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2022/11/5 21:00

ありがとうキハ28形!別れを噛みしめる「いすみ鉄道」乗り納めの旅

おもしろローカル線の旅97〜〜いすみ鉄道いすみ線(千葉県)〜〜

 

千葉県のあるローカル線がこの秋、大変な賑わいを見せている。その路線とは、いすみ鉄道いすみ線。名物だったキハ28形が11月27日で定期運行を終了するため、今のうちに〝乗り納め〟をしようと、多くの人たちが訪れているのだ。

 

今回は、古参車両の歴史もふり返りつつ、いすみ鉄道の旅を始めていきたい。

*2010(平成22)3月12日から2022(令和4)年10月23日に撮影取材した現地材料を中心にまとめました。一部写真は現在と異なっています。

 

【関連記事】
懐かしの気動車に乗りたい!旅したい!「小湊鐵道」「いすみ鉄道」

 

【いすみ鉄道の旅①】人気のキハ28形とはどんな車両なのか?

11月で定期運行が終わるいすみ鉄道のキハ28形とはどのような車両なのか、歴史やバリエーションを含めて触れておこう。

 

年齢によってこの車両への思いは違ってくるだろう。50代以上にとっては小さいころから青春時代まで急行用車両として利用したリアルな体験があり、それ以降の世代は観光列車や地方ローカル線で乗車した経験があるかと思う。また、若い世代の中には、いすみ鉄道で初めて出会った、乗ったという人もいるのではないだろうか。

 

いずれにしても国鉄形と言われる代表的な車両であり、多くのファンを惹き付けてきた車両のように思う。筆者もその1人であり、いろいろな記憶が蘇る。

↑中央本線の国分寺付近を走る急行「アルプス」。長大編成の気動車急行が全国を走っていた 1968(昭和43)年ごろ筆者撮影

 

キハ28形は急行形気動車のキハ58系がベースとなる。非電化路線の無煙化を進める国鉄が1961(昭和36)年から積極的に導入を進めた車両で、1969(昭和44)年までに1823両と大量の車両が製造された。寒冷地仕様のキハ56系まで含めれば2000両を越える。

 

バリエーションは豊富だが、ここでの解説はキハ28形のみに留めておく。キハ28形は片運転台、本州以南向けにつくられた一般形2等車両(現・普通車)で、キハ58形がエンジンを2基積むのに対して、キハ28形は1基だった。

 

1800両以上も造られたキハ58系は、国鉄民営化後もJR北海道を除く全国のJR旅客会社に引き継がれ使われ続けた。そんな多くのキハ58系車両も、すでに製造されてから60年近くとなり、次々に引退となっていった。そして、いすみ鉄道のキハ28 2346号車がキハ58系最後の1両となったのである。

↑キハ28 2346号車は2000(平成12)〜2003(平成15)年に小浜線を走った。そしてキハ58系と編成を組み走った 小浜駅近くで筆者撮影

 

このキハ28 2346号車の経歴を見ておこう。まずは1964(昭和39)年4月15日に鳥取県の米子機関区(現・後藤総合車両所)に配置された。その後に各地を転々とする。新潟機関区(現・新潟車両センター)、千葉気動車区を経て米子機関区に戻り、さらに石川県の七尾機関区、富山運転所、高岡鉄道部、福井県の小浜鉄道部から再び高岡鉄道部へ戻る。JR西日本では高山本線での運用が最後になった。その後、廃車が検討され保留車になったが、越前大野鉄道部へ移り災害復旧に役立てられた。

 

要は非常に〝転勤〟が多かった車両なのだが、千葉気動車区では急行「房総」、急行「京葉」といった列車に使われていた。キハ28 2346号車にとって、外房線の大原駅はかつて日常的に通っていた路線であり駅だったのである。その後、金沢総合車両所で整備された上でいすみ鉄道へ譲渡され、2012(平成24)年10月11日に搬入、再整備した上で、翌年の3月9日から運用が開始された。生まれてから58年、いすみ鉄道へやってきてから10年たった。そんな古参車両も、ついに11月27日(日)で定期運用が終了となる。

 

