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2021/1/5 6:00

イタリアの「学校給食」が貧弱化。新型コロナの影響が子どもの食事にも。

学校に通う子どもたちには、おいしくて健康的な給食を食べさせてあげたいもの。多くの大人はそう思いますが、イタリアでは昨年から気になる変化が起きています。

 

同国では毎年「Foodinsider」というオブザーバー組織が学校給食の献立や栄養などを調べ、優れた給食を提供する都市をランキング形式で発表しています。同団体はイタリアがロックダウンを経験した2020年も調査を実施しましたが、イタリアの学校給食が新型コロナウイルスから深刻な影響を受けていることが明るみとなりました。

↑給食の中身も空っぽに?

 

ロックダウン前の給食事情

ここ数年、Foodinsiderが発表するランキングでトップを保持している都市は、北イタリアのクレモナです。新型コロナウイルスによる犠牲者が多かったことでも知られるクレモナですが、ここでは給食のために本職のコックを雇用しています。

 

評価が高い理由は料理の美味しさだけではありません。WHOの指標に従って野菜や魚をバランスよくメニューに入れるだけではなく、赤身の肉や加工肉を減らし、ヘルシーな白身の肉をより活用している点などで高いポイントを獲得しました。

 

クレモナ以外でも、トップ10の顔ぶれはこの数年間変わっていません。トップ10の常連は、アドリア海に面するファーノやイエージ、リミニ、北イタリアのトレントやマントヴァなど。ポイントが高くなる特徴として、ユネスコの世界遺産にも登録された「地中海式食事法」の主要食材のひとつである豆類の使用頻度が高いことが挙げられます。

 

また魚料理もシーチキンなどの加工品ではなく、アドリア海や地中海で獲れた新鮮な魚を使って調理。さらに、昨今のイタリアの食事情を反映させて有機野菜の使用頻度も高く、これもポイントに加算されます。

 

一方、首都ローマは16位、北イタリアの大都市ミラノは25位でした。ポイントが低い理由は、ハムやソーセージなどの加工肉や揚げ物が多すぎることや、パスタやコメに加えてじゃがいもなど炭水化物が多すぎることなどが挙げられます。イタリアで子どもの肥満は社会問題となりつつあり、実に5人に1人は該当するといわれているのです。そうした事情も考慮し、カロリーが高すぎたり栄養が偏ったりという給食はポイントが低くなっています。

 

ロックダウン後にメニューが貧弱化

↑おいしくて健康的な給食はどこへ……

 

イタリアは2020年3月5日に学校を閉鎖し、再開したのは9月に入ってからでした。ロックダウンを経て学校給食にはどのような変化があったのでしょうか? Foodinsiderが調査した結果、特に顕著だったのはメニューの貧弱化です。

 

チーズやバター、オリーブオイルでパスタを和えただけの「パスタ・ビアンカ」や、トマトソースをからめただけの「パスタ・ロッサ」が以前よりも頻繁に提供されるようになり、ペーストを絡めただけのパスタやピザが提供されることも多くなりました。旬の食材をパスタに入れるような手の込んだメニューは珍しくなってしまったのです。ミネストラと呼ばれる野菜スープは姿を消し、加工品のミートボールが幅を利かせるようになったことも報告されています。

 

Foodinsiderの報告によれば、以前は給食の内容をチェックしていた保護者の干渉も、ロックダウン解除後は激減したそう。各地の学校でクラスターが発生しているため、親も給食の内容まで目が届かないという事情があるのかもしれません。

 

いつもは環境問題に重きを置いて授業を進めているのに、コロナ感染拡大の影響で使い捨て食器の使用が大幅に増えたことも学校にとっては頭の痛い問題。さらに各市町村によって異なるものの、予想もしなかった使い捨て食器代が給食財政に重くのしかかってきたのです。

 

Foodinsiderのランキングでは23位と振るわなかったヴェネツィアでは、ロックダウン以前から給食のための食器を家から持参するルールが定められていましたが、今後はヴェネツィアのように現状に即したルールを取り入れる自治体も増えていく可能性があります。

 

一方でロックダウン中には国民の食料廃棄削減への意識が高まりました。従来のイタリアンマンマたちの間では「嫌いなものを無理に食べさせるなんて子どもがかわいそうだ!」という意見が大半でしたが、ロックダウンを経て食料ロスに関する教育が必要だという声も高まっています。

 

Foodinsiderの懸念は、イタリア国内の給食事情におけるポリシーの両極化にあります。ある自治体は給食を「食育」の場ととらえ、コストがかかっても質の良い給食を提供しようと努めています。実際、ランキング5位のリミニではロックダウン後に給食従事者を新たに12人も雇用し、栄養面と衛生面に万全を期しています。それに対して、効率化ばかりに注目し、子どもたちを満腹させればよいという自治体も少なくありません。

 

給食の時間が静かに

今回の報告で最も興味深かったのは、給食の時間が静かになったこと。イタリアの子どもたちはよくいえば天真爛漫で、給食の時間は嫌いなおかずが宙を飛んだり食事中に席を立ったりと、おしゃべりが絶えずに喧騒状態というのが常でした。しかし、ロックダウン後は飛沫が飛ぶことを理由におしゃべりが禁止され、コロナの怖さを充分に理解している子どもたちは静かに給食を食べるようになったそうです。この点だけを見ても、2020年はイタリアの給食事情に大きな変化があったといえるかもしれません。