マツダは近年、日本の美意識を広く世界に発信する、という思想から他業種とのコラボにも積極的です。現在同社は、新潟県で無形文化財 鎚起銅器を造っている玉川堂とコラボ中。両社のコラボは、実際に「魂銅器」という作品の形で、今年のミラノ・サローネ国際家具見本市で初公開されました。
GetNaviではマツダと玉川堂の様々なコラボを、玉川堂の本社で取材する機会を得ました。本記事では数回に分けて、両社に相通じる点と相反する点を紹介していきたいと思います。まずは、マツダのアドバンスデザインスタジオ部長・中牟田 泰氏と玉川堂 代表取締役 7代目・玉川基行氏との対談のダイジェストから両社の思想を掘り下げていきましょう。
両社の接点は作り手の想いと凝縮のダイナミズム
中牟田「我々の『魂動デザイン』が目指すのは、生物の表情や生命感をクルマに宿すこと。しかも、その過程で人の手にしか生み出せない美しさにこだわっています。日本では人が想いを込めて作ったものには心が宿ると言われてきましたが、鎚起銅器と我々のデザインにはそうした日本的な美意識で通じる点があると考えています。また、動きを表現する魂動デザインは無駄を排除しますが、銅板を叩いて縮めて作る鎚起銅器とは『凝縮のダイナミズム』という部分でも通じるものがあるでしょう」
――同じ道具でも伝統工芸と、常に時代に即した変化が求められるクルマでは、根本的に異なるようにも思われますが……。
玉川「そうですね、時代に即した変化を求める点で、伝統工芸はクルマと同じだと考えています。技術や製法を守るだけでは、単なる“伝承”にすぎません。“伝統”とは伝承だけでなく時代に合った革新の連続です。我々の近年の革新は、作るだけでなく流通面までを“モノ作り”と考えたこと。従来の販路だけでなく、様々な販路を開拓し進化してきました」
中牟田「進化が必須、という点ではクルマのデザインも同じです。魂動デザインはようやく第一世代が揃ったという段階でゴールではありません。生命感を与えるという目標は変わりませんが、美しさの表現は今後も時代に即して進化していくはずです」
クルマと伝統工芸――一見すると共通点のない両者に、実は多くの共通点があることがおわかりいただけたでしょうか。そして、この「美しさを貪欲に吸収する姿勢」にこそ、近年のマツダのデザインの躍進が隠されています。
次回の記事では、実際に「魂銅器」を作った玉川堂の職人にインタビュー。その内容は「デザイナーはアーティストであれ」を掲げるマツダとは一線を画するものであり、「アーティスト」と「職人」の違いを考えさせられるものになりました。