発明へと駆り立てるもの
私たちは毎日働きます。仕事をする理由は人それぞれかもしれませんが、どのような意識を持つべきでしょうか? ケーメン氏の場合、彼を発明に駆り立てるものは「人を助けたい」という思いのように見えます。
次のストーリーを考えてみましょう。米国国防総省の担当者がケーメン氏を訪れ、戦争で腕を失った若い兵士たちのために義手を作ってくれないかと依頼しました。担当者は、義手の仕様を皿にあるブドウを自分でつまんで食べられるようにしてほしいと注文したそう。
当時、ケーメン氏は仕事を大量に抱えていたうえ、そのような義手を開発するのは技術的に不可能だと思ったそうです。一応ケーメン氏は戦争で腕を失った兵士に会いに行き、ヒアリングを行いました。しかし話を聞いていくうちに、どんどん自分の気持ちが変わっていきます。最終的には「彼らのために絶対、義手を作るんだ」と考えるようになり、その後は義手づくりに猛烈に取り組みました。
そうして誕生したのが、電動義手のLUKE arm(製品名の由来はスターウォーズのルーク・スカイウォーカー)。もちろんブドウをつまんだり、スプーンを使ったりできます。本製品は2014年に米国食品医薬品局(FDA)に認可され、16年には英国マンチェスターのMobius Bionicsと提携し、製造体制を整えています。
ケーメン氏は講演のなかで「発明は世の中の人々に受け入れられてこそ意味がある。発明品は使われなければ意味がない」とたびたび繰り返していました。彼の言葉は、「重要なのは、有用性だ」と言った発明家のエジソンと通じるものがあります。アメリカ人らしいプラグマティックな精神を持つケーメン氏は、まだ69歳。ますます時代が不確実になるなか、彼の発明力や考え方はますます役に立つかもしれません。