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2020/8/11 18:30

急速に変わる「買い物」のカタチーー「C&C」や「VPS」に取り組むイギリスからのヒント

小売り業界はどうやって新型コロナを乗り越えようとしているのか? 世界中で消費行動が変わり、デジタルへの移行がトレンドになっていますが、スーパーから百貨店、ラグジュアリーブランドまで、さまざまなお店が新しい環境に適応しようと奮闘しています。3か月以上のロックダウンが明けたばかりのイギリスでもさまざまな取り組みが見られ、そこからは小売サービス業の進化と課題が見えてきます。

 

「ネットで注文・店舗で受け取る」が増加中

↑オンラインの買い物がますます進化

 

イギリスではロックダウンの開始前にパニック買いやオンラインショッピングが急増し、食料品では「バーチャル行列」も起こりました。しかも、ようやく順番が来てカートに品物を入れても、配達スタッフ不足のためにデリバリーは数週間先という状態。このような事態を受けて、ネット注文した商品を店舗や専用ピックアップポイントで受け取る「クリック&コレクト(C&C)」の利用者が激増しました。

 

大手スーパーの「セインズベリーズ」によれば、同時期のC&C利用者は普段に比べて13倍にも増えたそう。店舗が完全封鎖となったデパートやアパレル店もC&Cに注目し、コンビニや郵便局など住宅地にある店舗と提携するなど、受け取り場所を大幅に増やしてサービスの向上に取り組んでいます。

 

事前予約で販売員付きの買い物を楽しむ「VPS」

さらに、C&Cに続いて登場したのが「バーチャル・パーソナル・ショッピング(VPS)」。このシステムを一般家庭向けにいち早く導入したのは、ベビー&マタニティグッズを揃える「ママス&パパ」でした。VPSと一般的なオンラインショッピングとの違いは、VPSでは自分専用の買物タイム(1時間)を予約でき、商品知識が豊富な販売員さんとビデオ会話をしながら店内をまわって商品を選べることです。出産を控えた大切な時期ということもあり、外出を避けたい妊婦やパートナーに好評でした。

 

家にいる時間が増えたことから、DIYやガーデニング、インテリアの模様替えなどマイホーム改善に精を出す人も急増。インテリア用品を扱う「ダネルム」でも、しっかり吟味して決めたいオンライン買い物客のためにVPSサービスを始めました。

 

また、デパートの「ジョン・ルイス」は来店を避けたいお客のために、パーソナル・スタイリスト付きのVPSを提供しています。リアル店舗ではスタイリストが付いた買い物に抵抗がある人でも、バーチャルであれば、気楽にプロのアドバイスを受けられると好評で、メンズ・レディースファッション部門に加えてホーム部門でも行われるようになりました。自宅への配送だけでなく、C&C形式でお店の駐車場までスタッフが商品を運びトランクに入れてくれるなど、クルマから降りる必要がない非接触サービスも実施しています。

↑自分専用の買い物時間が予約できるようになった(画像: ジョン・ルイスのWEBサイトより)

 

1歩進んだラグジュアリーなパーソナルサービス

ジョン・ルイスは2019年末に「ジェームズ・ボンドがジョン・ルイスで買い物するなら」というコンセプトを用い、パーソナルサービスを提供するメンズ用ラグジュアリー・ショッピング・ゾーン「スピークイージー」を開設して話題を集めていました。残念ながら現在は試着やスタイリングなど接触が伴う店舗内サービスはクローズしたままですが、このようなパーソナルなショッピングサービスをバーチャル空間に移行し、一般向けに変えたのがVPSといえるでしょう。

 

この点において注目すべきは、ラグジュアリーブランドのグッチ。同社はVPSをさらに1歩進めて、フィレンツェにバーチャル専用スタジオを作り、優雅にショッピングを楽しめるサービス「グッチ・ライブ」を開始しました。専属スタッフが手取り足取りリアル来店さながらのパーソナルサービスで対応してくれるもので、今後ヨーロッパ各都市や米国、アジア圏でも同サービスを拡大する予定としています。イギリスの高級ブランドもグッチの取り組みに注目していることでしょう。

 

リアルとのギャップをいかに埋めるか?

↑実際にお店で買い物した気分になる?

 

3か月におよぶロックダウンはイギリス人の行動を大きく変えました。オフィスワーカーの大半が現在もリモートワークを続けており、実店舗をめぐる人の流れもこれまでとはまったく異なります。

 

安全性と利便性からオンラインショッピングは定着するでしょうが、従来の実店舗型ショッピングには恋人や友人、家族と一緒に出かけて飲食もするなど、オンラインでは得られない楽しみがあります。オンラインの買い物にとっては、このようなリアルショッピングとのギャップをどう埋めるか、そしてバーチャルでしか味わえない特別な体験をどのように提供するかが、これからの大きな課題となりそうです。

 

執筆者:ネモ・ロバーツ