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2016/12/6 20:30

東武鉄道の新しいSL列車「大樹」を徹底解説! 復活の背景は? 使用車両は? 車掌車って何?

12月1日、東武鉄道の南栗橋車両管区で、同社が2017年の夏から運行を予定しているSL列車の名称が発表されるとともに、SLヘッドマークのお披露目、SL運転(自走)シーンが報道陣に公開された。1966(昭和41)年に東武鉄道のSL運転が消滅しておよそ50年、半世紀の年月を経てSL運転が復活することになる。

 

すでに一報は多くのメディアで触れられているが、本稿では同社の車両に注目。JR各社から借り受けたり、車掌車を導入したりと、意欲的な取り組みが満載。車両を詳細に解説しながら、新しいSL列車の魅力を紐解いていこう。

↑南栗橋SL検修庫内で開かれた「列車名称発表会」。書道家・涼風花氏が「大樹」の字を描く
↑南栗橋SL検修庫内で開かれた「列車名称発表会」。書道家・涼風花氏が「大樹」の字を描く

 

まず、アウトラインに触れておこう。新しいSL列車の名前は「大樹(たいじゅ)」。「大樹」は、世界遺産の日光の社寺のひとつである日光東照宮に縁が深い「将軍」の別称といわれ、また東武沿線にそびえる東京スカイツリー®を思い起こさせる。東武鉄道では「沿線地域とともに力強く大きく育ってほしいとの思いを『大樹』という言葉に込めました」と語る。

 

SL列車の顔であるヘッドマークもユニークだ。描かれる「大樹」の文字は、書道家の涼 風花(りょうふうか)氏によるもので、背景には徳川の三葉葵紋のようにSLの動輪を配置した。「大樹」という名称はSL列車の名前として、かなり斬新。さらに、ヘッドマークにこうした書道家の書を使うというのは、おそらく初めてではないだろうか。

↑文字は書道家・涼風花氏が揮ごう、根津嘉澄東武鉄道社長と共にヘッドマークをお披露目した
↑文字は書道家・涼風花氏が揮ごう、根津嘉澄東武鉄道社長と共にヘッドマークをお披露目した

 

今後の計画は、2017年4月ごろから東武鬼怒川線で試運転が開始。夏には営業運転を開始となる予定だ。将来的には栃木県内だけでなく福島県の会津地方も走らせたいと東武鉄道では夢を描く。

 

【2017年夏からの運転予定】

(1)運転開始予定:2017年夏

(2)運転予定区間:東武鬼怒川線・下今市〜鬼怒川温泉間 12.4km

(3)所要時間:約35分/片道

(4)運転日数:土休日を中心に年間最大140日程度(1日3往復程度)を予定

(5)編成予定:SL+DL各1両、車掌車1両、客車3両を連結

(6)座席定員数:約200席

 

【車両を見る! その1】“カニ目”と呼ばれたC11形蒸気機関車207号機

東武鉄道では今回のプロジェクトへ向け、運行車両をJR旅客各社およびJR貨物から貸与、また譲渡を受けた。蒸気機関車はJR北海道から。客車はJR四国から、車掌車はJR貨物とJR西日本から、補助用のディーゼル機関車はJR東日本から(同DLのみ2016年12月譲渡の予定)という具合だ。

 

スタッフ育成に関しても、これまで蒸気機関車運行の経験があるJR北海道、秩父鉄道、大井川鐵道、真岡鐵道の協力を仰いだ。こうした、JRを含む複数の鉄道会社が大手私鉄のプロジェクトに絡むというのも、これまで例を見ない試みだ。競争だけでなく、お互いに連携を強めようという姿勢は日本の鉄道業界の新しい“道”を示しているように感じる。

 

運行の中心となるのはC11形蒸気機関車。この車両にまずは注目してみよう。

↑車掌車を連結、南栗橋車両管区内の路線を疾走するC11形蒸気機関車207号機
↑車掌車を連結、南栗橋車両管区内の路線を疾走するC11形蒸気機関車207号機

 

C11形207号機は、1941(昭和16)年12月26日、日立製作所笠戸工場で製造された。東北、その後は北海道の機関区に配置され、現役最後には国鉄瀬棚線(函館本線・国縫~瀬棚間、1987年に廃止)で貨物列車の牽引を行った機関車だ。

 

瀬棚線は濃霧に悩まされることが多かった路線で、この濃霧対策として207号機にはある改良が加えられた。前照灯が、左右の除煙板のステー(鉄板)上に計2基が取り付けられたのである。通常のボイラー上に前照灯が1個つくC11形とは異なり、この車両独自のスタイルに変身。鉄道ファンからは“カニ目”と呼ばれ、親しまれた。

