「私はこれまで、偶然のひらめきで、価値ある発明をしたことなど一度もない。すべての発明というのは、その発明に関わった人の想像を絶するような熱意が注ぎ込まれているものなんだよ」
かつて発明王のエジソンはそう言いました。この名言が著者の頭に浮かんだのは、2020年2月9日~12日にかけて米テネシー州ナッシュビルで開催された「3DEXPERIENCE WORLD 2020」に参加して、熱弁を振るう起業家たちの姿を見ていたときのこと。ここには、エジソンの言葉を体現している人たちが集まっていました。
3DEXPERIENCE WORLD 2020は、フランス最大のソフトウェア企業「ダッソー・システムズ」の年次イベントです。フランスを代表するコングロマリットの1つ「グループ・ダッソー」の子会社である同社は、航空宇宙・ハイテク・都市計画・建築・自動車など、様々な業界に3D設計のテクノロジーやソリューションを提供。CAD(コンピューター支援設計)やプロダクト・ライフサイクル・マネジメント(PLM)関連のソフトウェアを含む同社のサービスは、世界各国のスタートアップや大企業などで使われています。
昨年までダッソー・システムズは、ユーザー向けイベントの「SOLIDWORKS World」を20年にわたり開催していました。それを発展させたものが3DEXPERIENCE WORLD 2020ですが、この変化の背景にあるのは、単なるモノづくりからプラットフォーム思考への移行。同社は、設計から工程管理、テスト、データ管理まで幅広い作業を行うための基盤となる「3Dエクスペリエンス・プラットフォーム」を2012年に導入しており、イベント名の変更には、今後このプラットフォーム上でユーザーたちをもっとつないでいくという意図が込められています。今年は「Discover your new potential(可能性を発見しよう)」というテーマのもと、エンジニアや起業家、学生、各業界のビジネスリーダーなど約6000人が一堂に会しました。
1日目の全体講演は朝8時半から。その前に会場へ着いたときには既に開演をいまかいまかと待ち構える参加者の姿がたくさんありました。開場すると同時に参加者たち一気に駆け込んでいきます。彼らの表情はウキウキしていました。
開催期間中の全体講演では、クラウドファンディングのKickstarterの共同創業者チャールズ・アドラー、セグウェイ開発者のディーン・ケーメン、アイアンマンの様な空飛ぶジェットスーツを開発したリチャード・ブラウニング、アスリート用の義足を作るパラリンピックの金メダリストのマイク・シュルツなどの著名人による講演を聞くことができたほか、展示場では100社以上のパートナー企業のプロダクトを見ることができました。彼らは自分のやりたいことを実現するために、仕事に熱中し、失敗しても挫けずに立ち上がってきたのです。
3Dエクスペリエンス・プラットフォームでは、AIを活用した高精度なプロダクト設計から動作シミュレーションまで行うことができるうえ、試作にかかるコストを削減しながらスムーズに生産へと移行できます。AIやテクノロジーの進歩と聞くと、「人間の仕事を奪う」という脅威論を思い浮かべる人も多いかと思いますが、この点に関してダッソー・システムズのSOLIDWORKSのCEOジャン・パオロ・バッシ氏は次のように言います。
「最先端にいる立場として私たちも自動化について議論を重ねてきました。文献にも当たってみましたが、例えばマッキンゼーの2015年の報告書では自動化が完全に雇用を奪うことはないと報告されています。つまり、自動化は既存の仕事の補助に近いものなのですね。自動化によって業務を削減することができるため、クリエイティブな仕事に時間を充てられるようになります。クリエイティブな仕事はコンピューターにできるものではありません。人間の視点が必ず必要なのです。義肢の開発などはその最たる例でしょう」
筆者は一昨年と昨年にこのイベントを取材しています。様々な見方がありますが、過去のイベントと比較して、今年はテクノロジーが人間の可能性や身体能力を高めてくれることが、筆者にとってよりリアルなものとなりました。AIを含めテクノロジーは、あくまでも人間の発明を補助するツールでしかない。テクノロジーを怖がらず、むしろそれを積極的に生かして自分のビジョンを実現する。起業家や発明家たちはそう伝えていました。
これから随時公開していく3DEXPERIENCE WORLD 2020レポートでは、彼らがどのような思いで仕事に取り組み、どのようにアイデアを実現していくのかを明らかにしていきます。
(取材協力: ダッソー・システムズ)