いまや日産の主力ミニバンとなったセレナが、6代目としてフルモデルチェンジしたのが2022年の暮れ。先代に続いてガソリン車とe-POWER車の2本立てを基本としていますが、23年4月、人気の8人乗りをe-POWER車にもラインナップ。さらに最上級の「e-POWER LUXION(ルキシオン)」を追加するなど、選択肢の幅は大きく広がりました。
今回の試乗ではその中から一番の売れ筋となっている「e-POWER ハイウェイスターV」を選択し、その実力に迫ってみたいと思います。
■今回紹介するクルマ
日産/セレナ
※試乗グレード:e-POWER ハイウェイスターV
価格:276万8700円〜479万8200円(税込)
「e-POWER」車比率がアップ。秘密は8人乗りの実現にあった
日産が発表した内容によれば、新型セレナの受注台数は2023年6月26日の時点で5万4000台に達し、なかでも8人乗りのe-POWER車は全体の約6割を占めるまでになったそうです。このまま行けば「年間10万台の達成も狙えるペース」と、期待通りの売れ行きに手応えを感じている様子。では、その人気のポイントはどこにあるのでしょうか。
セレナといえば、2005年の3代目が登場した際に、左右分割式セカンドシートを「スマートマルチセンターシート」としたことで話題を呼びました。これは2列目を用途に応じてキャプテンシートにも、8人乗車ができるベンチシートにもなる使いやすいもの。以来、セレナならではの人気装備となってきました。
ところが、5代目に追加されたe-POWER車ではバッテリーを追加搭載した関係上、セカンドシートをキャプテンシートとした7人乗りに変更となってしまいました。販売店の話ではこれが影響して、泣く泣くe-POWER車をあきらめてガソリン車を選んだ人も多かったそうです。
そうした事情を反映して6代目ではガソリン車よりスライド量が少ないとはいえ、スマートマルチセンターシートをe-POWER車にも採用。一転、全体の6割がe-POWER車を選ぶようになったのもこの対応が功を奏したとみて間違いないでしょう。
しかも、単に8人乗りとしただけでなく、セカンドシートにはさまざまな工夫を施しているのです。たとえば、センターのバックレストを倒せば収納庫付きのアームレストになり、必要に応じてセンター部だけを前方へ移動することも可能。さらにシートスライドは前後だけでなく左右にも動かせるので、サードシートへの移動も使い方に応じた設定ができます。
加えて、セカンドシートでは前席の背後に備えられた折りたたみ式テーブルが用意され、左右には充電用USB端子も装備。シートバックポケットが左右に備えられているのも何かと重宝しそうです。
たっぷりとしたシート厚で乗り心地も上々のサードシート
サードシートは広々とした印象はないものの、大人が座ってもそれほど窮屈な印象はありません。シート厚もたっぷりとしており、少し遠乗りした際に家族に座ってもらいましたが乗り心地で特に不満は感じなかったそうです。むしろサードシートにもスライドドアのスイッチやUSB Type-Cが装備されていることに便利さを感じている様子でした。
惜しいと感じたのは、サードシートをたたんだときに左右に跳ね上げるタイプとなっているうえに、シート厚がたっぷりとしていることが災いして、左右の幅が狭くなってしまったことです。シートの固定方法もベルトを使う古くさい方法。ここにはもう少し工夫が欲しかったと思いました。
一方で荷物の出し入れでいうと、上半分だけが開閉できるデュアルバックドアは、特に狭い場所での開閉がラクで使いやすさを感じます。荷物の落下防止に役立つことも見逃せないでしょう。
運転席に座ると視界の広さを実感でき、周囲の状況はさらに把握しやすくなっています。座ったときの収まり間も良好なうえ、センターディスプレイにぐるりと囲まれるようなインテリアもデザインと機能性を兼ね備えた使いやすさを感じさせます。一方、賛否が分かれたスイッチタイプの電動シフトは、違和感を覚えたのは最初だけ。慣れてしまえば使いやすく、むしろ操作ミスを減らすのではないかと思ったほどです。
排気量が1.4Lにアップ。スムーズな走りはまさに電動車そのもの
さて、6代目となったセレナに搭載のe-POWERは、エンジンの排気量が従来の1.2Lから1.4Lへと拡大されています。従来のe-POWER搭載車でも特に力不足を感じたことはありませんでしたが、発電効率を高めることで、もともと重いミニバンで定員乗車したときなどでも余裕ある走りにつなげているのがポイントです。
実際、走り出してすぐに感じるのが、先代よりも明らかに静かさと滑らかさが増していることです。アクセルへの応答性も向上して、エンジンがかかる比率もかなり少なくなったこともあり、リニアな加速はもはや電動車そのもの。それがとても気持ちいいのです。モーターによる恩恵は明らかに大きいといえます。
しかもエンジンがかかってもそのときの振動はほとんど伝わってこない見事さ。これらはエンジンを収めるケース類の剛性アップとバランスシャフトの採用など、音・振動面のリファインを徹底的に施した効果が発揮されたものです。排気量拡大にともなってエンジンもパワーアップ。発電効率向上にも寄与しており、走りの快適度は確実に向上したといえるでしょう。
足回りの剛性の高さも6代目の良いポイントです。5代目の柔らかめのサスとは違い、コシのあるしっかりとしたサスペンションは、段差を乗り越えたときの収束性もよく、荒れた路面での乗り心地は同乗した家族からも好評。個人的には見事なカーブでの踏ん張りが印象的で、峠道でもミニバンとは思えない粘りを見せてくれたのが好印象でした。
ただ、高速走行時に大きめの段差で受けると、ボディ全体がやや微振動として残る傾向があります。実は6代目はモデルチェンジしたとはいえ、プラットフォームまでは刷新しておらず、そのあたりの設計の古さが災いしているのかもしれません。とはいえ、一番多く利用する一般道での違和感はほとんどなし。その意味での進化は確実に遂げているとみて間違いないでしょう。
実用上で使いやすい「プロパイロット」。ライン装着ドライブレコーダーも
最後にプロパイロットの使い勝手に触れておきます。最上位のルキシオンには、高速でのハンズオフ走行が可能になる「プロパイロット2.0」が装備されましたが、ハイウェイスターVには単眼カメラとミリ波レーダーを組み合わせた、オーソドックスなACCを採用するプロパイロットが装備されます。
それでも先行車への追従性は極めて良好で、速度ムラもほとんど感じさせないため、追従走行でストレスを感じることはありませんでした。ただ、レーンキープはテンションが強めにかかるため、これが気になる人はいるかもしれません。
また、6代目では新たにドライブレコーダーがライン装着で選択できるようになりました。前後に2台のカメラが装備され、配線が一切露出しないうえに表示をインフォテイメントシステムのディスプレイ上で展開できます。これはまさにライン装着ならではのメリットです。販売店に聞くと装着率はかなり高いそうで、今後はドライブレコーダーの標準化も当たり前になっていくのかもしれません。
SPEC【e-POWER ハイウェイスターV】●全長×全幅×全高:4765×1715×1885mm●車両重量:1810kg●パワーユニット:直列3気筒DOHC+交流同期電動機●エンジン最高出力:98PS/5600rpm●エンジン最大トルク:123Nm/5600rpm●モーター最高出力:163PS●モーター最大トルク:315Nm●WLTCモード燃費:19.3km/L
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撮影/松川 忍