2030年までに10億人の子どもたちがコーディングを学習できるように助けたい——
目を輝かせながら語るのはシリコンバレー在住の11歳の起業家Samaira Mehta(サマイラ・メフタ)さん。子ども向けのコーディング学習のためのボードゲーム「CoderBunnyz」の開発から、Googleでのワークショップ開催といった活動を経て、破壊的な創造力で自分の信じる道を切り拓いています。
テクノロジー化が進む社会で、次世代を担う子どもたちにどんな力が必要とされるのか? 親や教師として、あるいは社会は子どもたちにいま何ができるのか? 本稿では、サマイラさんとのインタビューを通して、このような問いかけに対するヒントを二編に分けて探します。前編では、彼女が起業家になった背景や若き起業家としてのマインドセットについて、彼女の失敗と成功のプロセスにフォーカスしながらお伝えします。
——サマイラさんは、コーディング学習用のボードゲームを作り、11歳ですでに起業家として活躍されているわけですが、どのようなことがきっかけでコーディングや起業に興味を持つようになったのですか?
サマイラ 私が初めてコーディングに触れたのは、6歳のときです。すべては父のいたずら心から始まりました。ある日、父が「美人だと思ったら、このボタンを押してください」と書かれたスクリーンを私に見せてくれました。それで、私はそのボタンをクリックしたのですが、すると急にボタンが消えてなくなってしまいました。
私が「何が起こったのだろう?」「私はきれいじゃないということなの?」と戸惑っていると、父がその種明かしをしてくれました。つまり、コーディングの仕組みを教えてくれたのです。このカラクリを知って、同じようないたずらを自分の友だちにもしてみたいと思い、ワクワクしながらコーディングについて学ぶようになりました
単なるいたずらから始まって夢中になっているうちに、コーディングそのものについて友だちと話すようになったのですが、周りには「コーディングの何が面白いのかわからない」とか、「どうしてコーディングなんか好きなの?」という友だちがほとんどでした。コーディングの面白さを友だちにもわかってほしいという思いから、楽しくコーディングを学べる方法はないかなと思うようになりました。そこで思いついたのが、ボードゲームをしながら遊びの延長でコーディングを学べるゲーム、CoderBunnyzです。
——起業に関してですが、興味のあることを実際にビジネスにつなげようと行動する人は多くはありません。日本では特にそうですが、サマイラさんが起業しようと思ったのはどうしてですか?
サマイラ 起業のことですが、私は起業やビジネスをしようという気はまったくありませんでした。友だちがコーディングはつまらないというので、どうしたら面白いと思ってもらえるのだろうという気持ちで最初はやっていましたので。ただ、プロトタイプを作って、友だちにやってもらっているうちに、コーディングを楽しんで学ぶことは可能だと思えるようになったのです。
そこから、自分の友だちだけでなくて、もっとたくさんの子どもたちにコーディングの面白さをわかってほしいと思うようになりました。たくさんの子どもたちが来そうなところを考えたときに、思いついたのが図書館。まず自分がいつも行っている近所の図書館でワークショップをさせてもらえないかとお願いすることにしたのです。
でも図書館では、「まだ6歳でしょう。こんな小さい女の子にワークショップは無理だと思うよ」と言われることが多かったのです。でも、断られてもあきらめずに、別の図書館も回ったりして、ワークショップをやらせてもらえないか聞き続けました。それで、やっとある一つの図書館が「いいアイデアだわ。あなたならできると思うよ」と言ってくれて、そこからほかの図書館でもワークショップをするようになりました。図書館でワークショップをするうちに、子どもたちの親からこのコーディングゲームはどこで買えるのかと聞かれるようになり、そのときに初めて、より多くの人に販売するビジネス、そして、起業を考え始めました。
——すごい行動力ですね。スピードは起業家として必要なことだと思いますが、サマイラさん自身は起業家としてのマインドセットとして、どのようなことを大切にしていますか?
