ブリヂストンは、ソーラーカーの最新技術と未来を語るイベント「Bridgestone Solar Car Summit 2023」(以下、ソーラーカーサミット)を開催しました。
このイベントには、同社のモータースポーツ部門長・堀尾直孝さんのほか、ソーラーカーについての研究を行う東海大学の木村英樹教授らが登壇。最もサステナブルなEVであるソーラーカーの近年の動向、世界最高峰のソーラーカーレースについて、トークを展開しました。この記事では、その模様をお届けします。
ソーラーカーレースのための“究極のカスタマイズタイヤ”
ブリヂストンは世界最高峰のソーラーカーレース「Bridgestone World Solar Challenge」(以下、BWSC)のタイトルスポンサーを務めており、サステナブルなモータースポーツを推進するなかで、技術の極限への挑戦を通じ、ソーラーカーの技術革新を後押ししています。
BWSCは、20以上の国と地域から40以上のチームが参加するソーラーカーレース。オーストラリアの北部ダーウィンから南部のアデレードまで、約3000kmにもなる道程を太陽光によって生み出された電力のみによって走破する、長く過酷なレースです。
堀尾さんはBWSCについて「各国の多様なエンジニアによる産学共創の場、次世代のソーラーカーを作るためのオープンプラットフォーム」だと語ります。2023年10月に開催されるBWSCでは、日本から、東海大学、工学院大学、和歌山大学、呉港高校の4チームが参加予定。ブリヂストンは参加43チーム中、35チームにタイヤを提供予定です。
ブリヂストンが提供するタイヤは、ソーラーカーに特化したものになっています。設計を担当した同社の木林由和さんによると「限られた電力で長距離を走り切るための転がり抵抗の軽減や軽量化と、耐パンク性能をはじめとする耐久性を両立した、究極のカスタマイズを施している」とのこと。
このカスタマイズは、同社の誇る商品設計基盤技術「ENLITEN」により成立しました。またこのタイヤは、環境負荷の軽減にもこだわっており、再生資源・再生可能資源比率が前回大会の30%から63%に増大しています。
原付バイク以下の馬力で90km/hを実現
堀尾さんに続いてプレゼンテーションに登壇したのが、東海大学教授の木村英樹さんです。木村さんは、BWSCに出場する東海大学のチームの監督も務めています。木村さんは、ソーラーカーが従来からどれほどの進化を遂げているかについて語りました。
ソーラーカーの進化は、太陽光パネル、モーター・インバーター、バッテリー、タイヤといった各種パーツの性能向上に加え、ボディの軽量化や空気抵抗の低減、それらを可能にするコンピューターシミュレーション技術の向上といった、多様な要因によって成り立っています。これらの複合的な進化の結果、近年のBWSCで走行するソーラーカーは、小型化と高速化、信頼性の向上を同時に実現したものになりました。
木村さんによると、ソーラーカーの走行速度は、かつては50〜60km/h程度だったそうですが、現在では90km/hにまで上昇。しかも搭載する太陽光パネルの面積を、従来の半分に減らしたうえでの速度向上だといいます。今回、東海大学が2023年のBWSCのために設計したソーラーカーの馬力は原付バイク以下でありながら、この速度を実現します。小さな力で高速を生み出すこの車は、数多の最先端技術の結晶なのです。
限界に挑むことで見える世界がある
ソーラーカーのボディに用いられる、炭素繊維強化プラスチック素材を開発する、東レ・カーボンマジックの奥 明栄さんもプレゼンテーションを行いました。同社は炭素繊維の分野で世界のトップランナーである東レグループのなかにあって、炭素繊維の用途拡大を目的とする技術開発を担っています。
奥さんは「競争によって生まれるテクノロジーや、世界一を目指すことで生まれるアイデア、限界に挑むことで見える世界がある」と語ります。その考えをもとに、東レカーボンマジックは、東京都大田区の町工場から五輪を目指す「下町ボブスレー」、トラックバイク、スポーツ用の義足、車いすマラソンのホイールなどに素材を提供してきました。
極限の環境で繰り広げられる世界最高峰のソーラーカーレース・BWSCも同様です。同社にとってBWSCは、新技術、高性能化のための手段を実践で試せる「走る実験室」となっています。「BWSCは、学生はもとより、若きエンジニアたちが創造力、判断力、実行力、協調性を身につける場」だと、奥さんは言います。
東レ・カーボンマジックにも、学生としてBWSCを経験してから入社した社員がいるといい、彼らは入社時から即戦力として活躍しているそうです。
メーカー、科学者、エンジニアから見た、BWSCという大会の意義
プレゼンテーション後には、堀尾さん、木村さん、奥さんに、工学院大学教授の濱根洋人さんを加えた、4名によるクロストークセッションが行われました。そこで各者が強調したのが、BWSCという大会の意義です。
「ブリヂストンがモータースポーツの活動を始めて、60年になります。ブリヂストンとしては、モータースポーツ文化を関連企業とともに支えていくこと、サステナブルなモータースポーツを強化していくことをコンセプトにしていますが、BWSCはこれに合致したものだと思っています」(堀尾さん)
「BWSCは、競争であり共創の場です。スタート前はピリピリした雰囲気がありますが、走りきってみると皆笑顔で、各チームによる情報交換が活発に行われています」(木村さん)
「BWSCは、“極めて”という表現がぴったりなモータースポーツだと思っています。最先端の素材を、F1より先に実践で使えるんですから」(濱根さん)
「色々な技術を持ち寄って、世界一を競うという体験を学生のうちにできるのは、非日常的で、かけがえのないものだと思います。BWSCは、エンジニアとしての可能性を広げ、様々な力を身につける機会になります」(奥さん)
ブリヂストンは2020年を「第三の創業」とし、Bridgestone 3.0の初年度と位置付けました。サステナビリティを経営の中核に据え、2050年には「サステイナブルなソリューションカンパニー」を目指しています。 BWSCはブリヂストンにとって単なる大会スポンサーという立場ではなく、今後の未来を占う活動のひとつといえるでしょう。
世界の最先端が詰まったBWSCは、2023年10月21日〜29日にかけて開催予定。そこで生まれた出会いが、未来のイノベーションを生むかもしれません。