『ロード』の大ヒットで知られるバンドTHE虎舞竜のボーカリスト・高橋ジョージさんはフルチューンのカスタムハーレーを駆る大のバイク好きだ。そのこだわりのカスタムポイントや、ミュージシャンならではの“フェチ”、自由を楽しむライフスタイルについて伺った。
(撮影・構成・丸山剛史/執筆:背戸馬)
【高橋ジョージさんの1990年式ソフテイルの画像はコチラ】
楽器を取るか、バイクを取るか
――高橋さんが最初にバイクに乗られたのは何歳ごろですか?
高橋ジョージ(以下、高橋)「自分のバイクを持ったのは、今のハーレーが初めてなんですよ。オートバイの免許を取ったのは38歳なんです」
――意外です。高橋さんやTHE虎舞竜の雰囲気から察するに、以前からお乗りだったのかと。
高橋「バイクはずっと好きだったんですよ。俺が14歳の時に両親が離婚して、母親の実家に預けられたんですが、そこにいた従兄弟がカワサキのトレールボスに乗ってたんです。当時(1972年ごろ)はモーターサイクルの熱がすごくて、バイクがすごくポピュラーでした。田舎は宮城県栗原市ってところなんですけど、モトクロス場があって、全国大会もやってたんですよ」
――バイクが好きになりそうな環境だったんですね。
高橋「それに昔、田舎だとバイクっていうのは、耕運機とかトラクターとかその類だったんですよね。ま、ほとんどが原付きとか、ホンダのカブやCDといった荷物を運ぶようなバイクが多かったかな。とにかくバイクは身近にありました」
――以前は今よりももっとバイクは実用車として重宝されていましたもんね。
高橋「今で言えばもう幻のようなバイク、ホンダCB750Fourとか、カワサキ750RS(Z2)が出て、高校生になるとみんなそういうバイクを買って、交換して乗っては、スズキはこうだとか、カワサキはこうだとか品評をしてたすごくいい時代でした。いい意味ではそういうことだし、悪い意味で言ったら、もうそこは暴走族が盛んになってきた時代でもありましたけど」
――そのころ、高橋さんは免許を取られなかったのはどうして?
高橋「バイクって金がかかるじゃないですか。うちの親から『楽器を取るか、バイクを取るか』って言われたんです。両方は買えないわけですよ。ベースが欲しかったから、もう断腸の思いでバイクを諦めました」
――運命の選択があったんですね。
高橋「そうです。『ビートルズを追っかけるのか、イージーライダーになりたいのか』って時に、両方取りたいですけど、経済的に無理だと。当然バイク乗ってるやつは楽器やってなかったりしたから、バイクと楽器は両立できないなと思って諦めてたんですね」
グローブを買ったら火がついた
――38歳でバイクの免許を取ることになったきっかけは?
高橋「35歳で一応ヒット曲を出して、3年間ぐらいツアーで全国を回ってたんですね。38になって一息ついていた時に、バンドのベースから『ちょっと上野にバイクを見に行きませんか』と電話があって、まぁ行くだけならいいかと車で行ったんですよ。そしたら急に、ヘルメットとグローブを買っちゃったんです。なぜか、バイクもないのに。そのまま革ジャンを買って、ブーツも買って……と同じ日にバイク以外全部揃えてしまった。最後にバイク屋さんに電話してみたら『ハーレーのエボのいいやつが2台ある』と。行ってみたらちょっと悪そうなのがあったんで、じゃあ買いますと」
――1日で全部揃えてしまった。
高橋「そう。グローブ買った流れでバイクも買ってしまった。でも、そこまで勢いがついちゃったのは、ずっとバイクへの思いが圧縮されてたからですね、10代のころから。その圧縮されたものが一気に決壊したようなことかなと思います」
――バイクの免許は?
高橋「そこから取りに行くんですよ。すぐ教習所に中免(自動二輪免許中型限定)を取りに行って、10日くらいで取れるからあらかじめ鮫洲(運転免許試験場)に予約入れておいた。当時はまだ大型二輪はなく限定解除の一発試験でしたね」
――勢いがすごい!
