ワールド
2020/12/4 6:00

なぜイタリアが? 「コロナ対策サプリ開発」にハイテンションで取り組むワケ

2020年、イタリアでは新型コロナウイルスによって食生活において様々な変化が見られました。自家製のお菓子やパンを作るために小麦粉が品切れになったり、食料廃棄が減ったり。

 

しかし、海外にはあまり知られていないのが、サプリメントの消費動向の変化。実はイタリアはサプリメント大国でもあり、国内の各大学ではワクチンの普及に時間がかかることを見越し、ウイルスに対抗できるサプリメントの研究や開発が広がっています。

↑イタリア人はサプリもこよなく愛する

 

イタリアは欧州でも有数のサプリメント消費国です。イタリア薬剤師協会の調査によると、2019年にサプリメントを日常的に摂取しているイタリア人の数は3200万人に上り、全人口のおよそ65%になるそう。サプリメントの国内市場規模は33億ユーロ(約4200億円)で、欧州全体の23%を占めています。

 

イタリアのサプリメント事情についてもう少し細かく見ると、働き盛りの35歳〜64歳による消費が約63%となっている一方、全体の消費人口の65%近くを女性が占めています。スーパーマーケットでも購入できるという手軽さも、サプリメントの普及に拍車をかけているといえます。

 

なぜイタリア人はこれほどサプリメントを愛好するのか? それについては諸説ありますが、サプリメントの動向を調査する機関「FederSalus」のマッシミリアーノ・カルナッサーレ会長は、そもそも「ティサーナ」と呼ばれるハーブティーを健康や美容のために飲む習慣があったイタリアは、その流れでサプリメントの需要が伸びたのではないかと推測しています。

 

ロックダウンでサプリの消費が拡大

サプリメントについては健康だけでなく美容を意識した商品の需要も高く、従来は乳酸菌やミネラル塩を含む商品が売り上げの上位を占めていました。ところが、新型コロナの感染拡大に伴いロックダウンが実施されて以降、イタリア人が心身ともにストレスにさらされている状況がサプリメントの消費動向を通じて明らかになったのです。

 

イタリアの食産業を調査するイタリアフード協会の調査によると、これまで人気が高かった乳酸菌やミネラル塩のサプリメントを抜き、ビタミンBを含む商品の売り上げが30%、睡眠やリラックス効果に関する商品が21%、喉に関する商品が12%増加したことがわかりました。

 

また、免疫作用を強化するとうたわれているサプリメントの売り上げも30%以上増加するなど、記録的な業績となったのです。普段はサプリメントを摂取していない人でも、マルチビタミンなど手に取りやすい商品を購入するようになり、こちらも5.7%の売り上げ増となっています。

 

新型コロナを意識したサプリメントは売り上げが伸びたものの、薬局や店舗、オンラインなどを合わせたサプリメント全体の消費量はコロナ禍の経済状況を反映するようにマイナスとなりました。薬剤関係のデータを調査するニューライン・リチェルケ・ディ・メルカートによれば、2019年と2020年のある同じ時期を比べて、今年の消費量は1.6%減少しているそうです。ただしオンラインでの購入は30%以上増加しており、こういった消費動向もコロナ禍時代の特徴といえるかもしれません。

↑以前ほど店頭では売れません

 

コロナ感染予防を巡って品切れとなったサプリメントもあります。ローマのトル・ヴェルガータ大学のエレーナ・カンピオーネ教授が率いる研究班は今年6月、学術誌「International Journal of Molecular Sciences」にラクトフェリンに関する研究を発表しました。その論文ではラクトフェリンが新型コロナの感染予防に効果があるとされ、ニュースでも大きく取り上げられたのです。すると、そのニュースを見た人が薬局などに殺到し、ラクトフェリンのサプリメントがあっという間に品切れになってしまいました。

 

ラクトフェリンとは乳汁、涙、唾液、胆汁、膵液といった分泌液などに含まれる、抗菌活性を持つとされる鉄結合性蛋白質です。同大学の研究結果は現在、ラ・サピエンツァ大学の微生物学教授やラクトフェリン研究者たちによる客観的な検証の段階に移っていますが、もちろん、その成果に懐疑的な学者も少なくありません。しかしカンピオーネ教授は、ソーシャルディスタンスとマスク以外の新型コロナへの対抗手段としてラクトフェリンの有効性を証明したいという強い意欲を示しています。

 

また、中世からの伝統を誇るボローニャ大学は、クローブや小麦麦芽を使用して、新型コロナ感染予防のためのサプリメントを開発していることを発表しました。同大学のジョヴァンニ・ディネッリ教授のチームは、クローブに含まれるユージノールと小麦麦芽中に含まれるスペルミジンという成分が新型コロナの感染予防や治療に有効という可能性を提示し、ウィルスに対抗する免疫強化サプリメントの開発を目指しています。

↑目下研究中!

 

果たしてこういった成分が本当に有効な武器となるのかどうかはまだ断定できませんが、同教授はワクチンが開発され、普及するまでの手段としてこのサプリが役に立つことを願うと述べています。とはいえ、このようなサプリに関する研究結果については早急な判断を控えるようにという専門家の忠告もメディアではよく目にします。

 

ラクトフェリンや自然の成分を原料にしたサプリメントが新型コロナの予防や治療にどれだけ効果を発揮するのかについては、専門家の間でもさまざまな意見があります。いずれにしても、サプリ好きのイタリア人の消費動向はコロナの感染拡大によって大きく変化しました。ロックダウンによって食事に関しても健康志向がさらに高まったイタリアでは、「新型コロナにかからないように用心する」という切なる思いがサプリメントの選び方や開発にも表れているようです。