引退の理由としては、キハ58系の最後の一両で、走行用エンジンや冷房エンジンなどの部品調達が困難となり、また車両維持に多額の資金が必要になるためとのこと。引退後の車両の処遇は検討中で、来年2月ごろまではイベント列車としての運行計画も検討されているようだ。

 

【いすみ鉄道の旅②】国鉄木原線として誕生したいすみ線

キハ28形が走るいすみ線の概要を見ておこう。

路線と距離いすみ鉄道いすみ線:大原駅〜上総中野駅(かずさなかのえき)間26.8km 全線非電化単線
開業1930(昭和5)年4月1日、木原線の大原駅〜大多喜駅間が開業、
1934(昭和9)年8月26日、総元駅(ふさもとえき)〜上総中野駅間が開業、現在の路線が全通
駅数14駅(起終点駅を含む)

 

いすみ線の歴史は官設の木原線により始まる。木原の「木」は木更津のことで、当初は木更津と大原を結ぶ路線として計画された。これより以前に大原〜大多喜間には県営人車軌道、さらに夷隅軌道が走っていたが、赤字続きで経営が成り立たなくなり、木原線の開業前に会社が解散してしまった。地元の人々の陳情が実り、代わりに木原線が開業したのだった。

 

戦後は国鉄木原線として運行され、1987(昭和62)年にJR東日本に継承されたものの、1988(昭和63)年3月24日に第三セクター鉄道のいすみ鉄道に引き継がれ、現在に至る。

 

【いすみ鉄道の旅③】車両は国鉄形の新車などユニーク

いすみ線を走る車両の紹介をしておこう。現在、車両は5タイプが走る。

 

◇キハ28 2346号車

↑大多喜駅を出発する急行運用のキハ28 2346号車。後ろはキハ52。キハ28は国鉄時代の一般色、急行形気動車色で塗られている

 

前述したようにキハ58系のエンジン1基タイプで、いすみ鉄道ではキハ52と連結して運行されている。急行列車、レストラン車両としても運用されてきた。座席はボックス+ロングで計32席。定員は77人となっている。塗装は急行形気動車色とも呼ばれ、地色はベージュ「クリーム4号」(国鉄時代に決められた塗装色および呼び名=以下同)で、窓周りはややオレンジがかった「赤11号」で塗られる。

 

ほか4車両は製造された順番に紹介していこう。

◇キハ52形

キハ28形と同じように国鉄時代生まれで、JR西日本経由で入線した。ベースはキハ20系と呼ばれる一般形気動車で、各地の非電化区間の普通列車に利用された。キハ52形は、キハ20系の勾配線区向けの形式で、エンジンが2基搭載されている。座席はボックス+ロングシートで61席、127人が乗車可能人数となる。

 

いすみ鉄道で走るキハ52 125号車は、かつてJR大糸線を走っていた車両で、当時は黄褐色がベースで青3号と呼ばれるブルーで塗られていた。2010(平成22)年にいすみ鉄道へ譲渡され、国鉄一般色と呼ばれるクリーム4号+朱色4号に塗り替えられ、翌年の4月29日から走り始めている。ちなみに、2014(平成26)年3月〜2019(令和元年)6月の間は首都圏色と呼ばれるオレンジ色一色に塗り替えられたが、現在は国鉄一般色に戻されている。

 

このキハ52とキハ28がコンビを組んで走り続けている。最新のキハ52形+キハ28形列車のダイヤを見ておこう。運行は土日祝のみで下記のダイヤで走っている。

 

下り101D:大多喜駅11時18分発 → 上総中野駅11時42分着

上り102D:上総中野駅11時52分発 → 大多喜駅12時16分

上り102D急行:大多喜駅12時20分発 → 大原駅12時53分着

下り103D急行:大原駅13時20分発 → 大多喜駅13時52分着

 

なお、下り列車はキハ52形を先頭に、上り列車はキハ28形を先頭にして走る。急行列車の乗車の際には乗車券の他に急行券(大人300円)が必要だ。

 

◇いすみ300形

いすみ300形は、いすみ鉄道創設当時から走り続けた「いすみ200形」の代わりに2012(平成24)年から2両が導入された。製造は新潟トランシスで、座席はボックス席43席、乗車可能人数は113人だ。