高橋「バイクはずっと好きだから、自分はそこにギアを入れちゃうと絶対買っちゃうし、 買うとなれば100万以上するじゃないですか。その金額だといいギターが買えるんで、どっちを取るってなると…やっぱりね」
――バイクと楽器のせめぎ合いがずっとあったんですね。
高橋「そうです」
――ひとつ確認なのですが、日本テレビの深夜のオーディション番組に、ハーレーを持ち込んでステージを作って『ロード』を歌われた。その番組を録画したテープを大阪有線放送に持っていって売り込んだ結果、大ヒットへとつながるきっかけになった、と聞きました。
高橋「そうそう」
――ある意味、ハーレーが『ロード』がヒットしたきっかけにもなったわけですが、その時のハーレーというのは?
高橋「当時は乗ってないですから。後輩とか友達はいっぱい乗ってるんで、仲間のバイクですね」
――そうでしたか。でも、やはり高橋さんはハーレーなんですね。先ほどう伺ったように、CBやZという国産のバイクのいい時代も見てこられた中で、ご自分が乗るオートバイにはハーレーというこだわりがあると。
高橋「日本のバイクの良さはよくわかってました。トレールボスに乗っていた従兄弟がそのあとCB750K4に乗っていましたけど、すっごくいいバイクだった。Z2も大好きだし、あの時代のバイクはほとんど好きかな。その後から、国産車のフォルムがあまり好きじゃなくなってね。ちょっとレーシーになっちゃって、フルフェイスで乗るバイクって、自分とはちょっと違うなと感じてました」
ハーレーは「音」が好き
――高橋さんのハーレー好きの原点は映画『イージー・ライダー』ですか?
高橋「うーん、あの映画ってバイクが出てるけど、走ってるシーンは何分かだけなんですよね。ストーリーも淡々と時が過ぎるような感じ。ただ、バッキングの音楽がかっこいいから、バイクを見るために映画を観たのに、音楽のほうに行っちゃったんですよね」
――たしかに、『イージー・ライダー』はサウンドトラックも大きな魅力です。
高橋「そう、映画の中のステッペンウルフ、ジミ・ヘンドリックスとかのロックにやられましたね。オートバイはフォルムも大事なんだけど、やっぱり音なんですよね。さっき言った国産車とハーレーの違いは音ですよ。すっごいかっこいいフォルムの国産車ってあるけど、サウンドに関してはいわゆるハーレーの3拍子というか、あの音が好きでした。人間の9割ぐらいが視覚重視で、音重視って少数派ですけど、その少ないとこにほぼウエイトかけて俺は生きてますから」
――ミュージシャンならではのこだわりということでしょうか。
高橋「ミュージシャンっていうカテゴリーを置いといて、言うのはこっ恥ずかしいけど、“音フェチ”っていうか“音マニア”なんです。例えば、人でいうと顔はどうでもいいけど声に惹かれるっていうのはありますよ」
――高橋さんは音フェチで音マニアですか?
高橋「そうそう。街でもどこでも、ハーレーのスロットルをひねったときの “ダブダブダブ!”という音の響きが好きなんですよ。だから、夏に海沿いを走るのが気持ちいいってのもよく分かるんですけど、俺は季節は冬が好きなんですよね」
――冬ですか、それはどうしてでしょう?
高橋「冬は湿気が少なくて空気が乾いてる。湿気が少ないということは音が響くんですよ。圧倒的に違いますね」
――ちなみに一番音がいい回転数とかってあるんですか。
高橋「何回転だろうって気にしないんでタコメーターは見ないんですよ。だいたい気持ちいいのは、セカンドからサードですね。4、5速はほぼ同じですよ」
――2速3速の回転が伸びるところが気持ちいいっていうのはよくわかります。
高橋「そうそう。俺はできるだけ一人で走るのが好きだから、複数でも3人ぐらいが限度ですね。それ以上だとうるさいって感じます。“爆音がいい音だ”って勘違いしてる人もいるけど、それは違う。いい音は小さくてもいい音だし、うるさい音は小さくてもうるさいんですよ」
――いい音は音量じゃないと。
高橋「いい音は気持ちいいんです。心地よさを超えたらダメなんですよ」
――先ほどハーレーを撮影させてもらったときに、マフラーが特徴的だなと思いました。
高橋「サンダンスのマフラーなんですけど、普通マフラーって右から出てるじゃないですか。俺のは左に出てて、ちょっと上につけてんるんです。音が近いんですよ」
――あ、なるほど。
高橋「アップタイプにしてもいいんだけど、今のマフラーのスタイルと音がいいですね。いずれにしてもタンデムできないですよ、熱くて(笑)」
ハーレーのカスタムポイント
――マフラーのお話が出たので高橋さんのハーレーのカスタムポイントを伺いたいと思います。バイクは1990年式のソフテイルです。全体にコンセプチュアルな仕上がりになってますね。カスタムはサンダンスですか?
