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2023/4/18 18:00

日本企業の正念場、タイの自動車業界に忍び寄る中国勢の躍進

常夏の国でもあり“微笑みの国”としても知られるタイ。日本人にとっても人気が高く、コロナ禍前の2019年には約180万人がタイを訪れています。風光明媚な観光地が多いのと物価が割安で食べ物が美味しいというのが主な理由ですが、日本との関係でタイはもう一つの重要な側面があります。それが自動車です。

↑バンコク国際モーターショー2023のオープニングセレモニー。出展した代表者が壇上に勢揃いして盛大に開催されました

 

タイは“東南アジアのデトロイト”と呼ばれる東南アジア随一の自動車生産国で、中でも日本車は全体の9割近いシェアを獲得している“日本車王国”。それだけに日本の自動車メーカーはそろって工場をタイ国内に構え、そこを基点にASEAN各国にも輸出しています。つまり、タイは日本の自動車産業にとってもっとも重要な国のひとつとなっているのです。

 

モーターショーは160万人が訪れるビッグイベント

そんなタイの首都バンコクで「第44回バンコク国際モーターショー」が3月22日から4月2日まで開催されました。このショーは毎年3月に開催されているタイ国内最大のモーターショーで、前回2022年の開催ではコロナ禍にもかかわらず160万人が会場を訪れたというビッグイベントです。

↑会場はバンコク郊外の「インパクト アリーナ」。2022年は2週間近くの会期中に約160万人が会場を訪れました

 

このショーで見逃せないのは、ショー自体が販売目的で開催されているということです。そのため、各ブースには多くの販売員が配置され、裏に回ればそこには商談用のスペースが用意されています。各自動車メーカーはショー期間中だけの特別な低利キャンペーンなどを用意し、来場者も「どうせ買うのならこの機会に……」という気持ちで会場を訪れるのです。

↑各出展ブースの背後には商談スペースが準備され、軽食を取れるコーナーも用意されています

 

ショーの主催者によれば、会期中に販売される台数は昨年で約3万5000台にものぼり、今年はその15~20%増程度を販売したいと意気込んでいました。このあたりが、基本的に見せるだけの日本や欧米などのモーターショーとは大きく違うところなのです。

 

そして、出展メーカーの数にも注目です。まずシェアが高い日本のメーカーはトヨタやいすゞ、ホンダ、三菱、日産、マツダ、スズキ、スバル(2022年販売台数順)が出展。欧米系からはメルセデス・ベンツ、BMW、ミニ、アウディ、フォードのほか、プジョーやボルボ、アストンマーティン、ロールス・ロイス、マセラティなどそうそうたるブランドが勢揃いしています。そこに韓国のヒョンデ、キア、中国のMG、BYD、NETAが加わり、日本のモーターショーでは考えられないほどの賑わいを見せているのです。なお、ダイハツはタイ国内で販売しておらず、出展していません。

↑BMWが創立50周年を記念して開発された『XM』。V型8気筒エンジンと電気モーターの組み合わせが生み出すPHEVで、総合出力は653PSを発揮します

 

↑ヒョンデが東南アジア市場向けに開発した7人乗りミニバン『スターゲイザー』。タイでは初披露となりました

 

ここで多くの日本人が「?」と思うのがいすゞの存在かもしれません。日本では大型バスやトラックだけとなっていて、一般ユーザーには縁がないメーカーだからです。実はタイ国内でいすゞは、需要が高いピックアップトラックやSUVを手掛けていて、その売上げ規模が極めて大きいのです。それも半端じゃない数を販売していて、そのシェアはトヨタに次ぐ第2位というから驚きですよね。

↑タイ市場でいすゞのシェア拡大の立役者となっているピックアップトラック『D-MAX』。ほかにSUV『MU-X』もラインアップします

 

↑三菱がピックアップ市場での拡販を目指し、トライトンの後継モデルとして発表した『XRTコンセプト』

 