 

◇いすみ350形

2013(平成25)年に2両が導入された車両で、基本的な造りや、カラーはいすみ300形と同じだが、正面の形が国鉄のキハ20系気動車の形を彷彿させる姿となっている。こちらの座席はロングシートで44席、乗車可能人数は125人と、いすみ300形に比べて多くなっている。

 

◇キハ20

2015(平成27)年6月に導入された車両で、いすみ350形と同様にキハ20系気動車を似せた形となっている。一方で、塗装はキハ52形と同じ国鉄一般色で塗り分けられた。座席はボックス席でいすみ300形と同じ座席数、乗車可能人数となっている。

 

↑キハ28形を除く現在のいすみ鉄道の車両。こうして見るといすみ鉄道の気動車はかつての国鉄形デザインの車両が多いことが分かる

 

ほかには、国吉駅構内に保存車両も停められている。一両は国鉄形通勤用気動車のキハ30 62号車で、動態保存され、運転体験を楽しむことができる。もう一車両は、いつみ鉄道創業当時に導入されたいすみ200形で、こちらは静態保存されている。

↑国吉駅構内に停められるキハ30 62号車(右)は元久留里線や国鉄木原線を走った。左はいすみ200形206号車

 

【いすみ鉄道の旅④】大原駅の売店はキハ28グッズ形がいっぱい

今回のローカル線の旅は、路線の紹介も行いつつ、キハ28形にまつわる話、撮影場所などにも触れていきたい。

 

起点となる駅は外房線の大原駅。JRの駅舎につながるように、いすみ鉄道の駅舎がある。玄関口はJRのほうが大きいが、北側にいすみ鉄道の入口も設けられている。

↑JR外房線の大原駅に並び、左手の自販機の横にいすみ鉄道の入口がある。駅内の売店ではキハ28形グッズが大集合していた(左上)

 

いすみ鉄道の駅舎内には切符の券売機があり、1日フリー乗車券は、平日(大人1200円)、土休日用(大人1500円)で販売される。自社線内だけでなく、上総中野駅から小湊鐵道を利用して五井駅まで乗車可能な「房総横断乗車券」(大人1730円)も販売している。なお、同横断乗車券は途中下車・片道乗車のみ有効となっている。

 

大原駅の構内には売店があり、お弁当、菓子類のほか、いすみ鉄道のグッズも多数取り扱っている。ここ最近ではキハ28形関連グッズの人気が上々のようで、多数販売されていた。

↑大原駅の2番線に到着のキハ28形急行列車。1番線にはキハ20が停車。風景だけを見るとまるで昭和の駅に迷いこんだよう

 

切符を購入して構内へ。ホームは1面で、通常は1番線に列車が停車しているが、急行列車運行の際には2番線も利用されている。駅に停まっている発車待ちしていた列車内に、駅のスタッフが乗り込み、次のような呼びかけをしていた。

 

「『特急わかしお』が到着しますと混みあうと思われます。途中駅で下車される方はなるべく前に乗車することをおすすめします」とのことだった。つまり、キハ28形引退発表後には混みあうことが多くなり、車内の移動が難しくなる。「後のり前おり」のワンマン運転で、おりる時に運転席後ろにある料金箱に料金を入れるシステムのため、途中下車する場合には前に乗ったほうがいいですよ、というアドバイスだったのだ。

 

筆者が乗車したのは朝9時1分発の55D列車で車両はいすみ350形だったが、キハ28形の引退人気は予想をはるかに上回るものだった。

 

【いすみ鉄道の旅⑤】西大原駅付近の草刈りに頭が下る思い

発車時間が近づき、立って乗車する利用者も多い。観光客に加えて三脚、脚立などを持った鉄道ファンが多く見受けられた。列車は外房線の線路を離れ、左カーブをきって走っていく。大原の街中から次第に郊外の風景となり次の停車駅、西大原駅へ到着する。この西大原駅から上総東駅(かずさあずまえき)までは左右に水田が広がる。

 

いすみ鉄道の路線は専門スタッフや、地元の農家の方々が線路沿いの雑草を除去しているところが多く、車両を撮る立場として非常にありがたい。10月末に乗車した時に、意識的に窓の下の雑草の伸び具合をチェックしたのだが、雑草が生い茂る場所は、あまり見かけなかった。

