40.7kg-m/5000rpm●WLTCモード一充電走行距離:650km
1070万円〜1280万円(税込)
世界最大級のバッテリーを搭載したゴージャスな1台だが、電費の伸びはイマイチ
安ド「殿! BMWの最新のEVを借りてきました! iX xDrive50です!」
永福「バッテリー容量111.5kWh。世界最大級だな」
安ド「世界最大級ですか! だから航続可能距離が650kmもあるんですね!」
永福「そのはずだが、私が200kmほど試乗した計算では、航続距離は450kmくらいという計算になった」
安ド「えっ!」
永福「それもバッテリーを使い切っての話だから、実質的には400kmくらいだ」
安ド「ずいぶん差がありますね!」
永福「あまりにも大きなバッテリーを積んでいるので、車両重量が2.5tに達しているのも原因だろう。加えて空気抵抗が大きいSUVタイプなので、高速巡行でも電費が伸びなかった」
安ド「エアコンを使ったからでしょうか?」
永福「私もそう思って消してみたが、考えてみたらこんなゼイタクなクルマに乗っていて、エアコンをケチるというのはどうなのかと思い直し、使うことにした」
安ド「言われてみれば……」
永福「世界最大級のバッテリーを積んだ、1300万円もするEVだ。エアコンをケチったりする必要がないように、というコンセプトのはずだろう」
安ド「豪邸に住んでいて電気代を節約するのは違和感がありますね!」
永福「つまり、豪邸という時点で、エコではないのだ」
安ド「言われてみれば……」
永福「こういうゴージャスなEVにも、エコだエコだと言って補助金を出すのはいかがなものか」
安ド「同感です! 補助金は僕のような貧乏人に出してほしいです!」
永福「お前が貧乏なのは浪費癖が原因だろう」
安ド「その通りです!」
永福「テスラのモデル3ロングレンジAWDなら、バッテリー容量79.5kWhで、もうちょっと長い距離を走れるぞ」
安ド「電費が良いんですね!」
永福「車両重量は1.8t。空気抵抗も小さいからな。テスラ モデル3がEVとして世界一売れている理由がよくわかる。しかもテスラは、世界じゅうに独自の充電ネットワークを設置している」
安ド「BMWはやってないんですか?」
永福「BMWディーラーにすら、急速充電器がほとんどない。これから整備するのかもしれないが、現状、国産メーカーのディーラーで充電しなければならない」
安ド「でも、このクルマで日産や三菱のディーラーに乗り付ければ、威張れそうですね!」
永福「私が三菱のディーラーで充電したときは、ほとんど無視だった。一方、レクサスのディーラーは大歓迎してくれた」
安ド「……なんとなく想像が付きます!」
永福「想像以上だった」
【GOD PARTS 1】ディスプレイ
ゆるやかな曲線を描く超大型ディスプレイ
インパネには「カーブド・ディスプレイ」と呼ばれる横長の曲面ディスプレイがあるだけで、開放感にあふれています。全情報がこのディスプレイに表示される仕組みですが、庶民としては、故障時の修理費用が高そうと考えてしまいます。
【GOD PARTS 2】センターコンソール
木目と組み合わされたキラキラ系コントローラー
「フローティング・センターコンソール」と呼ばれる運転席と助手席の間にあるひじ置き先端部に、操作スイッチが集中しています。BMWおなじみのiDriveコントローラーなどはクリスタル仕立てで、木目との奇妙な組み合わせが不思議です。
【GOD PARTS 3】リアシート
足元もフラットなゆったり快適空間
SUVらしく後席スペースは広く、赤茶色の上質な本革が採用されていて、豪華な空間になっています。BMWといえばFR(フロントエンジン・リア駆動)で足元に膨らみがあったものですが、iXにはそれもないので足元もゆったりしています。
【GOD PARTS 4】クリスタルフィニッシュ
キラキラ系のデザインアイコン
シート位置の調整つまみがドアに付いており、ここにもクリスタルのパーツが採用されています。運転者が決まっていれば頻繁に操作する部分ではないので、見栄え重視の設計なのでしょう。好みかどうかは別ですが……。
【GOD PARTS 5】ドアボタン
ワンボタンで開くが隠しドアノブもあり
ドアは未来のクルマっぽく、ボタンで開ける電子式になっています。押すと「ガチャッ」と少し開くので、あとは普通のクルマと同じようにドアを押して開けます。一度やってみれば怖いことはないのですが、電気が切れたときのことを考えてか(?)、ドアの下のほうには隠しドアノブも付いています。
【GOD PARTS 6】ゴールド加飾
豪華な雰囲気をさらに演出
ステアリングやインパネ中央の水平ラインなど、あちこちにゴールドのパネルが採用されています。ゴールドといえば高級感を演出する手法かもしれませんが、なんだか従来のBMWのイメージとは違うような気もします。
【GOD PARTS 7】カーボン素材
重量を下げるための軽量素材
大型バッテリーを搭載すると車体が重くなってしまいますが、iXではボディ素材に軽量かつ高剛性なカーボン素材を採用して軽量化を狙っているようです。バッテリーの重量を考えると焼け石に水でしょうけど。
【GOD PARTS 8】充電シーン
短時間で充電できる急速充電器が欲しい
EVに乗っていて一番気になるのは、出かけた先に急速充電器があるか否か。日産や三菱などのディーラーには置いてあることが多いのですが、BMWディーラーにはまだほとんど急速充電器は置いてないようです。インフラは重要ですね。
【GOD PARTS 9】ラゲッジスペース
広くて奥行きもあるので様々なシーンで活躍
最新SUVらしく大きなスペースが確保されていて、日常使用だけでなく、休日のアウトドアでも活躍することでしょう。ただハッチを開けた際、両脇に大きめな面積のボディ断面がむき出しになります。ココは未来っぽくありません。
【これぞ感動の細部だ!】キドニー・グリル
グリルのようでグリルでない
グリルは本来、エンジンルームへ空気を送るためにありますが、このiXのグリルには穴がありません。BMWのデザインアイコンである2つの大型グリルのように見せて、実はクリアパーツの裏側にはカメラやレーダーなど、センサー系メカニズムを搭載しているのです。さらにこの部分にはヒーター機能もあって、雪などでセンサー機能が妨げられないようになっています。
撮影/我妻慶一
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