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2020/4/13 18:50

アイアンマンになれる日はそう遠くないかも!「空飛ぶジェットスーツの開発」から見える「経験」の大切さ

映画「アイアンマン」シリーズで印象的なのは、特殊なスーツを着用した主人公トニー・スタークが、掌と足の裏からジェットを噴射して高速で飛び回る姿です。そんなスーツは映画のなかにしか存在しないと誰もが考えるでしょう。少し前だったらその通りでしたが、時代は進歩しました。アイアンマンに出てくるようなジェットスーツは、実際にイギリスのGravity Industries(GI)社で開発されています。


どのようにしてGIは「空飛ぶジェットスーツ」を作るようになったのでしょうか? GIのリードデザイナーを務めるサム・ロジャース氏が、航空業界に新機軸をもたらしたジェットスーツの開発について3D EXPERIENCE WORLD 2020で話してくれました。

↑空飛ぶジェットスーツについて話すGravity Industriesのサム・ロジャーズ氏(Courtesy of Dassault Systèmes)

 

空飛ぶジェットスーツを最初に考案したのは、GI創業者で発明家のリチャード・ブラウニング氏。もともと金融街で石油取引に従事していた彼は、昔から空を飛びたいと考えており、知人らと話すうちにジェットスーツを本当に作りたいと思うようになりました。当初は仕事後や休日を使ってジェットスーツの開発に取り組んでいたそうです。

 

「まずはターボジェットエンジンをホームセンターで購入して手に装着してみました。操縦するのは意外に簡単でした」とロジャース氏は当時を振り返ります。これは行けるかもしれないと好感触を得ると、次は両腕に1個ずつジェットエンジンを装着しました。この段階ではまだ浮力が十分でなく、ぴょんぴょんと跳ねる月面宇宙飛行士のような感じだったそうです。

 

今度は腕に2個ずつジェットエンジンをつけました(両腕で計4個)。すると滞空時間が増加。操縦ももっと簡単になったそうです。ジェットエンジンの数をさらに増やせばいいのではないか? ブラウニング氏は両腕に3個ずつジェットエンジンを装着してみました。しかし、これだと操縦が難しく、バランスを取れなくなってしまったのです。

 

「ジェットエンジンを3個ずつ腕につけると、思うように操縦することができなくなりました。この収穫を生かして、両腕に2個ずつ、両脚に1個ずつジェットエンジンを付けることにすると、バランスが取れるようになり、最終的には滞空時間6秒を記録しました」(ロジャース氏)

 

千里の道も一歩から

↑身近な場所から始まり、進歩を遂げてきたGIの空飛ぶジェットスーツ(Courtesy of Dassault Systèmes)

 

空飛ぶスーツの開発経緯のなかで興味深いのは、ホームセンターで購入できる材料を使っている点です。アイアンマンのような空飛ぶジェットスーツを開発すると聞けば、普通は「冗談でしょう」と思ってしまうもの。でもGIの場合、身近な所から少しずつ始めて、ジェットエンジンを1個だけホームセンターで購入し、アルミ製の筒にジェットエンジンを括りつけ、結束バンドで身体に括りつけただけです。どんな発明も最初の一歩はシンプルなのかもしれません。

 

そこには、経験を重んじるイギリス的な精神も見られます。アイデアが思いついたら、まずはあり合わせの材料で組み立ててみて、実際にうまく行くのかどうか試してみる。最初から頭であれこれ考えても、正解など出るわけがなく、むしろ当たって砕けたほうがいい。この言葉通り、GIのメンバーは何度も空中から地面に落下しながら身体で学び、空飛ぶジェットスーツを開発していったように見えます。

 

取り越し苦労をしないようにしつつ、頭は冷静でいることが大切です。例えば、生産コストの問題。何千ものジェットスーツのパーツを個々に生産し、それらを結合させると、コストがとても高くなってしまいます。そこで、この問題を解決するために、GIは3Ⅾプリンティングを導入。すると、すべてのパーツを一気に成形することができるようになり、コストを下げることができました。まだまだ高額なものの、ジェットスーツの価格は1台約5000万円です。

 

GIはジェットスーツを改善していきました。最初は玩具のようだった見た目もますます洗練されています。「ジェットスーツは映画の世界から出てきたようなもの。なので実際に映画に出てくるような見た目に仕上げたかったのです」とロジャース氏。飛行速度も上がっていき、ブラウニング氏は2019年11月15日に時速約137キロを達成しています。

 

今後はジェットスーツを使ったレースを開催するなどして、その認知度や世間の関心を高めていくというGI。現状ではジェットスーツがどの程度実用的なのか不明ですが、それでもフィクションだった空飛ぶジェットスーツをノンフィクションにしたことは純粋に驚くべきことです。航空工学の世界にイノベーションを起こすジェットスーツのパイオニアから目が離せません。