高橋「そうです。これは“The Masamune”っていう、武士っぽい感じのイメージでカスタムしてもらいました。これが一番のコンセプトです。このスタイルになったのは2013年かな」
――サンダンスのカスタムハーレーでこういったスタイルのものもあるんですね。
高橋「ちょっとダサい話なんですけど、カスタムする時に、前のカミさんと2台で依頼したんです。あっちが侍みたいなコンセプトだから、俺は伊達政宗の甲冑をイメージしたんです。サンダンスのザック(以下柴崎代表)と何回も打ち合わせして、彼もアーティストだから、イメージだけ伝えてやってもらいました」
――ということはヘッドライトバザーの三日月型のオーナメントは?
高橋「伊達政宗の兜のイメージです。鋭利で危ないので、アクシデントがあったら外れるような仕様になってます」
――外装もさることながら、エンジンと給排気の存在感がすごいです!
高橋「エンジンは腰下がエボで、腰上がスーパーXRになってます。キャブはFCRですね」
――スーパーXRはサンダンスがリリースしているスポーツスターカスタムですね。この後方吸気のFCRツイン仕様は迫力ありますね。
高橋「あとは、適度な長さにアレンジしたスプリンガーフォーク。スーパーXRに近づけたかったんで、長すぎるとちょっと違うかなと。それなら倒立フォークのほうがいいのかなと思ったんだけど、あんまりそっちに攻めるのは良くないなといろいろ考えて。あまりスプリンガーっぽくないでしょ?」
――確かに。とにかくサンダンスらしく手を入れていない部分がないフルカスタムですね。
高橋「初めは、ロングフォークを付けてもらおうとサンダンスに行ったのがザックとの出会いです。あれからもう23、4年になるかな。理屈をちゃんと説明してくれたうえで『ロングにするならこれくらいじゃないと。長すぎるとねじれて危険だ』と。そんなハーレー屋に会ったことがなかったし、言ってることと結果がちゃんと合致しているから信用できますよ」
――プロに依頼するなら大事な点ですね。
高橋「サンダンスはハーレーのみだから、そこに特化してるとこが素敵だね。たとえスズキのバイクを持ってっても直せるんだけど、『それはうちではやりません』ってはっきり言うところがね、わかってるんだよね」
自由なライフスタイルを謳歌
高橋「そういえば最近、ハンドルだけ変えました。なんか突然、もうちょっと目の高さに来るハンドルで乗りたかったなと思って、俺が好きなのはアップだなと。ちょうどサンダンスにジャパンエイプっていう、日本人に合う、グリップ位置が上すぎないハンドルがあったんで。気に入ってますけど、バイク仲間からは“バイクの形が崩れる”ってすごい反対されましたね。まぁ別に違うなって思うなら戻せばいいんだし」
――そこは軽い感じで。
高橋「だんだん熟年になってくると、もともと何が好きだったかに戻るんですよ。原点回帰というか。簡単にいえば好きなことやる時間にしたいんだよね、残りの人生は……って、残りってだいぶあると思うけど、うまくいけば」
――好きなことをやる時間ですか、なるほど。これやってみたかった、ということをやり遂げたいのはわかる気がします。
高橋「音楽だって、俺にとっては仕事でもあるけど、最近は趣味性が強いね。だから俺ほど幸せな男はいないなと。芸能的に考えたら、『一人で寂しい人でしょう』って。いやいや、自由度100%ですよ。言うなれば、何時に起きて何時に寝るのか、誰も知ったこっちゃないし、今日はずっとこの曲のここのアレンジだけやることもできる。だから、気づいたのは、好きなことを毎日やってる俺ほど幸せな奴っていないなとよく言ってます」
