ここ数年、気候変動への懸念とリチウム電池の小型化といったテクノロジーの進化を背景に、ヨーロッパでは「eバイク(電気自転車)」の人気が高まっています。なかでも大きな注目を集めているのが、「自転車のdisrupt(創造的破壊)」を掲げるスタートアップ企業が作るハイテクな「スマートeバイク」。一体どんな自転車なのでしょうか? 欧州の自転車文化に触れながら、現地で評判になっている3社のスマートeバイクを見てみましょう。
クルマよりも自転車
ヨーロッパ、特にオランダやドイツ、フランスでは、もともと自転車で颯爽と通勤するビジネスマンが多く、スポーツとしての自転車カルチャーも盛んです。週末や休暇に郊外へと向かうクルマに長距離用スポーツ自転車が積まれることが多いのはその一例でしょう。
それに加え、筆者が住むドイツを中心に欧米の比較的教育レベルが高い40代以下の層は、気候変動への影響が少ない生活スタイルを好む傾向があり、「ガソリン車よりも電気自動車、しかしクルマよりも自転車」というマインドがここ10年ほどでかなり浸透しています。
欧州各国政府も排ガス量緩和と市民の健康向上を目指して自転車活用に力を入れており、専用レーンの整備も進んでいます。コロナ禍では多くの人たちが公共交通の使用を避けていますが、eバイクは人との接触を避けながら手軽に移動できるうえ、駐車場の有無を心配する必要もありません。ドイツではeバイク購入に補助金を出している自治体もあるほどです。
このような背景のなかでハイテクかつシャープなデザインのeバイクの人気は急上昇してきました。このような自転車を取り扱うスタートアップ企業が2020年に次々と大型の資金調達を発表したこともその人気を裏付けています。
【その1】日本にも進出しているオランダの「バンムーフ(VanMoof)」
ここからは欧州で高い評判を得ている3社のeバイクについて述べていきます。まずはバンムーフ。同社は数ある欧米系eバイクのなかでも唯一日本に進出しているブランドとなります。最大のアピールポイントは、ケーブルやライト、バッテリーまで、すべてがフレームに埋め込まれているというスタイリッシュな外観と、鍵が不要という施錠システム。
後輪の小さなボタンを蹴ればロックが完了し、アプリの起動状態でハンドルバーのボタンを押すだけで解除が可能です。盗難防止用の警報や追跡システムが完備されたうえ盗難時の保証が付き、14日間の無償返品期間もあります。専用アプリからはアシストの強弱、自動ギアシフト、スピード上限などさまざまな設定ができるのに加え、走行距離や経路、時間、速度の自動記録も可能です。
以前は3500ユーロ(約40万円)だった価格も、生産量を増やしたり、前モデルと同型のフレームを採用したりすることでコストを下げ、最新モデルでは価格が1998ユーロ(約25万円)になりました。
難点は車体に埋め込まれたバッテリーを取り外せないことで、自宅の駐輪場にコンセントがなければ自宅の中まで自転車を運ばなくてはなりません。同社に問い合わせたところ「最近は街中に電源付き駐輪場が増加中」との回答でしたが、この点は改善を期待したいですね。
とはいえ、クールなeバイクという戦略が功を奏してか、今年の日本での売り上げはすでに去年の倍以上とのこと。日本でバンフームブームが起こるかもしれません。
【その2】バッテリーが取り外せるベルギーの「カウボーイ(Cowboy)」
次は、マットなブラックボディとケーブル埋め込み型のシンプルな外観が人気のカウボーイ。その最大のポイントは、バッテリーが取り外せることです。外せないeバイクが増えているなか、実用面で優位性が高いことは間違いありません。
このカウボーイに試乗を申し込むと、なんと自宅まで来てくれました。普通は店舗に行くのが当たり前なので、秀逸なサービスといえるでしょう。
専用アプリでは、走行距離や速度の記録、アシストの設定などができます。持ち主が近くにいない状況で自転車が動かされるとアラームが鳴ったり、事故に遭えば自動検知して持ち主や事前登録した電話番号に連絡が行ったりなどのフォロー態勢が整備されています。
価格は2290ユーロ(約28万円)で、購入後30日間という長期の返品に対応しています。欧州企業でカスタマーサービスは軽視されがちですが、高額商品だけに安心して購入してもらえるように試乗や返金などのサービスに力を入れているようです。
残念ながら現在の販売は欧州のみですが、問い合わせたところ、詳細な時期は未定ながら日本への進出準備も進行中との回答があったので楽しみです。
【その3】クラシックなデザインのエストニア発「Ampler(アンプラー)」
バンムーフとカウボーイが「メカっぽさ」を重視しているのに対し、3つ目のアンプラーはクラシックな外観が特徴です。色も赤、深いグリーン、鮮やかなブルー、シックなグレーを揃えており、目新しさやおしゃれ感よりも「自転車らしさ」を好む層をターゲットにしている模様。バッテリーは車体に完全に埋め込まれているのでスマートに見えますが、残念ながらバッテリーは取り外しできません。
専用アプリではモーターの強度変更やナビ機能の調節、走行距離やスピードの自動記録、バッテリーの残量確認などが可能です。走行モードはノーマルモードとブーストモードで切り替えができ、立体駐車場の急な坂で試乗してみましたが、センサーが自動で反応するので自然にスイスイと上れました。価格は2490ユーロ(約30万円)と上記2つのモデルより少し高めなものの、その性能はドイツの自転車雑誌でもランキング上位に選ばれるほど優秀。返品・返金可能期間は14日間となります。
日本には未上陸ですが、欧州ではドイツが最大の市場ということでベルリンとケルンに店舗がオープンしたばかりです。ドイツ西端のケルン店は近隣国からの顧客も見越した場所となっているので、欧州ならではの販売戦略といえるでしょう。
【まとめ】
まだ価格は高く、都市部の比較的高収入な世帯がメインターゲットのeバイクですが、需要の伸びに伴い価格低下が見込めることから、コロナ収束後も人気は加速していくと思われます。既存自転車メーカーもベンチャーに負けまいと市場に乗り出しており、欧州はまさにeバイク戦国時代といった様相を呈しています。各社が日本にこぞって進出する日も近いのではないでしょうか。