カーシェアリングがクルマ大国のドイツで普及しています。同国の都市部の至る所でカーシェアが見られるようになり、2022年には過去最高のユーザー登録数を記録。いまやカーシェアリングはドイツの都市生活に不可欠と言えるほど広がっていますが、なぜこのような現象が起きているのでしょうか? その背景には「乗り捨て型システム」があるようです。
乗り捨てが75%
日本のカーシェアリングでは、インターネットでクルマを予約し、サービス提供会社によって決められたステーションに行って乗り始め、利用後は出発したステーションに返却するのが一般的。いわゆる「乗り捨て」は原則できません。しかし、ドイツには主に「乗り捨て」を提供する業者が複数あります。このシステムは「フリーフローティング・カーシェアリング」と呼ばれており、ベルリンやミュンヘン、デュッセルドルフなどの大都市を含めて34都市で展開されています。
ドイツのカーシェリング市場には「ShareNow」「Miles」「Sixtshare」「WeShare」という主要プロバイダーがおり、この4社が国内市場の上位を占めていますが、今回はその中からShareNowを取り上げて、フリーフローティングカーシェアリングのサービス内容と利用方法を見てみましょう(以下)。
・24時間年中無休で利用可能
・月額料金はなく、利用代金は1分あたり0.09ユーロ(約12.4円※)から(※1ユーロ=約138円で換算)
・利用は数分でも数日でもOK
・事前に予約すれば指定の場所までお届け
・パソコンやスマートフォンのアプリを使用して好きな車種やクラスを選択・アプリで希望の場所や現在位置から近くにあるクルマを探して乗車
(前の使用者が乗り捨てた場所に取りに行って使用することもあり)
・ガソリン代、保険料、メンテナンスは一切不要
・利用後は同じ市内であれば路上など駐車エリアに乗り捨て可能
(駐車禁止の標識がある場所以外は基本的に路上駐車が可能なうえ無料駐車スペースもあり)
・公営駐車場やデパート、空港の専用駐車場にも乗り捨て可能
・駐車料金は無料
ユーザーが駐車料金を支払わずに有料駐車場に停められるシステムが実現した理由は、プロバイダーが各自治体と直接連携したから。かつてはユーザーやプロバイダーが駐車料金を支払う必要があったのですが、環境や交通量の面から少しでも自家用車の保有を減らしたいと考えた自治体がカーシェアリングを推奨するようになったのです。その取り組みは、多くのユーザーを獲得することにつながりました。
2012年に導入されたフリーフローティングシステムは、当初こそ“乗り捨て不可”のステーションベースシステムの割合には及ばなかったものの、2014年頃から人気が急上昇。2021年にはカーシェアリング市場全体の約75%を占めるようになりました。
新たな通勤手段
コロナ禍の影響について言えば、少なくとも最初の数か月はカーシェアリングプロバイダーも打撃を受けました。特に国を挙げて大規模なロックダウンを実施した時期は、外出自体に規制がかかり、ドイツカーシェアリング連邦協会の統計によると予約数と車両使用率が大幅に減少したそう。
しかし、規制が緩和されるのに伴って需要は回復し、2021年からカーシェリング市場は急速に伸びるようになりました。マスク着用規制や感染の可能性がある電車やバスの利用は現在でもやはり敬遠されがち。そのような状況もあって、乗り捨てできる便利なカーシェアリングが通勤手段として選ばれ、ユーザー急増につながったと見られています。
カーシェアリング連邦協会のデータによれば、2022年1月時点で前年比18%増の約340万人がカーシェアのサービスに登録しており、車両台数も同15.2%増とのこと。カーシェアが新たな交通手段になりつつあります。
エコなゼロミッションカーの導入も人気の理由
ドイツのカーシェアリングプロバイダーは、CO2などを排出しないゼロエミッションカーの導入に積極的です。次世代エコカーと呼ばれるバッテリー式電気自動車とプラグインハイブリッド車は、2022年1月時点のカーリング市場において23.3%を占めました。その中でも、バッテリー式電気自動車がほぼ中心的に利用されています。
エコ意識が高いドイツでは、CO2を排出するという観点からクルマを運転すること自体に抵抗感を持つ人もいるほど。電気自動車は高額なので簡単に手が届きませんが、カーシェアリングならばゼロミッションカーを気軽に借りることが可能。この意味で、ドイツでカーシェアリングの人気が上昇していることは納得できます。
このように、乗り捨て型カーシェリングには、ユーザーの利便性だけでなく、環境負荷を低減できるという大きなメリットがあります。今後多くの国や地域でさらに普及していくことで、エネルギー不足や地球温暖化など世界が抱える重要な課題の改善につながる糸口になるかもしれません。
執筆者/ドレーゼン 志穂