↑上総東駅〜西大原駅間を走るキハ28+キハ52列車。同区間では草刈りされる風景に出会ったことも(右上)

 

上の写真は7年前に撮影した模様だ。この西大原駅〜上総東駅間は、朝8時台に通過するキハ28形の撮影に向いていた区間だったのだが、ダイヤが変更となり上り列車の通過が12時台となってしまった。そのために西大原駅近くでは正面に光が当たらなくなったのがちょっと残念だ。逆に下り列車のキハ52形を先頭にして撮るのには、うってつけの光線状態となっている。

 

【いすみ鉄道の旅⑥】順光にひかれて新田野駅付近は大賑わい

いすみ鉄道は地図を見ると分かるように、意外に線路がカーブしている。そのため天気の良い日ほど、撮影場所の選択は難しくなる。特にキハ28形を先頭にして走る上り列車の人気が高い。現在は上総中野駅11時52分発、大多喜駅12時20分発、大原駅12時53分着の列車に限られている。

 

いま、この列車を狙おうと多くの人が集まるのが新田野駅(にったのえき)周辺である。この新田野駅からしばらくの間、列車は南東に向いて走る。昼過ぎにこの地区を走るキハ28形を撮るのに最適の区間なのだ。

 

筆者も何度かこの区間を訪れたが、背景は水田で、やや盛り上がった直線路を走ってくるため、誰が撮っても間違いなくキハ28+キハ52(以下、「キハ28列車」と略)をきれいに写せるだろう。そのために、この地区は大変な人気となっていて、国道465号から線路へ入るわき道沿いには三脚がひな壇状に並び壮観だ。駐車違反となりそうな車も多いので、なるべく列車利用で訪問したいところ。11月中は駐車の取り締まりも厳しくなると思われる。

 

こだわるタイプの鉄道ファンがいすみ鉄道を訪れる理由の一つに、ヘッドマークが挙げられる。今年の1月中旬〜3月下旬にはかつて四国を走った「うわじま」「いよ」というヘッドマークを、所蔵する松山運転所からわざわざ借り受けて装着し、さらに正面に通称「赤ひげ」と呼ばれる赤帯のアクセントを入れて走らせた。まるで、かつて四国を走っていたような姿だったため、多くの撮影者で沿線が賑わったのはいうまでもない。

↑新田野駅〜上総東駅間の定番スポットで。この時は四国の急行「うわじま」のヘッドマークと「赤ひげ」塗装で走行した。左上は新田野駅

 

【いすみ鉄道の旅⑦】名物となった国吉駅のたこめし駅弁

話がキハ28形に寄り過ぎたが、沿線の観光要素にも触れておきたい。新田野駅の次は国吉駅となる。ここでは週末ともなると、「たこめし弁当」(1000円)の販売が、ホームだけでなく車内にもスタッフが乗車して行われている。最近はキハ車両のかぶりものをするなど〝のり〟が非常にいい。この名物弁当を購入する人も多いようだ。

↑国吉駅名物のたこめし弁当。立ち売り以外にも駅構内でも販売。最近はかぶりものをしたスタッフも頑張っている(右下)

 

同駅での停車時間は列車により1分から5分とまちまち。短い停車時間の列車は残念にも感じる。ちなみに、駅弁販売を行うスタッフは「いすみ鉄道応援団」というボランティア団体。いすみ鉄道は、地元の多くの人たちに支えられて走っているわけである。

 

国吉駅付近も水田が広がり好適地だが、キハ28列車の発車が12時37分発とやや遅くなり、正面の光がやや陰ってくる。

 

国吉駅構内に停まるキハ30は9月まで有料での運転体験が行われていた。たこめし弁当付きで、机上講習を受けたうえで、1人4回、実車講習・運転体験が楽しめたそうだ。

 

↑国吉駅を発車したキハ28列車。駅構内にはキハ30(右)が動態保存されている

 