急速に勢いを増している中国勢。その中心にはBEVが

そうした中で、急速に勢いを増しているのが中国勢です。特に勢いがあるのがMGとBYD、グレート・ウォール・モーター(GWM)の3社で、いずれもタイ国内でトップシェアを持つトヨタに迫る広いスペースを使って出展していました。

 

MGは元々イギリスのスポーツカーメーカーとして知られていましたが、現在は中国の上海汽車グループの傘下にあり、東南アジアやオセアニア市場で展開して人気を集めています。一方のBYDは中国・深センでバッテリーメーカーとして創業しましたが、いまではその技術を活かした大型バスや乗用車を生産しており、タイだけでなく欧州や日本でもその存在が知られるようになっています。GWMは中国・長城汽車の英語名で、タイでは「Haval」「ORA」「TANK」の3つのブランドを展開します。

 

この3社がそろってタイ市場に向けて出展したのが電気自動車(BEV)やHEVの新型車です。実はこれまで中国市場を重視して販売体制を整えてきましたが、2023年1月1日より中国政府からの補助金が打ち切られ、それに伴って中国国内でのBEVの販売が急減。3社ともその落ち込みを補おうと海外進出を急速に広げているのです。しかもタイではBEVに対して10万バーツの補助金が支給され、それによって販売価格の実質引き下げに貢献することになりました。こうした背景が対市場への参入につながったと見ていいでしょう。

 

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一方で日本車はこの中国勢の電動化の動きにどう対応したのでしょうか。

 

BEVで目立ったのは、トヨタが8代目ハイラックスをベースとして開発したピックアップトラック『ハイラックス・レボBEVコンセプト』を出展したぐらいでした。これは2022年12月にトヨタがタイ進出60周年を記念して発表されたもので、2020年代半ばの発売を予定しています。これ以外はハイブリッド車(HEV)が中心で、トヨタはHEVとして5代目『プリウス』や『JPNタクシー』のタイ仕様を用意し、ホンダもHEVとした『CR-V』の新型を出展した程度です。電動化への動きでは明らかに中国勢に押されっぱなしという感じでした。

 

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しかも、タイ政府は“ASEANのEVハブ”を目指して、2030年までに直流タイプ(DC型)のEV急速充電器を全国で1万3000基以上、同タイプの充電器を備えたEV急速充電ステーションを約1400か所まで整備することを目標としているのです。これはBEVで市場拡大を目指す中国勢にとっては追い風になっているとの見方が出ても不思議ではありません。

 

BEV需要は補助金次第。航続距離が長いHEVへの関心も高い

ただ、ショー関係者にこのあたりを取材すると「BEVが順調に伸びていくのにはハードルが高い」と話します。というのも、タイ国内での充電インフラが不足しているのは間違いなく、「休日に郊外に出掛けて3時間の充電待ちが発生することもよく聞く話」だからです。たとえ、政府が充電設備を増やすとは言っても、それで十分と言えないのは日本の例を見ても明らかというわけです。

 

また、「BEVは近所を走行する2台目需要の領域を出ておらず、それを買えるのは戸建てを持つ富裕層のみ。来年の補助金政策が変われば、それによって需要は大きく変化する」とも話します。むしろ「バンコクなど都市部では環境に対する意識が高い人にとっては、航続距離が長いHEVの方が使いやすい」と考える人が多いというのです。

 

実際、2022年のBEV販売台数は1万5000台ほどで、2021年の2000台から急増しました。しかし、それでも総販売数の1.7%程度にとどまります。これで補助金が打ち切りとなれば、販売台数に影響をもたらすのは間違いないでしょう。とはいえ、中国勢の勢いはかつてない力強さを感じさせます。そうした状況にどこまで日本勢が対抗できるか。まさに2023年はタイにおける日本勢にとって正念場を迎えることになるのは間違いないでしょう。

↑バンコク国際モーターショー名物ともなっているコンパニオン。写真はいすゞ

 

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