――羨ましいとしか思わないですよ。
高橋「昨日もさ、30年くらい前に買ったウェスコのブーツがあったなと思い出して、見たらカチカチになってたから夜中にミンクオイルを塗って馴染ませたりしてるのが楽しいわけ。明日バイクの取材だとかウキウキしながら」
――ある意味すごく贅沢な時間ですね。
高橋「このBUCOのヘルメットは娘が使ってたんだけど、57センチ・サイズで、61ある俺からしたら小さいのね。それでインナーをペーパーがけしてサイズ調整をして“よし、入る入る”と。これはシェルが小さくていいやと。そういうの楽しいじゃないですか。こういうことに1日好き勝手使えるわけですよ」
――自分の好きなことに使える時間ってなかなか手に入らないですからね。
高橋「でしょう。俺も65だから気づいてる、もう時間ないよと。負けおしみに聞こえるかもしれないけど、俺がたとえば東京ドームをいっぱいにするアーティストだったらそれを続けなきゃいけないじゃん。うん、そしたら、バイクなんか乗ってる時間ねえよってなる。金持ちでもなんでもないけど、富豪って俺のことを言うんじゃないかって思うときがありますよ。時間が自由で、好きなバイク乗って、好きな音楽やって……と、自分で食事作って食って、好きな時間に寝て、起きてって、それ繰り返してるの最高じゃんとか思うよね」
――そこにバイクがあるってのはいいですね!
高橋「大事なことはオリジナリティですね。個性ってみんなたぶん死ぬまでのテーマだと思う。そのためには俯瞰が大事で、俯瞰ができる人はオリジナリティ
バイクはバイク、と考える
――趣味を楽しまれてる生なん?ですけど、高橋さんにとってバイクとは?
高橋「哲学的に聞かれると、“バイクはバイク”だよね。“バイク・イズ・バイク”というか、ハーレーにはハーレー、カワサキにはカワサキの個性やオリジナリティがそれぞれあるんだから、『君のバイクいいじゃん』『君こそいいじゃん』と認め合おうよって。みんな好きなバイクに乗ってるんだから。“俺のバイクのほうがいいと思う”っていうような押しつけは、歯を出して“俺のインプラントのほうがいい”って言ってるのと同じじゃん(笑)。自分に合ってると思ったら、それを楽しそうに乗ってればいいんだよね」
――バイクはバイクとして、優劣つけるものじゃないと。その考えは大事ですね。
高橋「うん。あと1個言えるのはね、どんなにバーチャルリアリティが進化しても“乗る”っていう感覚は無理。VR機器で走ってる感覚の絵が流れて、風が来て、音が流れてもそれはフェイク。本当に乗らないと、本当の音は感じない。音楽って今、そういうとこに入ってるんですよ。デジタルで、シミュレーターでアンプを鳴らすとか。若い子たちはノイズの入らない、倍音のない世界を聞いてるから、20代の人が俺のスタジオに来てレコードを聞いた時に『なにこれ?』ってぶっ飛んでましたよ。普段、倍音を聞いてないんです。ハーレーも倍音がある。それが遮断されたデジタルの世界ってのは、シミュレートってすごいけど、仮装空間はあくまで仮想空間じゃんって思います」
――バイクは風も音も匂いも景色も全部体感できる乗り物ですからね。さすがにVRでは体験できない世界観だと思います。
高橋「バイクを下に見てるやつは、いくらバイクっていいよ言っても無理じゃないですか。ハーレーが嫌いっていう奴もいますよ、友達でも。嫌いなもんはしょがないよね。寿司でヒカリもん食えないのと一緒だから(笑)」
――バイクをインプラントや光り物で例える方は初めてです(笑)。
高橋「うん。バイクはバイク。それ以上でも以下でもない。乗るならばそれぞれが一番気に入ってるのに乗って、お互い認めあえばいいんですよ」