乗り物
2016/10/19 10:00

日本最短の走行距離ながら路面電車イチの“優等生”ーー100年以上の伝統を守る「岡山電気軌道」

全国を走る路面電車の旅 第13回 岡山電気軌道

 

70万都市、岡山市内を走る路面電車・岡山電気軌道。路線の距離は4.7kmと短めながら、創立100年を越える。しかも創業当時から社名が一度も変わっていない、超堅実で超優良な鉄道会社だ。

 

一方で、老舗鉄道会社ながら看板列車“MOMO”をイメージリーダーに、業界をリードし続けている。最近では地元・岡山だけではなく、和歌山電鐵をはじめとした苦しむ地方の公共交通機関の救済に乗り出すなど、ワクにとらわれない創造性豊かな経営姿勢にも注目が集まっている。そんな“岡電”の名で市民に愛される路面電車の魅力に迫った。

↑中納言停留所付近を走る9200形MOMO2。後ろの店舗は岡山きびだんごの製造元「広栄堂武田」
↑中納言停留所付近を走る9200形MOMO2。後ろの店舗は岡山きびだんごの製造元「広栄堂武田」

 

【歴史】100年以上、岡山電気軌道のブランドを守り続ける

岡山市内を走る岡山電気軌道の路線は東山線(岡山駅前~東山間)と、清輝橋(せいきばし)線(岡山駅前~清輝橋間)の2本がある。路線は1912(明治45)年5月5日に岡山駅前~後楽園口が、6月1日に城下~西大寺町間が開業、その後、1923(大正12)年に東西線が全線開通、1946(昭和21)年に清輝橋線が開業した。

 

2路線あわせた営業距離は4.7km。全国を走る路面電車の路線の中で2本の線を合わせても最短というミニぶり(次に短い路面電車の路線は東急世田谷線で5.0km)だが、ミニだからといって侮ってはいけない。

 

創業当時から会社名は変わらず岡山電気軌道のまま。ちなみに、明治時代の創業当時から社名を一度も変えずに今日まで至る鉄道会社は非常に珍しい。他に長崎電気軌道や島原鉄道など非常に希少だ。多くの鉄道会社が戦中戦後、合併や分裂を繰り返した歴史を持つが、そうしたこととは無縁の企業だったわけだ。

 

創業以来、路線を大きく拡大することもなく、廃線となった路線は番長線の0.9kmのみ。全国の路面電車が高度成長期に消えていったが、そんな時代の波にも無縁だったのだ。

↑岡山駅前に停まる9200形MOMO1。MOMO2とは内外装のデザインが異なっている
↑岡山駅前に停まる9200形MOMO1。MOMO2とは内外装のデザインが異なっている

 

【車両】水戸岡氏が手がけた3000形“KURO”にも注目

岡山電気軌道の看板列車は9200形“MOMO”。2車体連接のLRT(ライトレール)車両で、“ブレーメン形”と呼ばれる。車輪それぞれが独立した車軸のない超低床車両だ。JR九州の車両などのデザインで有名な水戸岡 鋭治氏が担当した独創的なデザインで人気も高い。

 

MOMO以外にも、水戸岡氏がリニューアルを手がけた3000形“KURO”にも注目したい。元・東武日光軌道線100形だった車両で、その変貌ぶりには目を見張る。

↑3000形“KURO”はその名の通り車体が黒一色。元東武鉄道軌道線100形で日光市内を走っていた
↑3000形“KURO”はその名の通り車体が黒一色。元東武鉄道軌道線100形で日光市内を走っていた

 

全長わずか4.7kmなのに、所属車両の種類はなんと11形式。岡山駅前で電車を待っていれば、次々と違う電車がやって来るので、見ているだけでも飽きない。

↑市内を走る7600形。7000形から7900形まで9形式はほぼ角張ったスタイルで似ている
↑市内を走る7600形。7000形から7900形まで9形式はほぼ角張ったスタイルで似ている

 

車両だけでなく、岡山電気軌道ではパンタグラフにも注目してみよう。MOMOを除く車両のパンタグラフは、みな屋根上の鉄ワクの上に装着されている。石津式と呼ばれる岡電独自のパンタグラフで、スタイルは異色だ。石津龍輔6代目社長が自ら考案したもので、保守点検が楽なので、このパンタグラフが長年使い続けられている。

↑9200形MOMO以外の車両は石津式と呼ばれる特異な姿のパンタグラフを利用している
↑9200形MOMO以外の車両は石津式と呼ばれる特異な姿のパンタグラフを利用している

 

堅実経営の上に、細かい所まで社長自ら率先して効率化を図る。こうした伝統の上に成り立っている企業なのである。

 

【沿線】最低運賃100円で市民に愛される“岡電”

沿線の旅も魅力的だ。沿線には名所旧跡が多く、特に岡山城や岡山後楽園などの主要観光スポットは、城下・県庁通りの両電停から徒歩で回ることができる。岡山駅前から県庁通りまでは運賃も100円と安く、気軽に乗れるのがうれしい。

 

路線は大半が大通りの中央を走っていて、センターポール化されている。桃太郎大通りを“MOMO”が走り抜ける様子は、ヨーロッパのLRTを見るかのようだ。

 

しかし、東山線も旭川の橋を渡ると、その先は道幅が狭くなり、昔ながらの街並みを走ることに。岡山城主だった小早川 秀秋(官職は権中納言)の邸宅があったことから名付けられたといわれる中納言、武家屋敷が建ち並んでいた門田屋敷など、歴史的な名前の停留所が続く。ちなみに、中納言では岡山名物きびだんごの老舗店の軒先を電車が通る。

 

美しく整備された大通り沿いの電停とは異なり、小橋、中納言の両電停にはホームもなく、チンチン電車の風情にあふれている。4.7kmと短めながら、見どころに尽きない路線である。

↑岡山電気軌道はバス事業も行っている。名物“TAMABUS”は耳付き、車体にタマの絵が描かれる
↑岡山電気軌道はバス事業も行っている。名物“TAMABUS”は耳付き、車体にタマの絵が描かれる

 

【TRAIN DATA】

路線名:岡山電気軌道東山線・清輝橋線

運行事業体:岡山電気軌道

営業距離:4.7km

軌間:1037mm

料金:100円・140円

開業年:1912(明治45)年

*岡山駅前〜後楽園口(5月5日)、城下〜西大寺町間(6月1日)を開業。