オーストラリアに「フェアリーサークル(妖精の輪)」と呼ばれる謎の自然現象が起きているのをご存知でしょうか? 乾燥した草原に草木が規則正しく円形の模様を作り、それが無数に並んでいるのです。このような不思議な現象がなぜ起きるのか、その謎を解くカギがわかりました。
フェアリーサークルの存在がわかったのは2014年ごろ。直径2~15メートルの穴が規則正しく無数に草原を埋め尽くしており、地上にいると識別しづらいものの、上空から見ると不思議な模様が広がっていることがはっきりとわかるのです。
この原因について、これまでにさまざまな説が唱えられてきました。シロアリなどの昆虫が植物の根をかじるとか、土中の一酸化炭素が関係しているとか。しかし先日、ドイツのゲッティンゲン大学の研究者を中心としたオーストラリアとイスラエルとの共同チームが、ある数学者がおよそ70年前に提唱した「チューリング・パターン」が当てはまると明らかにしたのです。
チューリング・パターンとは、イギリスの数学者アラン・チューリングが1952年に発表した理論。2つの物質があったとき、濃度の濃い物質と薄い物質が空間に繰り返し模様を作り、これを「反応拡散方程式」と呼ばれる数式で証明したのです。おまけに、この数式はシマウマ、ヒョウ、魚などの模様についても当てはまり、自然界で作られるさまざまな模様をこの理論で説明することができたのです。
ひょっとしたらこの理論が使えるのではないかと考えた同研究チームは、ドローンや空間分析、フィールドマッピング、現地の気候データなどをもとにフェアリーサークルの解析を実施。その結果、チューリング・パターンがフェアリーサークルにも当てはまることがわかりました。
では、なぜ植物はこのような模様を作ったのでしょうか? 答えは明らかにされていませんが、このフェアリーサークルがある場所は乾燥した地帯で、土中の水分量が限られていると見られます。ここからひとつ考えられるのは、植物がフェアリーサークルを形成することで水分を確保し、生命を維持できているのではないかという仮説。研究者たちは「フェアリーサークルがなければ、この地域は砂漠になっていた可能性がある」と述べており、植物がわずかな水分量の環境下でも成育するために、自然とフェアリーサークルのような形を形成していったと予想できるそうです。
今日のコンピューターの理論的な原型とされるチューリング機械を考案したチューリングは1954年に亡くなっており、当然このフェアリーサークルの存在など知ることはありませんでした。それでも、自然界でできる不思議な模様について70年前に数式で証明していたとは、その知性に改めて驚嘆してしまいます。チューリング・パターン説の検証を進めるため、フェアリーサークルの研究は今後も続きます。