サマイラ 一番重要なのは、やり遂げようという強い意志だと思います。絶対に諦めないスキルですね。これは、生まれつき持っているものではなくて、身に付けることができるスキルです。何か失敗したときに、「もうダメだ。これ以上できない」と思うのではなく、それでも前に進み続けるマインドセットが起業家には必要です。
強い意志を持ち続けることが最も重要だと思います。起業家といっても、成功し続けるわけではないので、困難に直面したときにやり抜く力が必要なのです。トンネルの先には光があると信じて。私にもたくさんの失敗がありますが、そのなかの一つがその先の成功に結びつくかもしれないと思い挑戦し続けることです。
——具体的な例を教えてください。
サマイラ 例えば、コーディングを楽しく学ぶ方法としてボードゲームを作ろうというアイディアが浮かんだとき、両親にそのことを話しました。そのときに両親は「ゲームを作るっていうことがどんなことか知っているの? まだ6歳でしょ」と言っていました。
ただ、両親は私のやりたいことをいつもサポートしてくれていたので、できないのではないかとかは言わなかったですね。その代わりに、「どうしたらできるようになるか自分で調べてごらん」と言われました。そこから、私は自分で調べて、ゲームを作るためには、スケッチを書いて、グラフィックデザイナーを見つけて、プロトタイプを作って、テストをし、最終的に商品化する流れを知りました。もし、自分で調べるのを途中でやめてしまっていたら、いまの私はないと思います。
図書館もそうです。6歳の子にワークショップはできないと言われても、諦めずに、ほかの図書館を回ったからできるようになりました。図書館に行って、デモをして、OKがでるまで諦めなかったからです。そのおかげで、いままでに何百ものワークショップをやりましたし、教えた子どもは何千人もいます。
いままでにボードゲームを開発しているときも、ワークショップに関しても、うまく行かなくて、もうできないと思ったときもありました。現在でも、もちろん「もうダメだ」と思うときもあります。でも、そこで踏ん張り、やり続けることで、自分の限界を広げていくことができます。最後には出口があると信じて、やり抜くのです。そのようなマインドセットがあれば、どんなことでも可能になると思います。
両親とメンターの存在
——起業家は特に、いろんな人からのサポートや助言が必要なときがありますよね。サマイラさんには、サポートしてもらったり、アドバイスをもらったりしている人はいますか?
サマイラ はい、何かをやり遂げようとするとき、誰でも一人ではできません。まず、私の両親は一番の理解者です。常に相談にのってくれ、私が必要なときは色々な面で助けてくれます。
ただ、特にメンターの存在は大きいと思います。メンターがいることは、とても重要で、起業家には大きなインパクトがあるといえます。わたしのメンターは6年生を教えている先生です。この先生は、私の先生ではありませんが、私の作ったCoderBunnyzを最初に使い始めた人の一人です。この先生は私のLinkedInをみて、CoderBunnyzのことを知ったそうです。クラスで生徒たちにコーディングを教えていていたことから興味をもち、私に連絡がありました。何度かお話しているうちに、彼からとても学ぶことが多いことに気づいたのです。それで、私からメンターになってもらえないかとお願いして、メンターになってもらったのです。
メンターからは、いろいろなフィードバックがもらえますし、新しいアイディアを提案してもらったり、さらによくするためにはどうしたらいいのかなどもアドバイスをもらったりしています。例えば、私がワークショップで教えているところをみて、大人数向けのワークショップではどのように教えるのがいいのかアドバイスしてもらったこともあります。
彼は学校で教えているので、生徒の反応を見ながら、ゲームの内容についてフィードバックをしてくれるのです。この先生が私の一番の支援者だと思います。先生なので、実際に教育現場で使ってみた後にフィードバックをもらえるのがとても貴重です。コーディングを誰にでもわかるようにするというのが、私の本来の目的なので、私の商品は彼のような現場の先生からのフィードバックに支えられているといえます。
前編では、サマイラさんが起業家になった背景や起業家としてのマインドセットなどについてお聞きしました。後編では、彼女が取り組んでいるキャンペーン「10億人の子どもたちにコーディングを」と、ご自身の幼少時代を振り返り、起業家を育てるために親世代ができることについて伺います。