国吉駅から上総中川駅の前後までは国道465号が平行して通っている。途中、菜の花スポットなどの人気ポイントがあり、また光の状態が良い南東方向へ向けて走る区間もあり撮影者も多い。さらに城見ヶ丘駅(しろみがおかえき)から大多喜駅の間は桜並木が続き、第三夷隅川橋梁などの人気スポットが続く。

 

10月末に訪れた時には人気ポイントに三脚を立てた撮影者たちの姿が多く見受けられた。この付近をキハ28列車が通過するのが12時半ごろなので、約3時間も気長に待つ予定なのだろう。

↑大多喜駅〜城見ヶ丘駅間の第三夷隅川橋梁で。網棚などキハ28形の車内設備はみな郷愁を誘うものばかり(右下・詳細は本文参照)

 

【いすみ鉄道の旅⑧】大多喜駅ではキハ28列車を待つ行列も

筆者が乗車した列車は大多喜駅に10時56分に到着した。ホームにはなぜか多くの人たちがいる。これまで何度か訪れた大多喜駅だが、この人の多さは何だろう? 駅スタッフが「キハ28に乗車する方は、こちらへ並んでください」と声がけをしているので、このあと11時18分発の上総中野駅行きキハ28列車を待つ人たちだと分かった。筆者も慌ててその列に並んだが、11月に入ったらもっと大変な行列になるだろうと思った。

↑いすみ鉄道の中心駅となっている大多喜駅。同駅で鉄印が販売されている。鉄印帖入れに便利な「キハ52ポーチ」(1530円)も用意

 

大多喜駅にはいすみ鉄道の車庫もあり、車両の出入りが駅の内外から見ることができる。10時56分着の大多喜駅止まりの列車が1番線から離れると、代わって車庫からキハ28の列車が入線してくる。この列車は11時18分発の上総中野駅行きとなる。

↑大多喜駅の車庫を出庫するキハ52+キハ28(右)。ちょうど下り列車キハ20(左)と並んだ。キハ20は新車だが、まるで同世代の車両のようだった

 

大多喜は江戸時代には大多喜藩があったところで、現在も「房総の小江戸」と呼ばれている。駅の西側に大多喜城が建ち、東側には城下町も残っている。「県立中央博物館大多喜城分館」(現在施設改修のため休館)や、商い資料館等の施設もあり、時間に余裕がある時には散策にうってつけの町なのだ。ただ、キハ28形が走っている間は、そちらに注目が集まりそうだが……。

 

ちなみに、鉄道好きには「房総中央鉄道館」(日曜のみ開館/有料)もあり、館内には多くの鉄道部品が展示され、広大なNゲージやHOゲージのジオラマも用意されている。

 

 

↑19世紀中ごろに建った大多喜町の渡邊家住宅。渡邊家は大多喜藩御用達を務めた商家だった。列車内から大多喜城も見える(右上)

 

【いすみ鉄道の旅⑨】名物の桜や菜の花とも永遠のお別れに

大多喜駅でキハ28列車の乗車の行列に並び、無事に乗車することができた。キハ52形との編成ながら、やはり引退するキハ28形のほうに乗車する人が圧倒的に多かった。筆者にとって、沿線で撮影することが多いキハ28列車だったが、いすみ鉄道のキハ28形に実際に乗車するのは初めて。キハ58系の列車に乗車するのは、いつ以来のことになるのだろう。

 

自由席のサボが付いた乗降口から乗り、まずは年季の入った車内を眺める。床は長年、多くの人が歩いて使い込んだ古さが感じられる。

 

青い座面の下に貼られたヒーターの暖気が吹き出る小さな穴が開いた金属板。グレーの肘当ての角の丸み。窓上には座席指定の1A・1Bなどを示した小さなプレート、その横にある上着をかける金属の無骨なフック。網棚は太い緑の糸を網状に編んだ、それこそ本来の言葉そのものの「網棚」。天井には蛍光灯むき出しの照明、角張った大きなクーラーのふきだし口……見るものすべてが懐かしい。

 

乗り心地は新しい車両のようにはいかず揺れる。継ぎ目の多い線路を走るジョイント音が聞こえてくる。一基ながらエンジン音も独特の音を奏でている。これは最新車両ではなかなか体験できない味わいだろう。

 