↑SL函館大沼号として走るC11形207号機。カニ目と呼ばれる独特の風貌が特徴となっている
↑SL函館大沼号として走るC11形207号機。“カニ目”と呼ばれる独特の風貌が特徴だ

 

1974(昭和49)年10月に廃車。長らく道内・静内町(現・新ひだか町)の公園に静態保存されていたが、2000(平成12)年にJR北海道の手により、修復が行われた。そして、「SLニセコ号」や「SL函館大沼号」を牽引。北海道内でC11形171号機という“両雄”とともに走り続けてきたが、今回は207号機のみ東武鉄道へ貸与されることとなった。それから、札幌市の苗穂工場で整備されたうえで南栗橋へとやってきた。

 

【車両を見る! その2】非常に貴重な車掌車にも注目したい

今回、東武鉄道へは「車掌車」もやってきた。車掌車は古くは貨物列車の最後尾に連結され、車掌を乗せ走ったが、国鉄合理化により車掌の乗務はなくなり、多くの車掌車が廃車となった。いまは主に「甲種輸送」と呼ばれる鉄道車両などの輸送や、トランスなどの大型機器を運ぶ大物車輸送などに連結されている。

 

発表会で報道陣にお披露目されたのはヨ8709号車とヨ13785号車の2両。このうち、ヨ8709号車にはATS機器などの安全装置が積まれ(C11形の改造が難しいため)、SL大樹では重要な役割を担うことになっている。

 

気になるのはヨ13785号車。形式はヨ5000形で、高速貨物列車用に1000両以上が大量に造られ活躍した。このヨ5000形、現在は各地の公園などに保存車両は残るが、実際に走ることができる車両は非常に希少だ。今後、どのように活用されるのか気になるところ。

↑車掌車のヨ8709号車(写真左)とヨ13785号車を連結して南栗橋車両管区内を走る
↑車掌車のヨ8709号車(写真左)とヨ13785号車を連結して南栗橋車両管区内を走る

 

【車両を見る! その3】そして14系座席車……!

「SL大樹」の客車として使われるのが14系客車と12系客車。14系は国鉄が特急列車での使用を目的に造った客車で、寝台車と座席車がある。寝台車は特急「富士」「はやぶさ」などのブルートレインに使われていた。また座席車は同時代に生まれ、主に臨時特急などに使われた。2016年3月の急行「はまなす」の運行終了を最後にJRの路線から引退した客車だ。こうした“栄光”の車両が、再び東武鉄道で復活する。

 

この14系ともにJR四国からやってきた12系客車。その12系客車の中でも希少なグリーン車「オロ12形」ということもあり、どのような姿でお披露目されるか、ぜひとも注目してみたい。

↑C11形蒸気機関車と並ぶのは14系座席車。JR四国から譲渡車両で、改装され使われる予定だ
↑C11形蒸気機関車と並ぶのは14系座席車。JR四国から譲渡車両で、改装され使われる予定だ

 

↑C11形蒸気機関車の運転室。207号機はJR北海道の苗穂工場で整備の上、東武鉄道へ引き渡された
↑C11形蒸気機関車の運転室。207号機はJR北海道の苗穂工場で整備の上、東武鉄道へ引き渡された

 

【沿線施設など】転車台も起終点の2駅に設置される

今回のSL大樹の運転に向け、準備されたのは車両だけでない。沿線の施設にも力が注がれる。

 

まずは主要な施設。運行される東武鬼怒川線の下今市駅と鬼怒川温泉駅には、転車台が設けられる。この転車台はJR西日本の協力を仰いだ。それぞれ長門市駅と三次駅にあった転車台が運ばれ整備される。C11形はローカル線区用の機関車で、方向転換をせずともバックでの走行が可能だ。だが、あえて起終点の駅に転車台を用意した。

 

さらに南栗橋車両管区内には、新たにSL検修庫を造り、試験用の線路も設けた。こうした諸施設の整備を見るだけでも、東武鉄道のSL運転にかける“本気度”がうかがえる。SLの運転に携わるスタッフの一人、船田博美さんは次のように話す。SL運転の難しさと共に、やりがいを強く感じているようだ。

↑「SLの運転は難しいが、やりがいがある」と話す船田博美さん。南栗橋に専用の検修庫も造られた
↑「SLの運転は難しいが、やりがいがある」と話す船田博美さん。南栗橋に専用の検修庫も造られた

 

「10か月間、大井川鐵道にお世話になりました。栃木を離れて単身赴任も経験しました。蒸気機関車は電車と違って日々、様子が違います。例えば雨の日、蒸気の上がり具合も異なります」(船田さん)