大多喜駅を出たキハ28+キハ52の組み合わせは、上総中野駅までキハ52が先頭となり走っていく。第四夷隅川橋梁では、右に大多喜城を眺め、第五夷隅川橋梁を渡り小谷松駅(こやまつえき)へ。さらに東総元駅(ひがしふさもとえき)と、桜や菜の花がきれいな区間が続く。とはいえ今は秋。名物の桜や菜の花が咲くころには、もうキハ28形とのコラボを見ることができないのが残念である。

↑東総元駅付近は、春先の桜と菜の花畑が名物だ。写真は引退してしまったいすみ200形

 

ホーム一つの小さな久我原駅(くがはらえき)を発車すると、列車は第六夷隅川橋梁、第七夷隅川橋梁を渡って、総元駅(ふさもとえき)へ。こうして見ると蛇行する夷隅川を、いすみ線の列車は多数の橋梁で渡っていることが分かる。総元駅を過ぎれば夷隅川に架かる最後の第八夷隅川橋梁を渡る。

 

【いすみ鉄道の旅⑩】上総中野駅近くで最後の撮影を行う

西畑駅からは山中を抜けてやや登っていく。大多喜駅からわずか24分の道のり。駅が近づいてくると、終点の上総中野駅が近づいたというアナウンスとともにBGMにはオルゴール音が流される。かなりテンポが遅くぎくしゃく感があるオルゴール音が妙に懐かしく郷愁を誘う。これぞキハ28形の極め付けの音だと思った。

 

キハ28列車は上総中野駅に到着した。この列車を待ち受けるようにホームには折返し列車に乗ろうとする人であふれていた。また、到着した列車の乗客のなかには、再び大多喜駅を、さらに大原駅までを目指す人が多いようだ。折返し列車に乗車するのは不可とのことなので、一度ホームに出て並ぶ人たちも多い。

↑上総中野駅でいすみ300形と小湊鐵道のキハ200形が並ぶ。キハ28列車の到着後にはホーム上は人であふれた(上写真)

 

乗車していた人の年代はさまざま。男性だけでなく若い女性が意外に多い。老若男女にキハ28形は絶大な支持を得ていたのだった。

 

筆者はキハ28の乗車は大多喜駅〜上総中野駅のみとして、終点駅近くの堀切興津踏切で折返し列車を待った。そして通過、思わず「お疲れさまキハ28!」と心の中でつぶやいていた。これが現役キハ28形との最後の別れとなりそうだ。

↑上総中野駅で折返したキハ28列車が大原駅を目指す。この日には「くまがわ」というヘッドマークを装着して走った

 

【いすみ鉄道の旅⑪】〝名優キハ28形〟のこんなシーンも!

キハ28形と長年、名コンビを組んでいたキハ52形は、今後は1両で走ることになるのだろうか。キハ28形を導入した当時のいすみ鉄道の社長は、国吉駅で保存されるキハ30形は、キハ52形との組みあわせを考えて導入したと鉄道趣味誌の誌上で述べていた。今後どのようなコンビが組まれるのか興味深いところである。

 

最後は筆者が出合った過去のキハ28列車の勇姿を掲載させていただき、キハ28形への感謝の気持ちを伝えたい。キハ28形という素晴らしい被写体があったからこそ、下手ながら少しは映える写真が撮れたように思う。

 

ありがとうキハ28形!

↑新田野駅付近で撮影した菜の花とキハ28形。この時には朝8時台に上り列車が走っていたため同撮影が可能だった 2014年3月29日撮影

 

↑この日は日通カラーのマツダオート三輪が走った日に偶然に出合うことができた。沿線に昭和の風景がよみがえった 2015年10月3日撮影

 

【追記】

本原稿アップ後、キハ28形に関して新たな情報が届いた。⾞両保存及び3Dデータ化のためクラウドファンディング活動を始めるとのことである。募集期間は 2022年11⽉18⽇(⾦)〜2023年1⽉15⽇(⽇)で、⽬標⾦額は 280万円とのこと。興味のある方は下記サイトをご覧いただきたい。

いすみ鉄道『キハ28-2346号車』保存プロジェクト ~車両保存&3Dデータ化~